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ヘプカバルドの聖女召喚計画

 ベクトラム達が暮らすブラード王国では、6年前に国王が崩御し、第一王子だった王太子が国王に即位した。

 第二王子は隣国の王太女殿下と結婚した。彼は将来の王配になる事が決まっている。

 そして第三王子だったヘプカバルドは、公爵の地位をもらって王籍から抜けていた。

 しかし、昔から兄の国王と昔からソリが合わなかった為だろう。もらった公爵領は国の端も端。

辺境と呼ばれる場所で、ゼフラム大森林という森林帯が領地の半分を占めて、大森林を抜ければ隣国という場所だった。

ヘプカバルドは領地にほとんど帰る事無く、王都の公爵邸で、王子の頃と変わらない自堕落な暮らしていたのであった。



(ヘプカバルドの公爵邸)


 ミュリアを乗せた船がブラード王国に到着する数日前、ヘプカバルドの御用商人になったブサンベルトがヘプカバルドの公爵邸を訪れていた。

 彼は、魔界に人間の孤児を売り飛ばそうとしたサルベクトが捕まって処刑された後、王都で頭角を現してきた商人だった。

 ブサンベルトは、サルベクトの商会で外商役として働いていたが、サルベクト商会が廃業した後、自分の商会を興した。

そして、サルベクト商会の得意先を丸ごと自分の物にして、今では王都でも一、二を争う商会にした辣腕の商人だったのであった。

 その後ブサンベルトは、王妃や王女、それに公爵になったヘプカバルドに取り入り、王族の御用商人になる事に成功した。

 今回もヘプカバルドの注文で、魔力をたくさん持っている魔物を集めよと命令され、魔界で魔物を捕まえて、船で輸送中なのである。


「ヘプカバルド様、もうすぐ例の物が港に到着するようでございます」


「ようやく到着か!それでブサンベルト、魔力の方は大丈夫なんだろな?」


「はい、武器に魔力を纏わせて戦うリザードマン5匹に、雷魔法が得意なデスパンサーが3匹。オークが30匹に、ゴブリンは70匹もおります。これだけいたら、かなりの魔力が搾り取れるのではないかと」


「リザードマンやデスパンサーが魔力があるのはわかるが、オークやゴブリンはそれほど魔力を持っているものなのか?」


「リザードマン程はございませんが、持っておるようですし、そこは数を多く揃えて来ましたので、大丈夫でございましょう」


 プサンベルトのあやふやな答えに、ヘプカバルドは、不審そうな目を向けた。


「本当か?本当なら魔人を30人は用意しないといけないんだぞ?魔物ばかりでは質が落ちるではないか!」


「ああ、私としたら申し忘れておりました。実は、魔人を一人用意する事ができたのでごさいました。それも魔力が多いオーガの女でございます。この女はオーガ族の族長の娘との事ですので、普通の魔人の何倍も魔力を持っている事でしょう」


「なんとオーガ族の族長の娘か!」


「さようにございます」


「でかした!プサンベルト!それなら大丈夫そうだ」


オーガ族の魔人に会った事も無く、魔人がどれほどの魔力を持っているのかも知らないのに、ヘプカバルドはブサンベルトのもったいつけた言い方で、すっかり魔人の族長の娘はすごい魔力をもった魔人と思い込まされた。


「それではお約束の金貨100万枚、荷物と引き換えに頂きますので、よろしくお願いします」


「うむ、ゼフラム大森林の木材を隣国に売る手筈になっているから、前金にもらった金貨を渡すよう用意しておこう」


 (うわぁ、こいつゼフラム大森林の木を隣国に売るつもりか?あの大森林があるから、隣国と戦争にならないというのに。

やっぱりこいつ馬鹿公爵だ。早く金を受け取って、責任を全部公爵に押し付けないと、俺まで一緒に捕まっちまう。俺はサルベクトの旦那みたいにはならないからな!)


「ところで、ヘプカバルド様、聖女の召喚はいつ実施されるご予定でございますか?

その日に合わせて、魔物達を王都に運び込まねばなりません」


「うん、そうだな〜、できるだけ多くの者に聖女が現れる瞬間を見せてやりたいのだ。

そうだ、神殿学校の卒業式に兄の国王や貴族の主だった者達が来ると言っていた。卒業式が終わった時にしよう」


 ヘプカバルドは、今思いついた考えがとても良い物に思えてきた。ヘプカバルドの公爵邸は神殿の隣にあり、少し高くなっているので、庭に召喚陣を描いて召喚すれば、天から降り注ぐ光と共に降りて来る聖女の姿(ヘプカバルド談)を国王や貴族、それに王都に住む者が仰ぎ見る事ができるだろう。そして、聖女の手を取り私は聖女に結婚を申し込み、承知した聖女をキツく抱きしめるのだ。

 聖女を抱いて愛を誓う姿を想像して、ヘプカバルドは笑いが止まらなかった。

 

 妄想しているのか、ニタニタ笑う30過ぎの弛んだ体型の男を見て、ブサンベルドは心底気持ち悪くなった。そしてヘプカバルドとは、この仕事が済んだら縁を切ろうと決意した。

 ブサンベルトは、恭しくヘプカバルドに礼をして、「では、庭に召喚陣を描いてお待ち下さい。魔物が到着次第召喚の儀式ができるよう運び込ませます」と言って部屋を出たのだった。


 ブサンベルトが去って、誰もいなくなった部屋で、ヘプカバルドは笑い出した。


「ぐへへへ…これでもう聖女は私の物だな♪」


 そして、嬉しそうに鼻歌を歌いながら、執務室の鍵付きの引き出しから、王族しか入れない書庫から無断で持ち出した書物を取り出した。


(やっぱり、この異世界から聖女を召喚する召喚陣が描いてある本を、僕が見つけたのは運命だったんだんだ!800年前に異世界のニホンって国からジョシコーセーって聖女が召喚されたって書いてあるのを読んだ時には、本当か疑ったけど、やってみる価値があるよな)


「ぐふふ…召喚が成功したら、ジョシコーセーは僕のお嫁さん♪

あ〜んな事やこ〜んな事して…ぐふふふ…」と、ヘプカバルドは更に気持ち悪い声で笑うのだった。



(王都に近い港周辺)


 ブサンベルトが、ヘプカバルドの屋敷を訪れている頃、人間界に向かって航行していたミュリアを乗せた船は、ブラード王国の港に向かって航行していた。

 4羽の子烏達と夜は船のマストに止まって休み、船と共に大陸を渡って来たベーテだったが、船が人間の住む大陸に近づくにつれ、カークの魔力を僅かづつ感じるようになった。


(いる。この船が到着する国にカークがいるはず)


 ベーテは、子供達を集めて言った。


「よく聞いてちょうだい。この船が着いた国のどこかに、あなた達のお父さんがいます」


「お父さん?わたし達のパパは生きているの?」


「そうよ、サーラ、私はあなた達のパパの魔力を感知したわ」


「うわ〜、父さんに会えるのか。早く会いたいな」


グードもビートもジーラも嬉しそうだ。


「私は、これからカークの所に飛んで、一緒にいらっしゃるベクトラム様にミュリア様を救っていただくようお願いして来ます。あなた達は、ミュリア様の元を絶対に離れないでね。カークとベクトラム様を連れて必ず戻って来るわ」


「はーい、わかりました。ママも気をつけて行って来てね。パパを連れて戻って来てね」


4羽の見送りを受け、ベーテはカークの魔力を感じる方向に飛び立った。


「早く!早く!ベクトラム様にミュリア様が来られた事をお伝えして、ミュリア様を救って頂かなけれれば!」


 ミュリアを乗せて船が着く前にベクトラムに知らせないと、助けてもらえる可能性は下がる。

 ベーテは一刻も早く知らせようと一生懸命飛んだ。



(王都の空間屋敷)


 ベーテがカークの元に急いでいる頃、神殿学校は卒業式の準備が終わろうとしていた。

 今日は国王や国の重鎮である貴族が参列するのだ。空間屋敷では、ミルバを除いた卒業生一同が、予行練習をする為に朝早くから出かけて行った。

保護者であるベクトラムも卒業式に参列する為に出かけた所である。

 一人残ったミルバは、帰って来た皆にご馳走を用意しようと、買い物に出かけようとしていた。

一方、ベーテはカークの魔力を追って、ブラード王国の王都ジルバに来たものの、途中で見失ってしまった。


(この辺にいるはずなんだけど)


 ベーテがスラム街の一画を行ったり来たりしていると、カークの魔力を感じる場所があった。

見ると一人の女の子がいる辺りから感じるようだった。

 ベーテは、女の子に聞いてみる事にした。

ミルバは突然「バサッ!バサッ!」という羽音がして驚いて上を見た。


「カーク シラナイカ カアー ベクトラム シラナイ カァー」


 突然飛んで来た烏に話しかけられて、ミルバは驚いたが、喋る烏はカークで慣れている。


「あなたは誰?カークじゃない烏さん。私はミルバ。カークの友達よ」


 カーク以外の喋る烏が面白かったミルバは、積極的に話しかけてみた。


「ワタシ ベーテ ミュリア ノッタ フネ ツイタ タスケテ! ミュリア ベクトラム コンヤクシャ」


 ベーテの話を聞いたミルバは顔を曇らせた。

ミュリアとは、ベクトラム様を魔界から追放した婚約者の名前ではなかったか。

そのミュリアが乗った船が着いたってどういう事?

助けてって、自分が追放したくせにベクトラム様に助けを求めの?

ベクトラム様に伝えに行く?どうする?

ミルバは悩んだ。ベクトラムはミルバの想い人である。

幼い頃からベクトラムの事が好きだったミルバは、いつの日か、ベクトラムのお嫁さんになりないと夢を持っていたのだ。

そこへ、ベクトラムの婚約者が現れたと言うのだ。


(嫌だ!ベクトラム様と婚約者を会わせたくない!)


 ミルバは、強烈にそう思った。この事をベクトラム様に教えるものかと思ったミルバは、こう答えていた。


「ベクトラム様は、今ここにいらっしゃらないの。

帰って来られたら、私がお伝えしておくわ。ミュリアさんが乗った船が着いたから、助けてあげて欲しいって言えばいいのよね?」


「ソウダ ミュリア キケン ハヤク キテ ホシイ カアー!」


 そうベーテは言うと空に飛び立った。もう港にミュリアが着いて、どこかに向かっているはずだ。どこに連れて行かれるか追跡しなければならない。


 急いで飛び去って行くベーテを見送って、ミルバは買い物に行く為に、ベクトラムがいる神殿とは逆の位置にある市場に向けて歩き出した。



(港の周辺)


 ベーテが王都にに着いた頃、カークはミュリアが着いた港にいた。

カークもベーテと同じように相手の魔力を感知して様子を見に来たのだ。


(たしかにベーテの魔力だと思ったのに、ベーテはどこに行ったんだ)


カークは港の周辺を飛びながら探していると、なぜか親しみのある魔力を感じた。よく見ると、たくさんの檻を載せた荷馬車が連なって、王都への道を進んでおり、その荷馬車の一台に4羽の烏が止まっているのが見えた。

 カークは注意しながら荷馬車に近づいて行った。


「おまえ達何者だ!どうして魔烏が人間界に来ている!」


 強い調子で大人の雄烏に尋問され、子烏達は「ビクッ」としたが、子烏の中でも身体の大きいグートがカークの方を向いて答えた。


「はい、僕達は、ベーテお母さんと一緒に魔界から母さんの主であるミュリア様を追って来ました。

今、母さんは父さんの魔力を頼りに、父さんを探しに行っています」


「今ベーテと言ったか?父親の名前は?」


「はい、父さんの名前はカークです」


 カークは驚いた。この子烏達は、自分とベーテの子供らしい。自分がベクトラム様を追いかけて人間界に行った後、ベーテは独りで卵を産んで育てたというのか…。


「私がカークだ。おまえ達の父だ」


「父さん?」「パパ?」「本当に?」「わーい!」


跳んだり跳ねたり、4羽はそれぞれの方法で喜びを現した。


「ベーテはどうした?どこへ行ったんだ?」


「お母さんは、ミュリア様が捕えられているのを父さんとベクトラム様に伝えて、助けてもらう為に父さんの魔力を追って行きました」


「なんと行き違いになったか!それでミュリア様は今どこに?」


「今止まっている、この荷馬車の中で檻に入れられています」


 カークは、どうしたら良いか考えた。自分を探しに行ったベーテは、王都に行っただろう。

しかし、ベクトラム様は今卒業式に参列しているので、会えない可能性が高い。

会えなかったら、また子供達の所に戻って来るはずだが。


「いいか、おまえ達、私はベクトラム様にこの事をお伝えしに行く。ミュリア様は、ベクトラム様が助けてくださるから、おまえ達は決して危険な場所には近づくなよ」


カークはそう言うと、一羽一羽に羽繕いをして言った。


「おまえの名前は?」


「パパ、私の名前はサーラよ!」


「おまえはベーテの若い頃にそっくりだな。かわいいから、これからモテるだろう。良い男を捕まえるんだぞ!」


「おまえの名前は?」


「ジーラって言うのよ」


「そうか、ジーラか。私の母…おまえのおばあちゃんの名前と一緒だな。おばあちゃんは強くて優しい烏だったんだ。おまえもおばあちゃんみたいな強くて優しい烏になってくれよ」


「おまえの名前は?」


「ビートです。父さん」


「おまえの羽根は黒晶石のようだな。羽繕いをしっかりしたら、もっと艶が出てモテるぞ!女の子を泣かすなよ」


「おまえの名前は?」


「はい、グードです!」


「グード、良い名前だ。しっかり食べて大きくなれ!おまえが一番しっかり者のようだ。兄妹の面倒を見てやってくれよ!」


「はい、わかりました!僕に任せてください!」


「おまえ達が来てくれて嬉しかった。父さんは、おまえ達が生まれたのも知らなかった情け無い父さんだけど、おまえ達の事を愛しているよ。それだけは忘れないでくれ」


「じゃ、ベクトラム様を呼んで来る」カークはそう言うと、王都の方へ向けて飛び去った。


「父さん行っちゃったね」


「うん、だけど父さん大きくてかっこよかったね」


「僕も父さんみたいなかっこいい魔烏になりたい」


「私も!私も!」


 ミュリアと4羽の子烏を乗せた荷馬車が王都に着くまで、あと一刻。



 子烏達に会ってやる気に満ちたカークは、行きより速く飛びながら、ふと思い出した事があった。

魔界から連れて来られた魔人。

目指しているのはブラード王国の王都。

まさか、孤児狩りをしていたサルベクトが生きていたのか?

いや、あいつは処刑されたはずだ。

じゃあ誰が?そう言えば第三王子だったか、馬鹿王子がサルベクトと連んでいたじゃないか。

サルベクトがいなくなって、王城の見張りはしていなかった。


「まずいな…」


カークは何となくだが、あの第三王子が関わっているような気がしてならなかった。

これはすぐにベクトラム様にお知らせしなければ…。

 カークは、更にスピードを上げて、王都を目指した。


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