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「それじゃあ行っておいで! 夕食を準備しておくけど、焦らないで大丈夫だからさ」
ロメリアはそう言って玄関で見送ってくれた。町は昨日の重い雰囲気から変わって、太陽の日差しで煉瓦が柔らかい橙色を放っている。
道路の脇の草花も生き生きと輝いていた。
「まずは、学園を目指しましょうか」
シオンはそういうと足早に歩いていく。慣れない長旅の疲れが足に残るカジュにとって、その速度についていくのは少し辛い。
(このままのペースだと、歩けなくなってしまいそう)
そんなことを考えている間にもシオンの歩くペースは速くなっていく。
「あのっ、大変恐縮なのですが少しだけゆっくり歩いていただくことはできますか?」
カジュはシオンの袖を慌てて引っ張った。これ以上距離ができると小走りしながらついていかなくてはならない。
(しまった……)
シオンはいつものペースで歩いていたが、普段は男友達と一緒にいることが多いため速度を気にかけていなかった。
カジュに袖を引っ張られなければそのまま歩いて行ってしまっただろう。
「申し訳ない、ゆっくりいきましょう。時間もまだある。
それと、そうかしこまったように言わなくても良いですよ……その、歳も近いようだし……」
シオンはカジュと歩幅を合わせるためカジュの横に並びながらカジュの様子をうかがった。令嬢によってはレディを置いていくなと、怒ってしまうこともあるからだ。
「ありがとうございます、シオン様はおいくつでいらっしゃるのですか?」
カジュは微笑でシオンに尋ねる。怒ってはいないようだった。
「俺……いや、私は18歳になります。カジュ嬢は?」
動揺からか、つい、いつもの一人称が出てしまった。
シオンは顎に軽く手を当てて気まずそうに目線を上にずらす。
「私は16になります。シオン様より年下ですね。それと、普段通りになさってください。かしこまらなくて大丈夫ですから」
ふふっと首を傾げカジュはにこやかに言った。どうやら無理をしているのが伝わったらしい。
「ああ……じゃあこれからは普通に話す。それに俺にも敬語や敬称を使わなくていい、受かれば同級生だ。
あとカジュと呼んでもいいか?」
「……ではお言葉に甘えて、これからは普段通りしゃべりますね。名前も呼びやすいように呼んでくださ……あっ」
カジュは早速敬語を使ってしまっていることに気づき手で口を覆った。
クロッカスにいたころは同年代の友達はいたが、年上の男性の友達はいなかったため敬語を外すのは慣れない。
「無理しなくていい、話しやすいように話してくれ。俺もそうする。呼び方も呼びやすいようにでいい」
無表情でそっけなくシオンは言った。今までは令嬢相手だと思ってかしこまっていたが、その意識を外すと表情までいつもよりも不愛想になってしまう。
それからしばらく無言で歩いていると.小高い山の上に学園が見えてきた。
周りでは子どもが元気に走り回り、婦人たちが立ち話を楽しんでいる。
「あれが、プリムラ学園……」
少し離れた場所からもしっかり見える大きな煉瓦造りの建物だった。煙突のようになっている建物のてっぺんには大きな旗が風を受けて揺らいでいる。
「そうだ。学生数自体はそんなにいないが、実験室や実技訓練場の場所を豊富に取ってある」
「伝統的な雰囲気なのですね」
プリムラ学園は創立してから100年以上を誇る伝統校だ。建物も改修を繰り返され、建てられた当時の形をとどめている。
両脇を気が生い茂った広い坂道を上ると正門が見えてきた。
「ついたぞ。あそこが正門だ。入試申込書は正門横の受付でもらえるはずだ。そのまま提出していくか?」
門の横には小さな出入り口があり、そこで入試申込書がもらえるようだ。
「記入する部分が少なければ出していきます」
「そんなに書くことはなかったはずだ。またここまで来るのは面倒だし出していけばいい」
シオンはそういうと戸を開けて中に入っていく。
カジュがそのあとに続いて中に入ると.ふわりと温かい風が通り抜け、木の香りが髪をなでた。
木造でできた部屋には、小さなカウンターがあり、その後ろにはデスクが並んでいる。




