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サルベクトの破滅(後編)

 その日の深夜、王都の豪商サルベクト商会の倉庫の一つで火災が起きた。


「火事だ!早く消せ!」


「ダメだ!次々に燃え広がって手がつけられない!逃げろ!」


「おい、倉庫の地下にガキ共がいるはずだぞ。どうする?助けに行くか?」


「おい、おまえら魔人のガキだけは死んでも助けろ!あいつらには、おまえらが一生働いても払えないくらいの大金が掛かってるんだ!

人間のガキはどうでもいいから魔人のガキは絶対助けろよ!」


 商会に雇われている男達は、人間の子供達を見捨てる事に決めて、魔人の子供だけ連れて逃げて行った。


「ひでーな、人間の子供は死んでもいいのかよ!こっちは見捨てて逃げて行ったぞ。まあ予定通りなんだけどさ」


 燃え盛る炎の中から現れたのはバルーダとガルーダだった。

この火は、彼らの幻影と幻覚魔法でできていたのだ。


「トルク、ソフィア、今のうちにこっちの子供達を助けてやってくれ」


「任せろ!」


 トルクとソフィアが熱くもない幻の火を通り抜けて駆けて行った。


「助けてー!」


 地下の檻の中では、地上の騒ぎが恐怖を呼び、火事から逃れようと人間の孤児達が泣き叫んでいた。

到着したトルクが落ち着かせようと大声で叫ぶが、誰一人として聞いてくれない。


 そこへ突然美しい女神様が現れて、「人間の子供達こっちに逃げなさい」と誘導してくれた。

泣いていた子供達は突然現れた女神様にビックリしていたが、優しそうな女神様の言葉に泣くのをやめて付いて行った。


「助かったよ、バルーダ!ガルーダ!」


「いや泣いてる奴らを黙らせるのは大変だからな。

それより、女神出したから火事の幻影の方が消えちまった。急いで逃げるぞ!」


 女神様もやはり彼らの作った幻影だった。

今は女神様の姿に見えるソフィアが子供達を先導して建物から逃げ出していた。

 そしてソフィアが作った隠れ家に子供達を避難させたのだ。


 ソフィアが作った地下の隠れ家は、広くは無いが16人の子供達が暮らすには充分な大きさがあった。

男女で別れる2つの部屋があり、ベクトラムの収納から生活に必要な家具が運び込まれていた。


「はあ〜、逃げ切った…」隠れ家に着いて一休みする間も無く、トルク達は子供達に事情を軽く伝え、子供達の年や名前を聞いて回った。

一番小さい子は3才、大きい子はトルクと同じ10才だった。

その10才の男の子は、トルクが逃げ回っていた頃に見覚えがある顔だったので、彼をリーダーに決めて食べ物や着替えを渡し、水の魔石で風呂を使う方法を教えて帰った。

 明日は魔人の子を救出しなければならない。

トルク達は準備しなければならない事が山程あったのだ。



 次の朝、トルクは城の通用口に行く登り坂の前にいた。

トルクが日銭を稼ぐ為に荷馬車を押す仕事をしていた場所には、今日もお金を稼ぎたい多くの子供達が待っていた。

 以前、臭いから帰れと言われたトルクだったが、今はお風呂にも入って清潔な格好をしているので、この間のように拒否される事は無いだろう。

しかし、今日は別の目的があった。


「ねえ君、前に俺が臭いから、お風呂に入って臭くなくなったら、また仕事しに来て良いって言ったよね?」


 トルクは、並んでいる子供達の中で帰れと言った男の子の前に立った。


「あっ、おまえ前に風呂入ってなくて臭かった奴か。

今日は臭くねーな。良いぜ、後ろに並びな!」


「いや、今日は仕事を頼みたくて来たんだ。1回馬車を押すだけで銀貨1枚の仕事なんだけど興味無い?」


「えっ、銀貨!やるやる!やらせてくれ!」


 トルクはそこを仕切っている男の子と話を付けた。他にも何人か雇うと時を待った。


そのうち1台の、疲れた顔の二人の男が乗った荷馬車がやって来た。


「昨日の晩は火事騒ぎで、えれー目にあったぜ!」


「聞いたぜ。でも火が消えたら何も燃えてなかったんだろ?

奇妙な話だろ?それで大事を取って後ろのガキを夜中に別の倉庫に移す事になったわけよ」


御者台にいる2人は、喋りたくてたまらないのか、あの後、サルベクト商会で起った事をベラベラ喋っていった。


「移したんだけど、旦那様がそこも置いとくのは不安だから、すぐに買い主の所に届けるって言い出してよ。だから昨日寝てなく眠いっつーのに、朝からこんな仕事が入ったわけよ。だけど城にこんなの魔人のガキなんか買う奴がいるのかね?」


「いや、それ詮索するのはやめとけ。魔人のガキを売り買いしてるのが表沙汰になったら捕まっちまうんだ。

後に乗せているのは野菜と小麦粉だ。俺たちゃ余計な事は考えねーで、何も知らねーって言っとけば良いのさ」


サルベクトは昨日の火事騒ぎで、せっかく集めた孤児達が何者かに奪われたのを知り、更に魔人の子も奪われるのではないかと不安になった。

だから急遽、魔人の子供をヘプカバルド王子の元に届ける事にしたのだ。

朝、7人の魔人の子供達は、幌の付いた荷馬車に乗せられた。手には枷が付けられたが、歩いて荷馬車に乗れるよう足枷は外された。

 荷馬車は上り坂に差し掛かってしばらく走っていたが、急にスピードが落ちていった。

御者席から「荷物が重くて登れねー、そこの荷押しのガキ手伝えや!」と声が聞こえた。


「はーい!」という声と一緒に子供達がわらわらと駆け寄って行った。そしてその中の2人が隙を狙って荷台に乗り込んで来た。

乗りこんだ2人子供は入って来ると、魔人の子に「黙って」という仕草をして、手を縛る縄を切っていった。

そして魔人の子供の角を隠すよう自分の帽子を脱いで被せると、馬車から降りるよう指示した。

登り坂でスピードが遅い馬車から飛び降りるのは容易で、魔人の子供は次々に飛び降りた。

そして馬車を押すように言われて、その通りにしたのだった。


 城の通用門に着くと、御者台にいた男が荷押しの子供達に小銭を手渡していった。


「あれ、何かガキの数が多いな。まあ馬がなかなか進まなかったから仕方ないか」


 男達はそう言うと馬車に戻り通用門を通って去って行った。

 残された子供達は平然とした様子でその場を離れて坂の下に戻った。


 そう、荷押しの子供達に魔人の子供が紛れていたのだった。

昨夜、トルク達は魔人の子を乗せる荷馬車がわかるように、倉庫にあった荷馬車全部に目立たない目印を付けた。

そして朝、目印が付いた荷馬車が来た時にバルーダとガルーダが馬に幻覚をかけた。

荷物が重いと錯覚した馬は坂を登るのを嫌がった。

そうすると荷押しの子供が呼ばれる。

その子供の中からトルク達が馬車の中に入って、繋がれている縄を切って、角を隠した魔人の子供達は荷押しの子供と一緒に荷馬車を押した。

そして普段通り、子供達はお金をもらって坂の下に戻った。

その結果、彼らは誰にも気付かれる事無く逃走できたのだった。


 ベクトラムの家に無事に着いた魔人の子供達は、魔王ベクトラムの登場に驚いた。

 しかし自分達が救われたと教えられると、涙を流して喜んだのだった。



その頃、王城では


「サルベクト!魔人の子供が一人残らずいなくなったとはどういう事だ!」


「はい、申し訳ありません。昨夜何者かの仕業で魔人の子供を捕らえていた場所で火事騒ぎがありました。

私は大事を取って、別の倉庫に魔人の子供を移しました。

しかし火事があったと思った倉庫は、燃えた跡が無かったのです。

これは何者かが魔人の子供を奪う目的で襲ってきたに違いありません。

ですから、魔人の子供を王子の元に早く送ろうと、今朝お城に送り届けたのです。

しかし、荷馬車に魔人の子供が一人も乗っていなかったと言うのです。

私としても安全の為にお城に送っだというのに、城の中で行方がわからなくなったという訳で、お城の管理体制はどうなっているのかと不安に感じている次第であります」


「自分の責任では無いと言いたいのか!」


「いえいえ、そんな滅相もございません。しかし全ての責任が私共にあると言われるのも心外だと申し上げたいと…」


「サルベクト、其方王都に住む孤児を捕らえて売り捌いているようだな。まさかとは思うが、魔人の子を乗せて来た船のついでに人間の子を乗せて、魔界で売り捌こうなど考えておらんよな?」


「えっ…」サルベクトの顔がサッと青ざめた。


「下の兄上の情報網に引っかかったようだ。もしそのような事をしている者がいたら、財産は没収。親族一同もろとも縛り首。

もし、そんな悪人に関わった王族がいたら、王籍剥奪はもちろん。国外追放は免れないだろうねと笑いながら言われた」


 サルベクトは全身をガタガタと震わせ、立っていられず手をついて跪いた。


「私はこの件から引かせてもらうよ。私は何も君の店に注文していないし、君が何をしていたのか知らない。ああ、証拠の書類は自動発火の魔法がかかっているから、私を訴えても無駄だよ」


 そうヘプカバルド王子は言うと、サルベクトを連れて行くよう命じた。


 その後、サルベクト商会には兵士が踏み込み財産は没収。サルベクトは処刑されて、魔界と人間界を結ぶルートも潰された。






 窓の外で1匹のカラスがヘプカバルドとサルベクトのやり取りを見ていた。

そしてカラスは満足そうに「カァー!」と鳴くと、翼を広げ飛び立って行った。






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