和人からの電話と少女の温もり
本日2話目の投稿です。
柚希ちゃんと一緒に夕食を取るために静香とキッチンへ向かう途中で、電話が鳴った。
「俺が出るよ」
「じゃあ、私は柚希ちゃんとキッチンに行ってるね」
静香が柚希ちゃんを伴ってキッチンに入っていく。 柚希ちゃんは相変わらず心配そうに俺を見ていたのが気になるが、俺は電話に出た。
「もしもし、大谷です」
『その声、真人か! さっきの声質からしてまだ立ち直ってないな。 まぁ、直後だから無理はないか』
電話の相手は親友の和人だった。
「あの時の現場に、お前が居合わせていたんだろ? みっともない所を見せちまったな」
『お前が謝る必要はないよ。 俺は真人の心を踏みにじったあの女を許すわけにゃいかねぇんだ』
「御曹司が発する口調じゃないな」
何というか、電話越しにも怒気を感じる。 友を傷つけたことに腹を立てる他人想いの奴だからな……。
『あ、そうそう。 お前んとこに柚希いるだろ?』
「ああ、いるよ。 今、うちの妹と一緒に食事をする所だ」
『それが終わったら連絡するように言っておいてくれ。 迎えに行くからって』
「分かったよ。 後……」
『ああ。 あの女がつるんでいるグループとかなら調べておくよ。 罰ゲームだったなら、おそらくボスからそういう指令があったはずだからな』
「頼んだぞ、和人」
『任せておけ。 お前も今の家族を大事にしろよ? じゃあな』
そう言って和人の方から通話を切った。
友と色々話したおかげで、多少はスッキリしたのかもしれないが、根本的な解決にはなっていない。
和人自身が、俺の現在の家族の事情も知っているから色々と根回ししてくれているのだろう。 今の家族は父親が再婚した際にできた家族なのだから。いわば静香は義理の妹だ。
「っと、早くキッチンへ行かないとな」
そんな静香とその友達の柚希ちゃんが待っているキッチンへと俺は急いで向かった。
「お兄ちゃん、誰からだった?」
「ああ、和人からだよ」
「兄様から? 何て言ってたのです?」
「夕食が終わったら連絡をくれってさ。 迎えに来るらしいから」
柚希ちゃんに伝言をしながら、俺は静香が作った料理を食べる。
だが、未だに抜け切れていないのか…味がしない。
「お兄ちゃん?」
「大丈夫なのですか?」
静香と柚希ちゃんが顔を覗き込む。
「あんな事が起こったばっかじゃ……飯もろくに食えねぇのか……」
せっかくの静香が作ってくれた料理なのに、精神的ショックが思いのほか深かったせいで……全く味がしない……。
「真人お兄ちゃん……」
再び涙が出そうになる所に、柚希ちゃんが俺の頭を自分の胸に埋めさせた。
「無理をしちゃいけないのです……。 甘える時には甘えて欲しいのです」
突然彼女の胸に埋められた俺の顔は、彼女の温もりで満たされようとしていた。 実際に出会ったのはこれが初めてなのに、何故ここまで優しくしてくれるのか……。
静香が無言で見守ってる中で、少しの間だけ柚希ちゃんに甘える事にした。
あの失恋のショックを癒したいが為に……。
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