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第20話

 その夜、前田慶次とアンナは契りを交わした。

 本来から言えば、きちんと結婚式を挙げた後で、契りを交わすべきことだったが。

 エウドキヤの言葉に完全に背を押された二人は、どうにも我慢ができなかったのだ。

 そして、数日の間、アゾフで過ごしている内に、モスクワに遠征したエジプト軍をエジプトに撤収させるための輸送船が徐々に揃うことになり、相次いでエジプトへと向かうことになった。


 そして、この場にいるエジプト軍の最高司令官である磯野員昌は、

「第一便の船で、エウドキヤと侍女アンナをエジプトに送ることにする。そして、護衛として前田慶次も付き添うことにする」

 と真面目腐った顔で慶次に命令を下すことになった。

「分かりました」

 これまた、生真面目な顔で慶次は、その命令に答えたが。


 すぐに二人共に表情を崩した。

「アンナ皇女が自らそう言いだしてくれて良かった、と思うべきなのだろうが。それがお前に惚れたから、というのは何とも言えないな」

 磯野員昌は、くだけ過ぎにもほどがある態度で言った。

「いや、こればっかりは。私自身も雷に撃たれたように、アンナに惚れこんでしまいまして」

 慶次も頭を掻きながら言った。


(言うまでもないことかもしれないが)磯野員昌と慶次は、エジプトの対オスマン帝国独立戦争の際に、肩を並べて共に戦い、2倍近いオスマン帝国軍を野戦で打ち破った経験がある。

 それ以来、お互いを武人であると認め合い、又、お互いに尊敬する仲でもあった。


「こういった場合、本来的には浅井亮政殿とアンナ皇女を結婚させるべきなのだろうが。アンナ皇女の方が14歳も年上ではな。幾ら政略結婚とはいえ、年齢差から言って難しい結婚になる。エウドキヤ皇女でも4歳年上だが、まだ何とかなる年齢差だろう」

 磯野員昌は、ざっくばらんに言い、慶次も肯いた。


 モスクワ襲撃の目的は、それこそ(東)ローマ帝国の継承権を持つ皇女をエジプトが手に入れて、浅井亮政と皇女を結婚させ、将来的にはエジプトが(東)ローマ帝国を名乗るために行われた代物だった。

 そして、こういった場合、姉妹どちらと浅井亮政が結婚するのが望ましいかと言えば、当然に姉と結婚した方が望ましい話になる。

 しかし、実際にエジプト軍がモスクワを襲撃してみたところ、姉は21歳であり、妹は11歳であることが分かるという事態が起きたのだ。

 又、浅井亮政は7歳に過ぎない少年である。


 そういったことから考えれば、今回の経緯、姉のアンナが慶次に惚れこんで、自ら慶次と結婚すると言い出し、慶次もそれに乗り気であることは極めて望ましいという見方ができる話だった。


 更に言えば、

「お前のことだから、浅井長政殿がアンナ皇女と自分の結婚を認めなければ、エジプトから連れだって出ていくつもりだろうが」

「それは否定できません」

「それは、お前がやるつもりだということだ」

 そんなやり取りまで、磯野員昌と慶次は交わすことになった。


 実際問題として、慶次はよく言えば自由人なところがあり、正直に言って縛られるのが嫌いだった。

 それこそ自分のやりたいようにやるのが当然で、惚れた女と結婚できないならば、惚れた女と後先を考えずに駆け落ちするのも辞さない性格なのが、慶次なのだ。

 磯野員昌は、慶次のそういった性格を熟知している。


「ともかく、俺がエジプトに帰国するまでは、エジプトにいてくれ。浅井長政殿が、お前の結婚に反対するなら、俺も一緒になって説得してやる。ダメならば、せめて二人を自分に見送らせてくれ」

「それはどうも」

「阿呆、子どもはどうするつもりだ」

「叔父貴に預けるつもりで」

「惚れた女のためなら、子どもも捨てるつもりか」

 二人は最後にはそんなやり取りをした。

 幾ら何でも、自分の子どもを捨てるのか、というツッコミの嵐が起きそうですが。

 ネット情報頼りになりますが、史実の前田慶次のやらかしを踏まえたものです。

(史実で前田家を出奔する際、前田慶次は子ども全員を残したままで、前田家を出奔したとか)

 それに慶次の自由人ぷりを考える程、この世界でも似たようなことをやらかすようにしか、私には思えませんでした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本来なら皇女を嫁にした前田慶次さん、主君に疑われて当然の立場ですが、主君が浅井長政さんで、婿が前田慶次さんなら大丈夫でしょう。 [気になる点] アゾフ海で、ロシアの揚陸艦が炎上。微妙にお話…
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