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何かを思いついたらしいシブキは、ズボンのポケットに手を入れ、その中から名刺ケースを取り出す。ケースから一枚、名刺と思わしき紙を引き抜き、由紀に渡した。
「これは……」
「もしまた、異形を見つけたらここに頼りな。力になってくれる。まあ、遭遇しねぇのが一番だが」
由紀が見ると、紙には『龍使協会日本支部』という文字列と、電話番号、住所が載せられていた。渡した当人の名前は書かれていない。
住所の欄には、由紀もときどき訪れる、李渦町からそう遠くない市の名前があった。しかし、龍使協会などという不可思議な単語は見たことがない。これが何なのか、由紀にはさっぱり見当がつかなかった。
「シブキさん、あなたは……」
「俺は一体何者か、って? そうさなぁ……」
シブキの口角が緩く三日月を描く。からかっているようなその笑みは、どこか人間味の足りない色をしていた。
「ただの水龍、だよ」
「……おい、お前無用心に」
「まあいいだろって、たまには。…………じゃあな、由紀!」
謎めいた言葉を残して、シブキと勇輝は背を向ける。やがてその後姿が見えなくなっても、由紀はその場に呆然と立ち続けていた。
「…………りゅうま、しぶき……」
今一度、恩人の名を繰り返す。何か異彩を放つあの二人は、一体何者なのだろうか。彼はどうして自分を救ってくれたのか。色々と疑問は尽きないが、由紀が辿り着いた結論はずばり。
「かっこいい人だった!」
……単純明快。きらきら輝く彼女の瞳には、すでに桃色の花が咲いている。恋は盲目、それは彼女も例外ではなく。
かくして少女・田村由紀は、水龍・シブキとその相棒・勇輝の物語へと、足を踏み入れてゆくのであった。
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南河天狼