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第8話

「だが、この案には実際には問題が隠れている。モスクワ大公国の姫君が3人いる、と言ったが、その詳細等が全く不明なのだ。居場所については、モスクワのクレムリンということが判明しているが、それこそ年齢から生死まで確実には分からない、と竹中重治殿からは言われている。甲賀者の腕利きを何人か派遣して内情を探っているが、一部は返り討ちに遭っているとのことだ。それ故に現地モスクワでの判断に、最後は掛かってくることになる。それだけ危険の高い作戦というのは覚悟してくれ」

 前田慶次との軽い遣り取りで、多少はこの会議の参加者の気分がほぐれたと考えた磯野員昌は、改めて状況を詳しく明かした。


「年齢や生死までも分からないのですか。幾ら幽閉されているにしても余りの気がしますが」

 佐々成政が疑問の声を挙げた。

「それだけモスクワ大公国も警戒しているということだ。後、イヴァン4世の気質もあるのだろう。何しろイヴァン4世は暴君として知られている。オプリーチナと称する秘密警察を広範囲に使って、貴族等の陰謀を暴こうとしているとも聞く。それも相まって、イヴァン4世は娘3人を奪われるのを厳重に警戒しているのだろうな」

 磯野員昌は、そう言った。


「大よそしか分からないというのは辛いですが。我々はどのような方策、作戦を取るつもりですか」

 そうした中、宮部継潤が具体的な作戦を話し合うべきだ、と暗に話を振った。

「アゾフ周辺に上陸し、そこからモスクワへとひたすら急進撃を図ることとする。ほぼ純騎兵であることを活かし、掠奪行動で行路における糧食等は全て賄う。このようなことは、征服地を統治する等の後の事を考えるならば、本来的には望ましいことではない。だが、今回は全くの例外だ。モスクワの姫君を解放するのが第一目的と考えるならば、こうするのが最善だ、と考えるのだが、諸君らはどう考える」

 磯野員昌は渋い声で言った。


 磯野員昌とて、余りにも補給等を軽視した危険性の高い作戦なのは分かっている。

 だが、モスクワのクレムリンへと緩々と進撃するようなことをしては、イヴァン4世が娘3人をモスクワのクレムリンから連れ出して、どこかに隠すかもしれないのだ。

 イヴァン4世が、娘3人を連れ出そうと考える暇を与えることなく、我々はモスクワのクレムリンへと到達する必要がある。


 その一方で、エジプトにとって有利な情報も手に入っている。

 モスクワ大公国は、リトアニア・ポーランド共和国とリヴォニア等を巡ってここ数年に亘って紛争を続けており、更にスウェーデンもモスクワ大公国を敵視するようになったことから、周辺諸国の中では外交的孤立を深めている。

 又、元を辿れば、リトアニアとクリミアハン国は同盟国の間柄であり、そういったことから、改めてクリミアハン国とリトアニア・ポーランド共和国は本格的な同盟を結ぼうという動きがあるらしい。

 更にオスマン帝国内部にも、エジプト独立に伴う外交苦境から、その同盟が対モスクワ大公国との間に限られるのならば黙認しようという動きがあるらしい。


 磯野員昌の内心をある程度は読んだかのように、この場に集った指揮官らは、磯野員昌の作戦案の危険を指摘する一方、周辺状況に関する説明を磯野員昌から明かされることで、モスクワを急襲するという作戦にそれなりの可能性があることを、お互いに意見を言い合う内に徐々に納得していった。


 慶次も話し合う内に、危険性は高いが、それなりの可能性がある作戦なのを承服せざるを得なかった。

 今ならばイヴァン4世は、他の様々な諸国との紛争にかまけているのだ。

 エジプト軍がモスクワを急襲することは、イヴァン4世の意表を完全に衝くことになるだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 微妙に、場所と立場が21世紀の今とリンク。 [気になる点] 秘密警察大好きな陰険な皇帝が、微妙にモスクワの今のツァーリとイメージ重なりますね。周囲の情勢も。
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