異世界から来た物
今回場面が慌ただしく変わります。
(神殿学校 卒業式会場)
国で一番の高等教育を受けられる神殿学校では、初等科、中等科、高等科を終えた学生に修了証を渡す卒業式が行われる。
この修了証があれば、大陸中のどこの国の大学にも無試験で入れるし、どこの国の官吏も神殿学校の修了証が無ければ、職に就く事は出来なかった。
そんな国の将来を背負う若者達と顔を繋ぎ、将来性のある者を青田買いしようと、国王から貴族、また官吏の管理職までが卒業式に参列するのが恒例になっていた。
特に、今年は勇者が卒業するという事で、勇者の姿を一目見ようと、会場には人が溢れかえっていたのである。
そんな中で、卒業式は厳かに行われた。が、式中嗚咽をこらえながら泣く保護者の姿があった。
ベクトラムである。
ベクトラムは、子供達が立派になった姿を見て、感極まって泣いていたのであった。
そんな周りがドン引いている中、式は無事終了した。
式が終わると、卒業生は外に出て着ているマントを空に向かって投げる。
これは卒業式の風物詩で、それを見るために人々は講堂から外のグランドに集まっていた。
そして、生徒会長の「卒業おめでとう!」の声に合わせて、卒業生がマントを脱いで空に向かって投げた瞬間、それは起こった。
(ヘプカバルド公爵邸)
ミュリアがいる檻を乗せた荷馬車の列は、王都の門を潜った。中の魔物達は暴れないように、事前に眠り薬を与えられていたので、混乱も無く荷馬車はヘプカバルドの公爵邸に到着した。
公爵邸の庭は植えられていた木が伐採され、地面に巨大な魔法陣が描かれていた。
ヘプカバルドが王子の時に見つけた、異世界から聖女を召喚する召喚陣である。
そこでヘプカバルドは、公爵家の騎士団を使い、配置の指揮に追われていた。
「ヘプカバルド様、魔物は全て眠らせたまま、召喚陣の中に搬入致しましたが、この魔人の女はいかがなさいますか?先程から目覚めて抵抗致しておりますが」
眠り薬に抵抗力のあるミュリアは、魔物より早く目が覚め、魔法で攻撃してくるのだと言う。
「えい!今から魔力を奪うというのに、魔力を使わせるな!呪文を詠唱できないよう口を覆って拘束しておけ!」
「はっ!」
ミュリアは口を覆われて、手足を拘束されて召喚陣の中に放り込まれた。
その様子を屋根の上から、ベーテと子供達は見ていた。
カークがベクトラムに知らせる為に飛び立った直後に、ベーテは子供達の元に帰って来たのだった。
ベーテはカークに会えなかったが、子供達は会って会話をする事ができたのだと言う。
子供達は、父親に名前を伝え少しだけ話をしたと、興奮しながらベーテに教えてくれた。
ベーテもカークに会いたかったが、カークと子供達が会えたなら、もう良いかと思い、ベーテはミュリアの元に残ったのだった。
「カークったら遅い!ミュリア様が変な魔法陣の中に入れられたというのに、ベクトラム様の助けはまだなの!」
そう言っているうちに準備が整ったのか、ヘプカバルドが魔法陣の前で呪文を唱え始めた。
すると、魔法陣が光って異様な姿を現していった。
ベーテは焦った。これではベクトラムの助けは間に合わない。それなら自分がやらなければならないのは、ただ一つ。
「サーラ、グート、ビート、ジーラ!母さんはミュリア様をお助けしに行きます。あなた達を残して行ってごめんね。元気で大きくなるのよ」
ベーテはそう言うと、子供達の「母さん!」「行かないで!」と言う言葉に、後ろ髪を引かれる思いを封印してミュリアの元に飛んだ。
「ピカッ」と光った魔法陣は、輝きを増し、「ドドドドドドドドオォォォォォ」と、音も大きくなり続けていった。
(神殿学校 校庭)
生徒達がマントを放った瞬間、それは起こった。
神殿学校の隣にある、元王子だったヘプカバルドの公爵邸から、眩い光が放たれたと思うと、「ドドドドドドドドオォォォォォ」と大きな音が聞こえ、生徒達は皆、耳を押さえて蹲った。
ちょうどその頃、神殿の結界に阻まれベクトラムに近寄れなかったカークは、ようやくベクトラムに近づく事ができた。
「ベクトラム様、ミュリア様が人間界に来て助けを求めておいでです。犯人は以前、魔人の子供を集めていたヘプカバルド王子が怪しいと思われます」
「ミュリアが?」
ベクトラムがそう言って聞き返そうとした時、神殿学校の隣にある屋敷から、強い光と大きな音が聞こえたのだった。
卒業式に参列していた国王は、突然起こった強い光と音に驚いていたが、すぐにこの騒ぎの元がヘプカバルドの屋敷だと気がついて、警備に当たっていた騎士団に「ヘプカバルドだ!ヘプカバルドが何かを企んだに違いない!ヘプカバルドの身柄を押さえ、この状態の詳細を知らせよ!」と叫んだ。
騎士団の数名が直ちにヘプカバルド邸に走って行った。
生徒も参列していた貴族達も不安そうにそれを見ていた。
国王が叫んでいるのを聞いて、この騒ぎの犯人がヘプカバルドだと気がついたベクトラムは、カークに隣の屋敷を見てくるよう指示した。
カークは、直ちにヘプカバルド邸に飛んだ。
カークがヘプカバルドの屋敷の上に行くと、庭に巨大な魔法陣が光っているのが見えた。
「何なんだ、あの魔法陣は…」とカークが見ていると、屋根の上から「父さん!」と叫ぶ子供達がいるのが見えた。
急いで近づくと、「魔法陣にミュリアや魔物が入れられて、誰かが呪文を唱えたら、光と音が放たれたんだ!母さんがミュリア様を助けるって魔法陣の中に飛び込んだんだよ!どうしよう!」と子供達は口々に訴えた。
「あの魔法陣の中にミュリア様とベーテが…」
徐々に光がおさまったが、魔法陣の中にあれだけたくさんいた魔物やミュリアとベーテの姿は無かった。
すると、魔法陣の中からジワリジワリと湧き出して来る物があった。
そして、それはどんどん量を増やして広がっていったのである。
呪文を唱えて、空から聖女が現れるのを今か今かと待っていたヘプカバルドだったが、危険を察知する能力だけは高い。
魔法陣の中から、自分の方へ向かって溢れてきた流動体に気がついて、近くにいたブサンベルトをそちらに突き飛ばした。
「ヘプカバルド様!!」
急に突き飛ばされて安定を失ったブサンベルトは、その流動体に向かって倒れてしまったのだ。
ブサンベルトがそれに気がついた時、彼の身体は流動体に飲み込まれていた。
ブサンベルトが飲み込まれたのを見て、周りの者は、助けようともせず悲鳴をあげて逃げて行った。飲み込まれたブサンベルトの身体は、見る見るうちにドロドロに溶けていった。
「うわ〜!人が溶けたぞ!これは人食いスライムだ!皆逃げろ!逃げるんだ!」
公爵邸にいた人々は、我先に逃げ出した。
魔法陣からは出て来る人食いスライムは、益々量を増して流れ出て来て、止まる気配が無かった。
「大変だっ!」
大量の人喰いスライムがブサンベルトを飲み込んだのを見たカークは、屋根の上に止まっていた子供達に王都から離れた所に逃げるように言った。
「だけど父さん怖いよ!一緒にいてよ!」
母親のベーテが、あの召喚陣に飛び込むのを見たばかりだ。それで不安になるなと言う方がおかしい。
カークは、子供達を大きな羽根で包み言った。
「グート、サーラ、ビート、ジーラ、お前たちが不安になるのはわかる。だがこのままだと、あの人食いスライムが王都に住んでる人々を襲うかもしれない。この事を早く伝えなければ、死ぬ人が増えるだろう。
父さんも怖い。だけど私は行かないといけないんだ。
おまえ達が安全な所にいると思ったら、父さんは全力で頑張る事ができる。お願いだ皆、父さんの為に逃げてくれないか」
こんなに大きくて強い父さんも怖いんだ。自分達と同じなんだと思ったら、子供達も父と一緒に頑張ろうという気がしてきた。
「わかったよ、父さん。僕たちは避難するから、父さんも気をつけてね」
と言うと、4羽は揃って飛び立った。
カークも、急いでベクトラムの所に戻った。
「ベクトラム様、ヘプカバルド王子の屋敷の庭に巨大な魔法陣が描かれており、そこへ魔物やミュリア様を生贄にして何かを召喚しようとしたようです。
しかし、召喚されたのは人食いスライムで、何人もの人々が既に食べられた模様です」
ベクトラムは驚いたが、すぐに状況を整理し動いた。
「皆、来てくれ!」
集まって来た子供達に即座に指示を飛ばす。
「人食いスライムが現れた。王都にいる人を地下に掘ったスペースに逃す。神殿の近くに出入り口を作っていたな?バルーダ達は出入り口を隠していた幻影を解いてくれ!
人々が逃げ込んだら、ソフィア達は出入り口を封鎖してくれ!
王都にある全部の出入り口を開けるんだ!早く民衆を安全に誘導して、できるだくたくさんの人を収容してくれ!」
「わかりました!」ソフィア達が慌てて走って行った。
「トルク達勇者パーティーは、勇者の剣や魔法がスライムに通用するかどうか確認!ただし、あまり近づき過ぎないように!」
「わかりました!」トルクも走って行った。
次にベクトラムは国王陛下の元に行って伝えた。
「私は、ベクトラムと言うものでごさいます。
じつは、事後報告になりますが、王都の地下に地下空間を作っておりました。広い地下空間ですので、そこへ王都の人々を全員収容できます。全員避難したら、出入り口を封鎖し、人食いスライムが入って来られないようにします」
国王は、王都の地下に空間があると知らされ驚いた。ベクトラムを問いただそうとしたが、ベクトラムは更に言い募った。
「人食いスライムから王都の人が逃れられた後、勝手に地下を掘った罪は、私が全ての責任を取ります。しかし今は時間がありません。一人でも多く助けたいのです。ご協力頂けないでしょうか?陛下がそちらにお逃げ下されば、この場にいる貴族達も従って逃げるでしょう」
国王は、覚悟を決めたベクトラムの顔を見て、この件は、終わってから考える事にした。たしかにベクトラムが言う通り、今は時間が無い。
「では世話になる」
国王は、警護の騎士達に言った。
「私の警護は少しだけで良い。残りの者は、ベクトラム殿の指示に従って民衆の避難誘導するように!」
「はっ!」
直ちに騎士団長は地下通路の出入り口を聞いて担当を振り分け、多くの騎士が民衆の誘導に散った。
さすがは本職の騎士達である。行動が的確で素早かった。
「では、騎士団長様、陛下の先導をお願いします」
「わかった。陛下の事はお任せあれ」
神殿学校の卒業式に参列していた生徒も参列者も騎士団の誘導で地下空間に入る出入り口に向かって走って行った。
ベクトラムが神殿学校にいた人々が避難するのを見届け、ヘプカバルドの屋敷の方へ走って行くと、トルク達勇者パーティーが追いかけてきた。彼らは、人食いスライムにダメージを与える方法をいろいろ試してみたらしい。
「ベクトラム様、スライムはこの[勇者の剣]なら切れるようですが、切られるのがわかると[勇者の剣]だけ避けるようになりました。他の武器は切ったり傷を与える事が全くできませんでした。
クリスやガイの火や水魔法攻撃も通用しません。
かえって魔法攻撃すると、動きが良くなるので困っている状態です。どうしましょうか?」
「そうか、やはり勇者に剣しか通用しないのか」
トルクが出した見解にベクトラムは困った表情を見せた。
すると、そこへ大声で喚き散らす2人の男達が走って来た。
「ヘプカバルド様、お待ち下さい。ブサンベルト会長はどこへ行ったのですか?人食いスライムに狙われたあなたの身代わりにされたと言う者がいましたが、嘘ですよね?」
「知るか!私は忙しいのだ!邪魔だ!」
言い争っている2人の言葉を聞くと、一人は今回の事件の件の主犯であるヘプカバルド元王子のようだ。
ベクトラムは、近づいてヘプカバルドの首ねっこを捕まえると、片手で軽々と持ち上げた。
「この人食いスライムがどこから来たのか知っているな?ヘプカバルド!どこから来たんだ?どうやったら倒す事ができる?」
ヘプカバルドは、足をバタつかせて、「言うから離してくれ」と叫んだ。
ベクトラムが手を離すと、ヘプカバルドは尻餅をつき、喋り出した。
「王家の禁書庫にあった、聖女の召喚陣で私は聖女を召喚しただけだ。本当なら魔人の魔力を30人生贄に必要な所を、魔物やオーガの女しかいなかったから、あのような人食いスライムみたいなゲテモノしか召喚できなかったんだ。私は悪くない!」
オーガの女と聞いて、ベクトラムはミュリアが召喚の生贄にされた事に気がついた。
ミュリアに婚約破棄された時は辛かったが、彼女との楽しかった思い出は、それを上回る程残っていた。
気がついたら、ヘプカバルドの首を締めてしたようだ。慌てて緩めて、「こいつはお前に任せる。気がついたら存分に話を聞けば良い」と争っていた男に手渡した。
「ミュリア…なぜこんな事に…」
ベクトラムがショックを受けていると、トルクが大声でベクトラムを叱った。
「ベクトラム様、しっかりしてください!今はここで立ち止まっているわけにはいかないのです。
今現在も、人食いスライムは王都の人を襲ってるんですよ!あなたが腑抜けていてどうするんですか!」
気がつけば、王都のあちらこちらから「助けて!」と人々の助けを求めている声が聞こえてきた。
ベクトラムは、首を振って両手で自分の頬を叩いた。
「トルクすまん!私はもう大丈夫だ。ヘプカバルドが、さっき聖女の召喚陣が王家の禁書庫にあったと言っただろう?」
「はい、魔人を30人生贄にって言っていましたよね」
「あれは実際に1200年前に実際にあった事だが、聖女を召喚したわけでは無いのだ。
魔法使いの青年が、異世界から物を召喚する召喚陣を作った。そして稼働させると、物では無くニホンと言う異世界の国から女の子が召喚されたそうだ。
魔法使いの青年と異世界の少女は、恋仲になったが、そんなある日、このブラード王国の近くでスタンビートが発生した」
「この王都の近くに迷宮があったんですか?」
「そうらしい。そして異世界から来た少女は、自分の持つ空間収納の中に溢れた魔物を入れたそうだ。
そうしてこの王都は守られた」
「その少女は大丈夫だったんですか?」
「この先の話は、王家の禁書庫にも残っていなかったのだろう。少女は魔法使いの青年と結婚した。青年の名前は、ギルバート・ボーゲン。私達の先祖でボーゲン伯爵家の祖になった人だ」
「ボーゲンの家には、異世界人の血が入っているのですか!」
衝撃の事実にトルクは言葉を失った。
「おかしいと思わないか?私の母は人間とは思えない程魔力を持っていたんだ。死んだ魔王を生き返らせる魔法など魔人でも難しいのだからな」
「そうだったんですか」
「時間が惜しい。だから私の空間収納にあの人食いスライムを入れてしまおうと思う。
今からスラム街に作ってある空間屋敷の入り口を人食いスライムの進路上に移す。そして全てのスライムを空間収納に入れたい!」
「わかりました。では人食いスライムを王都の中央にある中央広場に集まるよう誘導します。ベクトラム様は中央広場で準備していてください!」
「頼む!」
ベクトラムは大急ぎでスラム街に作った、空間屋敷の出入り口を閉じた。そしてそのまま中央広場に行こうとすると、ミルバがベクトラムの前に現れた。
「ベクトラム様、どちらに行かれるのですか?
まさか、ミュリアさんの所じゃないですよね?」
「ミルバ、なぜここにいる?人食いスライムが迫って来ているんだぞ!早く地下通路に逃げなさい!」
「嫌です!ベクトラム様がミュリアさんの所に行くなら私も一緒に行きます!」
「ミュリアは死んだ。異世界から聖女を呼ぶという召喚陣の生贄になったのだ」
「えっ…、ミュリアさんが死んだ…」
「時間が無い。ミルバも早く地下に逃げろ!」
そう言って、ベクトラムは中央広場に走った。
王都の中央広場は円状の公園になっており、そこから放射状に馬車が通れる広い道が拡がっていた。
ベクトラムが着いた時には、遠くからでもわかるほど大きくなっていた。そして透明な人食いスライムの中には何人かの人だった物の痕跡が見えた。
しかし公爵邸のある北西から中央の方に向かって来ていたが、そこにあった商店が並ぶ通りに人影は無く、そちらの避難は間に合ったようだった。
ズルリズルリと動いて来る人食いスライムは、更に大きさを増して、その高さは人の高さを超えて壁が押し寄せて来るようだったのだった。
「ベクトラム様、東に拡がっていたスライムは、[勇者の剣]で切りつけ、進路を中央に誘導しました」
「わかった!ではトルク達も地下空洞に避難しなさい」
「ベクトラム様は逃げないんですか?」
「私は最後までスライムが異空間屋敷に入るのを確認する!私の事は心配いらないから先に行ってくれ!」
「わかりました。それでは地下で待っています」
トルク達が地下に避難して、ベクトラムは地下の出入り口の前でスライムの動きを見ていた。
すると、逃げ遅れた人がいたのか、スライムが横道に入ろうといた。
「いかん、そっちじゃない!くそっ、間に合わない!」
ベクトラムが焦って飛び出そうとした時、目の前を黒い物が通り過ぎた。
「カーク?」
ベクトラムの目の前を通り過ぎたカークは、逃げ遅れた人の前に飛び出すと、ベクトラムの方へ方向変換した。カークは魔烏なので魔力を持っている、
人間よりカークの魔力が美味そうだと思ったのか、人食いスライムは、また方向変換してカークを追いだした。
「いいぞ、カーク!そのまま異空間の入り口に連れて来てくれ!」
目が無く、魔力や人間の体温を頼りに動くスライムは、カークに狙いを定めたようだ。
「カーク、異空間には入るなよ!直前まで引きつけたら離脱しろ!」
スライムは、更にスピードを増して追いかけて来た。
もうすぐ異空間の出入り口だ。スライムは異空間の入り口に向かって一直線に進んだ。
異空間から漏れる魔力に気がついたスライムは、自ら入り口に飛び込む体勢に入った。
「カーク、そこで退避!方向を変えろ!」
カークは、ギリギリまで自分が囮になろうとした。出入り口まであと少しだ。もう逃げようか?
いや、ここで失敗したら後が無い。
自分がいなくなっても子供達がいる。ベクトラム様の使い魔として立派にやっていけるだろう。
それなら、自分がスライムを確実に異空間に連れて行ってやる!
カークは、そのまま異空間に飛び込んで行った。
「カーーーク!!!!!!」
カークを追いかけていた人食いスライムも次々と異空間に吸い込まれていった。
召喚陣から召喚された人食いスライムは、公爵邸を飲み込んでもまだ溢れていたのだ。
しかし一度異空間に吸い込まれるスライムは勢いが止まらないのか次々に吸い込まれていった。
ベクトラムの異空間は、魔王城と魔王都の大きさに匹敵するが、異空間にスライムが全て収納できるかベクトラムもわからなかった。
ベクトラムは祈った。
王都の人を助けてくれ!
俺は皆を助けたいんだ!
しばらくして、あれだけ王都に溢れていた人食いスライムの姿が全て異空間に吸い込まれた。
異空間の入り口は消え、スライムの姿も見当たらない。
充分な時を待って地下から出てきた人々は、そこである物を見た。
大きく両手を上げ、立ち塞がるように立つ石像になったベクトラムの姿だった。