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使い魔カーク

動物を料理する場面があります。

目にしたくない方は読まないのをお勧めします。

 次の日の朝、トルクとベクトラムは台所にいた。

昨日のスープの残りを朝食に食べようと準備していたのである。


「ベクトラム様、このスープの鍋に浮かんでいる丸いのは何ですか?」


トルクは、指で浮かんでいる丸い物体を突ついてみたが何かわからなかった。


「何って犬の目玉だぞ。犬の肉は美味かっただろう」


トルクは「えっ!」と叫ぶとベクトラムの方を振り返った。


「俺は昨日、犬肉のスープを食べたって言うんですか!」


「家の周りをうろついていた野良犬が2匹いたからな。1匹だけ仕留めて1匹は明日の晩に使おうと残していたんだ」


 ベクトラムは褒めて欲しいと訴えるようにトルクに向かって「ニカっ」と笑った。


目玉入りのスープには、よく見ると他にも得体の知れない物が浮かんでいる。これは何だ!これは!

お腹が空いていたとはいえ、このスープを俺はおかわりして食べたのか!


「ベクトラム様、野良犬を食べるのはやめてください。これ血抜きもしてないですよね?鍋の中が生臭いし、それに虫や病気を持っているかもしれません。解体や料理の方法は誰かに教わったのですか?」


「へー、血抜きってあるんだ。トルクは難しい事知ってるな。料理を習った事は無いな。ミルバに食べさせたパン粥は、子供の頃母が作ってくれたから見て覚えていたけど、料理はした事が無かったから初めて作ったんだ」


 ベクトラムは、そう言って鍋のスープをお玉ですくって飲んだ。


「うーん、まずい!やっぱり魔王城の料理人が作ったのと違うな」


「えっ、魔王?」


 鍋の中身の事だけでもそれどころでは無いというのに、またとんでも無く気になるワードが出て来た。


「あっ、言ってなかったか?俺、この間まで魔王だったんだ。まあ魔界を追放されて人間界に来たんだけどな」


「えええええっ!」


 トルクの悲鳴が部屋中に鳴り響いたのだった。







 そして同じ頃、王都の晴れた青空に黒い点が現れた。

その黒い点はぐんぐん王都に近づいてくると、王城の尖塔の上に止まった。


「マオーサマ マオーサマ ドコイッタ カアー!」とその鳥は叫んだ。





 目玉やいろいろな物が浮かぶスープを適正に処理(廃棄)した後、パンだけで朝食を摂ったベクトラムの異空間屋敷では、目が覚めたミルバにベクトラムが白豆をすりつぶしたスープを飲ませていた。


「ベクしゃま、このシュープおいちぃ!」


「そうか、良かった。この豆のスープは、樽のような女将が教えてくれたからな。これは美味いはずだ。栄養がたっぷりあるからすぐ良くなるぞ!」


「ベクトラム様違うでしょう。[樽酒と美味い料理の女将の店]の女将さんが教えてくれたのでしょ。樽のような女将って言ったらまた女将さんにぶっ飛ばされますよ」


朝、目玉の浮かぶスープを見て悲鳴を上げたトルクは、ベクトラムと一緒に行きつけの料理屋にスープの作り方を教わりに行ったのだ。

 その時ベクトラムは、女将につい「樽のような女将」と言って派手にぶっ飛ばされた。

そうして間違っても女性に「樽」と言ってはいけないとベクトラムは学んだのだ。

その後、何とか病人の胃に優しい豆のスープの作り方を教わりミルバに飲ませる事ができたのだった。


 スプーンですくって口元に持って行くと、ミルバが「あーん」と口を開いた。

開いた口にスープを入れてやると、もぐもぐごっくんするミルバがとてもかわいい。


「給餌作業というのは初めてしたが、なかなか楽しいものだな」


 魔界に子供が増えてきたとはいえ、魔王城は大人ばかりで周りにこんな小さい子供はいなかった。

 初めての給餌作業に緊張しながらもベクトラムは楽しい時間を過ごしていた。


「スープを飲んだら、トルクと風呂に入って来るか?」


 まだスープしか口にできないほど弱っているミルバだからお湯に浸かるのは無理だろうが、もう何日もお風呂に入っていない体でいるのはさすがにまずい。

兄のトルクと風呂に入らせて、その間にシーツを交換して着ている物を洗濯しようと考えていたら、彼らの着替えが無い事に気がついた。


「トルク、着替えを買いに行こうと思うのだが…トルク?さっきまでいたのにトルク!どこ行ったんだ?」


 その頃、トルクは城の通用門に至る上り坂の下にいた。

ここは城に食材を運ぶ荷馬車が通る道なのだが、坂が長くキツいので、たまに登れない荷馬車がいるのだ。

そういった荷馬車を通用門まで押して上がると銅貨を3枚もらえる。

 トルクは逃走中の食料を調達する為に、ここで小遣い稼ぎをしていたのだ。

彼は同じように小遣い稼ぎをしたい子供達と立ち往生する荷馬車待ちの順番待ちの列に並んでいた。

 いつもはお腹が空いている上、寝不足なので1回押して上がるのがやっとだったが、今日は暖かいベッドでたっぷり寝て、朝ごはんまで食べたのだ。

5回は行けそうな気がしてトルクは張り切って荷馬車を押していた。

 安全で快適な家に置いてもらうなら、妹と2人分の家賃と食費をいくら払えば良いのだろうか?

ベクトラムは元魔王様とか、いろいろ問題はあるが、信用できる良い人だと思う。

 あの家にいつまでいられるのか不安もあるが、ミルバだけでも置いてもらえるように少しでも金を稼ごうとトルクは一生懸命働いた。


 城に荷物を納める荷馬車は早朝から午前中の間が多い。

あと1回上まで運べば5回分稼げるぞ!と思っていた時、いきなり後ろから腕を掴まれた。


「おいお前、孤児だよな?」


 腕を掴んだのは、同じくらいの年の体の大きい男の子だった。


「お前臭いんだよ!風呂にも入れない孤児はあっちに行け!」


 トルクはそう言われて気がついた。王都に来て1ヶ月、そういえば風呂に1回も入っていない。服も洗濯していないから汚れている。臭いと言われて急に恥ずかしくなった。


「もし、風呂に入って臭くなくなったらまた仲間に入れてやる。俺らも金が欲しいのは一緒だからな。

だからその匂いをどうにかして来い!」と男の子は言った。


 荷馬車を押して稼ぐ子供達がじっと自分を見ている。

トルクは仕方なく順番待ちの列から離れて、いつも寝ていた橋の下に行った。


 この川に飛び込んで体を洗ったらキレイになるだろうか?

もう夏も終わり初秋の季節だ。ちょっと寒いだろうが凍える事は無いだろう。

トルクが川を覗き込んでいた時だった。


「この川に飛び込むのはやめた方が良いと思うよ」


 トルクがビックリして振り返ると、頭からスッポリとマントに身を包んだ一人の子供がいた。


「この川は町の下水が流れ込んでいる。そんな汚水に飛び込んだら、入る前より汚れるよ」


 そう言われると川から汚水の臭いがしてくる気がしてきた。

川に飛び込む前に教えてもらって良かった。


「ありがとう!飛び込んでたら大変な事になる所だったよ」


 トルクはマントを着た子供にお礼を言った。


「なんて事無いさ。君も孤児だろう?お互い様だ」


「えっ、君も孤児なのか?」


「いや、私は攫われてきたんだ。家は遠くにある」


 王都の孤児狩りとは別に、よその村や町で子供を攫って人買いに売る奴等の話を聞いた事はあったが、当人には初めて会った。

トルクは手を差し出して言った。


「僕トルク!妹が一人いる。君の名前は?」


「私の名前はソフィア」と手を差し出した時、マントのフードがズレて頭が見えた。ソフィアの頭には角があった。


「角が…」


ソフィアは慌ててフードを被り直した。気まずい空気が流れていると、橋の上から「いたぞ!こっちだ!」と声が聞こえた。


 孤児狩りの奴等に見つかったか…トルクは舌打ちした。

孤児狩りはいつも夜中にやって来る。昼間だと平民の子供も町中を歩いている。

孤児か孤児でないか分かりにくいのだ。

 だが夜中なら外にいる子供は間違い無く孤児だ。だから安心していた。奴等は昼間は襲って来ないと。


「こっちだ!」トルクはソフィアの手を取ると、反対側に駆け出した。

 この辺の地理は知りつくしている。逃げ道には自信があった。

だから忘れていたのだ。今は昼で隠れる暗闇が無い事を。


「ははっ、逃げ足は早いが昼間に逃げるのは慣れていないようだな。子供二人で逃げ切れると思うなよ」


 袋小路に追い詰められた俺達は、増えた追っ手に捕まる寸前だった。

 ああ、ここで捕まるのか。ミルバがここにいなくて良かった。だけど俺がいなくなったら寂しがるかな?

ベクトラムさんに妹を頼みますって言いたかった…と考えいたら、目の前を黒い物体が通過した。

「えっ」と驚いていると、その物体は方向変換してまた戻って来た。


「コッチダ カアー!」


 一羽のカラスがやってきて羽根を広げて旋風を起こした。

砂や砂利が追っ手の全身を打ちつけ男達は怯んだ。

 その隙に俺達はカラスの後を追って大通りに出た。

昼間の大通りは人混みでごった返していて、その中に入ればもう見つけられない。

 俺達は噴水の近くに腰を下ろして息を整えた。


「オマエ マオーサマノ ニオイスル ツレテケカアー!」


「魔王様?」


「マオーベクトラムサマ シッテル カアー!」


 「ベクトラム様なら知っている。あの人に会いに来たのか?」


「ソウダ カアー」


 喋るカラスはベクトラム様の所に行きたいようだ。僕はソフィアも一緒に家に連れて行く事にした。


「ここだ」


俺は倒れそうなボロ屋しか見えない建物の前に連れて行った。

 でもここは魔力が無いと入れないって言ってたから、ベクトラム様を呼んで来た方が良いのかな?と思っていたら、カラスは器用にくちばしでドアを開けると中に入って行った。


 おっと、カラスも魔力を持っているのかと驚いていたら、ソフィアも中にスッと入って行ったので俺も慌てて中に入った。


「マオーサマ サガシマシタ カアー!」


 中に入ると、ベクトラム様の周りでカラスが嬉しそうに飛び跳ねていた。


「お前はカークじゃないか。よくここがわかったな。魔界から飛んで来たのか?大変だったろう」


 どうやらカークは本当に知り合いみたいだ。

魔界と人間界、離れている二つの大陸の距離はわからないけど、カークの羽根は痛んでボサボサだし、遠い所から旅をして来たのだけはわかった。


「ああ、おかえりトルク。このカラスは私の使い魔でカークと言う。頭が良いから人間の言葉も理解しているぞ。

一緒に住む事になるだろうから、よろしく頼むな。

そういえば、ミルバは起きてスープを飲んだらまた寝たんだ。今のうちに洗濯したいから風呂に入ってくれるか?」


 そこまで言って、もう一人部屋にいる事にベクトラム様は気がついた。


「そちらは?」


ソフィアは、着ていたマントのフードを下ろすとこう言った。


「私はソフィアと申します。あなた様は魔王ベクトラム様だとお聞きしました。魔界では魔人の子供をが悪人によって誘拐されて、この国に連れてこられているのです。魔王様、私達を助けてください!」


ベクトラム様の前に進み出たソフィアはそう言って跪いた。


 












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