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第6話

 結果的には、前田慶次がアレクサンドリアに到着したのが、主な指揮官では一番遅かったようだった。

 慶次が磯野員昌に着任の挨拶をして早々に、主な指揮官が集った会議が開かれることになったのだ。


 実際にその会議の司会の役を務めたのは宮部継潤だった。

「ここに集ったエジプト軍の目的ですが、オスマン帝国の命令により、クリミアハン国とモスクワ大公国との戦争において、クリミアハン国の援軍として戦うことにあります」

 宮部継潤は開口一番に言った。


 これに対して、佐々成政が言った。

「大雑把でよい。我々は援軍として、どのような働きをすることを求められているのだ」

「モスクワ大公国内を荒らし、クリミアハン国を援けることが求められています」

 宮部継潤は即答した。


「一昔前の日本で言えば、モスクワ大公国内で刈田狼藉を働けということか」

 前田慶次がそう言うと、宮部継潤は無言で肯いた。


 その時、磯野員昌が口を開いた。

「オスマン帝国が、我々エジプトに対して求めてきたことはその通りだが。我々エジプトには独自の目的があることを、ここに明かす。尚、この目的に関しては、この会議の参加者全員に緘口令を敷くこととする。決して部下には明かさないように」

 磯野員昌の重々しい口調は、参加者全員の背筋を伸ばした上での傾聴を強いる代物だった。


 参加者全員が背筋を伸ばしたのを見切ったかのように、磯野員昌の言葉は続いた。

「我がエジプトはモスクワを急襲して、モスクワ大公国の姫君、ロシアのツァーリの娘、皇女を我がエジプトに連れてくることも併せて目的とする。囚われの姫君を救出するという崇高な任務だ、諸君の奮闘を心から期待する」

 前田慶次を始め、磯野員昌以外の主要な指揮官は、余りにも意外な言葉に呆然とした。


「ちょっと待ってくれ。モスクワ大公国の姫君が、囚われの姫君というのはどういうことだ」

 佐々成政が口を開いた。

 実際、前田慶次も同様に考え、他の指揮官の面々の殆ども同様に考えた。


「詳細な説明が必要なら、それこそ書面を作って配って説明すべき話にはなるが。モスクワ大公国の姫君は、(東)ローマ帝国の正統な継承権を持つ存在だ。それ故に、現在のモスクワ大公国の君主であるイヴァン4世は、自らの娘である姫君3人全員をモスクワのクレムリンに幽閉して、生涯独身生活を送ることを強いているらしい。娘が外部の者と結婚して、その間に子どもができ、更にその子が(東)ローマ帝国の継承者であると主張されては困る、という理由からだ。現在の状況なら、モスクワ大公国の君主とその継承者のみが、(東)ローマ帝国の継承者と主張できるからな」

 磯野員昌は、やや長広舌を振るった。


「それは気に食わぬというか。モスクワ大公国の姫君3人にとっては、つらい話ですな」

 前田慶次は、モスクワ大公国の姫君3人に同情して、思わず言ってしまった。

 実際、それが慶次の素直な想い、感情だった。

 モスクワ大公国の姫君という立場にある以上は、自由な恋愛が許されず、政略結婚を強いられるのは、まだ理解ができる話ではある。

 しかし、モスクワ大公国の姫君3人全員が、実父のイヴァン4世によって幽閉生活を強制され、更に生涯独身生活までも強いられているとは、余りな話ではないか。

 そう考えると、慶次は義憤に駆られざるを得なかった。


「よくぞ、言ってくれた。エジプトの主といえる浅井長政殿も同様に考えた。それ故に、我がエジプトはモスクワ大公国の姫君3人を解放しようと考える。彼女達に自由を与え、結婚して幸せな家庭生活を営めるようにしようではないか」

 磯野員昌は笑みを浮かべながら言った。

 磯野員昌の言葉を聞いた多くの面々が、、確かにその通りだ、と肯いた。

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[良い点] 「それは気に食わぬというか。モスクワ大公国の姫君3人にとっては、つらい話ですな」 さすが花の慶次。優しいですね。彼らしいセリフです。 [一言] それにしても、イヴァン4世、肝っ玉ちっさす…
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