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カジュの実力は魔法軸を概ね合格基準を超えていた。
(数学は少し点数が低かったが、苦手分野を中心に問題を繰り返し解いて鍛えれば問題ないだろう……語学に関してはほぼ満点か。
ほとんど対策をしていなくてこの点数は元々勉強していたのだな。……問題は魔法実技か)
カジュの魔法量は合格基準の7割程しか持ち合わせていなかった。
加えてカジュの魔法属性は光・水・火・気の四大属性のうち気属性であったため、力加減を習得すれば一気に成績が伸びるというわけではない。
「……とりあえずできるだけ早く対策を練ってきます。
カジュ嬢はこれで魔法の仕組みについて学んでおいてください」
そういうとシオンは一冊の本を取り出した。
ずいぶん使い込んだのだろう。本には大量の付箋が貼ってある。
魔法の仕組みは義務教育である14歳までに習得している内容だ。しかし、学習してから時間が経っているカジュは曖昧にしか覚えていない。
「わかりました。私の今の実力では……入試に合格できそうにありませんか?」
シオンはカジュの答案用紙を採点している間ほぼ無表情だったため、自分の実力がどれほどなのか把握できていなかった。
「ん? ああ、いや、苦手な教科はあるようですが、今まで入試対策をしてこなかったとしたら上出来だと思います。
特に言語は得点源になるでしょう。
問題は魔法実技ですね、筆記は暗記でカバーできるが実技はそうもいかない」
シオンは表情をやわらげ、肩の力を抜いて椅子の背もたれに体を預けた。
カジュの点数が酷かったらどこから教えたものかと考えていたが、及第点は超えていたためひとまず安心である。
「そうですか、テストにお付き合いくださってありがとうございました。
よろしければ答案を拝見しても?」
カジュは硬い表情を崩さずシオンに問いかける。
受かるだけでは学園へは通えない。しかし、そのことを口にするのは憚られた。
自分の実力程度で特待生を目指しているというのは恥ずかしかった。
それにもし特待生を目指していると言えば、理由を聞かれるだろう。
適当にごまかしてもよかったが、どこから追放についてばれるかわからない。嘘がばれた時にシオンが味方でいてくれる保証はないのだ。
(追放された令嬢など疎ましく思われるかもしれないわ。
それに、迷惑もかけたくないもの……できるだけ慎重に、適度な距離を取っていきましょう)
「ああ、答案を見るのは構わないですが…解説も必要だろうし、一緒に見ていきましょう。
まずは言語からですね」
(驚いたな、及第点と言われればもう少し喜ぶかと思ったのだがな。よほど負けず嫌いなのか……?)
シオンはカジュの態度に驚きつつも、言語の答案を机の上に置く。
どんな理由があれど、やる気があることに越したことはない。
「まずは7問目、4択の問題ですが――」
テストのやり直しを始めた二人の耳にガチャリとドアが開く音が届いた。
「お昼ができたよ、おりといで!」
ロメリアはそれだけ言うと階段を下りていく。
「先に昼食にしましょうか、冷えるとおばあさまが怒る。」
シオンはちらりとカジュに目をやって言った。正直お腹がすいていたシオンにはありがたいタイミングである。
もうあと数分でお腹が鳴りそうなくらいだ。
「はい、お腹すきましたものね」
カジュがお腹に手を当てたその時だった。ぎゅるるとシオンのお腹が鳴った。
下に降りるまで待てないくらい空腹だったらしい。
「あ、いや、これはっ……!」
慌ててお腹に手を当てて何か言い訳をしようとしたシオンだったが、言い訳をしようにもお腹がすいているのだからどうしようもない。
「ふふ、私もお腹なっちゃいそうです。今日のお昼は何でしょうね」
そんなシオンを見てカジュは目を細めて首を少し傾げてにっこりと笑った。
カジュは気が付いていなかったが、シオンの前で笑ったのはこれが初めてだった。
「……なんでしょうね。下に降りたらわかります」
一瞬明るい笑みを浮かべたカジュを見て、こんなにも朗らかに笑うのかと呆気にとられた。
真面目な顔をしているときはどこか思いつめた表情だっただけにその差に驚く。
(シオン様も慌てたりなさるのね……そういえばお父様とも同じようなやり取りをしたことがあったわ……
お父様はきちんとご飯を食べていらっしゃるかしら)
しかし、その表情はすぐに暗く張り詰めたものに戻ってしまう。
(この子は何か抱えているのかもな……)
シオンはそう考えながら、羞恥心で早くなった心臓を整えながら階段を下りた。




