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第一話「龍と怪物」1/5

本作には、一部流血表現やグロテスクな描写が含まれます。

苦手な方はご注意ください。



 惨劇が目に焼き付いている。

 あの日、俺はどうしようもなく無力だった。






第一話「龍と怪物」






  雲一つない晴天から降り注ぐ陽光、わずかに熱気を帯びた風になびく碧い木の葉。ありきたりな町の中、異形の化け物が四体。


 五月の初旬のことだった。都会というには少々田舎臭い、東京都李渦(りうず)町。その中にある市民公園、李渦公園にて、事件は起きていた。


 休日でも人通りはそこまで多くない李渦公園に、その日は何故だか烏合の衆があった。広場をぐるりと囲むように、老若男女様々な人間が集まっている。


 中には大きなカメラや機器を担いだ者までおり、公園の中央を必死になって映そうと四苦八苦。隣では地元放送局のアナウンサーが声を張り上げているが、野次馬のざわめきや悲鳴に今にもかき消されそうだ。


 彼らの視線をたどった先にあるのは、四体の化け物である。うち三体は黒い球状で、顔面には大きな一ツ目と二本の角。小さな翼で飛び回りながら、触手のような細い腕の先にある鋭い爪を振り回して群衆を威嚇している。その奥にも一体何かがいるようだが、人の群れで隠れて姿は見えない。


 人々は好奇心に誘われて集まってはきたものの、未知の異形を前にその先へと踏み出そうとはしなかった。ただ二人の青年を除いて。


「はいはい、どいたどいた!」


 よく通る声が群衆のざわめきをぴたりと止める。人ごみをかき分けて、高校生くらいの青年が二人、ずんずんと足を進めていく。一人は水色のジャージの上から青いマントを羽織った、風変わりな青年である。無言で彼についていくもう一人は、紫のパーカーに身を包んだ端正な顔の青年だ。


 群衆の前に出ると、青の青年は振り向いて驚く人々をさっと見回す。


「死にたくねーなら野次馬どもは下がってな! バケモノ退治は俺らの領分なんでな!」


 しかし人々は口を閉ざして去っていくどころか、わっと声を荒らげて反発する。


「なんだ、お前たちは!」

「ガキ二人に何ができるってんだ!」

「危険だろう、とっとと下がれ!」


 罵詈雑言を浴びせられた青年は、鬱陶しいと言いたげな顔でため息をつく。隣の紫の青年も、呆れた目で人々を眺めている。


「あーあー……ったくうるっせぇなあ、なんにもやらずに見てるだけの連中に言われたくねぇっての」

「知らないものは仕方がないとはいえ……一般市民の生活のために命がけで戦っている俺たちの身にも、なってほしいものだな」

「全くだ。さっさと片付けて帰ろうぜ」

「端からそのつもりだ」


 二人は群衆に背を向け、三体の一ツ目どもをまっすぐに見据える。青の青年のマントが、風を受けてふわりとはためいた。


「……手前の目玉鬼(めだまおに)は俺が倒す。シブキ、お前は奥の百々目鬼(とどめき)を頼む」

「了解。じゃあ後ろは任せたぜ、相棒ッ!」


 言うが早いか、青の青年は風を切って走り出す。その右手には、いつの間にか水色の剣が握られていた。茶色のブーツが地面を蹴り、一ツ目どもの間を華麗に縫っていく。


 後を追おうと翼を動かした一ツ目どもの前に、紫の青年が立ちはだかった。青年の手に握られていたのは、紫水晶で作られたかのような、きらきら光る大鎌(デスサイズ)。無表情のまま眼前の敵を射抜く双眸も相まって、その姿はまさに死神のようだ。

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