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勝負でもないのに負けたように思えて、勇輝は不満げにため息をつく。なんとなく居心地が悪いので、そろそろ話題を切り替えようと口を開いた。
「そういえば、依頼、お伺いしてませんでしたね」
「ああ、そうか。一番大事なことを忘れるところだった」
「そこを忘れたら、うっかりどころの話じゃないのう」
茶化すセンリに苦笑で返し、一目連は決心したように息を吸う。
シブキのそれよりも濃い、深海に似た紺の眼が、静かにシブキと勇輝を見据える。
「今回の依頼は、大まかに言えば異獣の討伐だ。とはいえ少々私情も混ざっていてな。支部ではなくここに依頼を出した理由はひとつではないが、因縁の相手故に自分の手で片をつけたいというのが、一番の理由だ」
「因縁……ですか?」
そういうもので動くような龍だっただろうか、噂に聞いた一目連は。
疑問に思ったシブキが首を傾げると、一目連はこくりと頷く。
「ああ。……ひとまず本題を話そう。君たちには、私と共に――」
そして、一目連が出した敵の名は。
「上位種異獣・目目連を討伐してほしい」
シブキの予感は、的中していた。
弱い雨はすでに上がった。木々に囲われた境内には、濡れた土の香りが広がっている。
李渦大明神社。規模はそこまで大きくはないが、年始の初詣などでは結構な賑わいを見せる場所だ。
一目連が語った依頼内容は、目目連の討伐。最近になって目玉鬼や百々目鬼の発生率が増えたことに、一目連も気づいていたらしい。それで警戒を強めていたが、一向に目目連の動向がわからず、鳴神探偵事務所に依頼を出したのだという。
センリとヒビキが目目連の居場所を探っている間は何もできない。戦闘まで消耗しないように待機していろ、とセンリに釘を刺されたからだ。
それで暇を潰すべく、シブキと勇輝は一目連に連れられてここに来たのだった。
「ここの祭神、李渦大明神は知っているか?」
特に宛もなく境内を散歩しながら、一目連がそう尋ねる。
「……水神と聞いています。雨を降らせる豊穣の神で、厄災から李渦を守る守護神でもある、と」
答えたのは勇輝だった。亡き養父が地主だったので、昔よく聞かされた話だ。
「よく知っているな。その通りだ。とはいえ、実際祀られているのは神ではない。ただの龍だ」
「それって……」
もしかして、と少し目を丸くしたシブキに、一目連は柔らかく笑って頷く。
「そう。私さ」
上位種異獣を追い払った水龍が、町を守る水神と伝わる。一目連のように、龍が神格化して祀られる例は少なくない。
「目目連とは、戦龍の頃から何度も戦ってきた。奴は私の名を文字って、目目連という名を己に付した。私が李渦に移った際も、奴は私を追って町を襲いに来た」
一目連の言っていた「因縁」とはこのことか。納得しつつ、シブキたちは黙って彼の話に耳を傾ける。
「当時、センリ殿やヒビキ殿も協力を申し出てくれたが、私は断った。私自身で決着をつけるべきだと、そう思ったのだ。そして奴と戦い、退けた。結果私はこのように祀られているわけだが、本来は私が連れてきてしまった災いなのだ」
懺悔とは少し違うが、責任を感じている声色だ。真面目な性格の一目連には、自身を怨んでやってきた目目連を放っておくことなどできなかったのだろう。




