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エピローグ

「なあ、何で慶次の子どもら全員を、事実上は引き取ることになったのだ」

「慶次の子どもら全員が、父さんと新しいお母さんのいちゃつきを見たくない、と言って、我が家に押し掛けてきたからです」

「だからと言って、何で我が家で引き取るのだ。家に帰れ、と子どもらを諭せばいいだろうが。それか、慶次に対して子どもらの面倒を見ろ、と言うか」

「そんな無粋なこと、私にはできません。そんなことは、貴方から言えばいいでしょう」

「儂は慶次が苦手なのだ。お前が言ってくれ」

 1571年秋のある日、前田利家とまつは、そんな会話を交わしていた。


 利家は想った。

 慶次が妻を亡くして、落ち込んでいた際には、儂とて慶次を慰めようと思ったが。

 今となっては、その必要はなかったというか、幾ら何でも、という思いがする。

 全くモスクワ襲撃の際に見初めた女性を連れ帰り、更に自分の妻に迎えるとは。


 一方、まつは別の想いを抱いていた。

 先日、浅井長政殿の長男、浅井亮政との婚約者になったと聞いたエウドキヤだが、実はモスクワ大公国の公女であり、(東)ローマ帝国皇帝の血脈を受け継いでいるとか。

 そして、慶次の妻のアンナは、そのエウドキヤの元侍女とのことだが、実はそれなりの貴族の娘どころか、エウドキヤの実の姉という噂が密やかに流れている。


 もっともエウドキヤに言わせれば、単にずっと姉代として慕ってきた女性とのことだが、聡いまつにしてみれば、別の関係、実は姉妹なのではないか、というのを疑惑をずっと抱いている。

 そうはいっても、あの様子を見ると、本当にそうなのだろうか、とも思うのだが。


 まつがそんなことを考えていると、利家が更にこぼした。

「それにしても、タバコを吸う女を妻に迎えるとは。慶次は何を考えている。タバコを吸う女など、ろくでもない女ばかりなのに」

「それは、慶次が教えたせいらしいですよ」

「あいつは何を考えている。女にタバコを教える等。しかも自分の妻にだと。お前がタバコを吸うと言ったら、儂は怒るぞ」

「普通は怒る男が多いでしょうね」


 まつは、そう答えながら、更に考えた。

 タバコを吸う女性がいない訳ではないが、その多くというより、ほとんどが様々な商売女だ。

 しかも、様々な意味で女を売りにしている(芸妓や娼婦といった)女が圧倒的に多い。

 だから、タバコを吸う女性は、そういう商売女と誤解されやすく、大抵の男が妻がタバコを吸いたい、というと怒る現実がある。


 それなのに、慶次の妻のアンナは、タバコを吸うのだ。

 勿論、公然と路上で吸うようなことはしないが、家の中では、時折、タバコを吸うらしい。

 慶次の子どもらが、家にいたくない、と言って、我が家に押し掛けてきた理由の一つがそれで。

 慶次の長女に言わせると、

「新しいお母さんが来たのは、まだ認められるけど、タバコを吸うのが我慢できないの。お父さんが、そんな商売女と再婚したみたいで。しかも、それを教えたのが父さんと聞いて、猶更、腹が立ったの」

 とのことだった。


 そこまで、嫌わなくとも、と思うが、子どもらの気持ちが、自分にも分からなくもない。

 それに、タバコを好んで吸う王族や高位の貴族の娘などいる筈もないだろうし。

 そう考えていくと、アンナがエウドキヤの姉というのは、自分の錯覚かとも思えてくる。


 まつは、そう考えつつ、更に慶次の新たな家庭を思った。

 ともかく、アンナは家事は全くダメで、家事のことは女中任せらしいが、慶次はそれでいい、といっているらしい。

 それにアンナと再婚したことで、慶次が前向きになったのだから、良いと思おう。

 それにしても、折を見ながら、慶次の子どもらに親元に帰れ、と説得しないとね。

 まつは、そんなことを考え続けた。

 これでこの小説は事実上完結ですが、明日、「モスクワ大虐殺」に関する余談を投稿して、完全に完結させます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] (前田利家さん、決して小者ではないのですが、)おまつさんや、慶次さんがいると、何故か小者の雰囲気。引き立て役ですね。 おまつさんと、慶次さんが大物すぎ。 [一言] まあ、家事駄目というこ…
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