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錦上の花束をあなたに  作者: 保科朱里
【芽吹き】
18/21

2-3

 このころには、家族のことを思い出すことはあったが、シオンやロメリアにその面影を重ねることはなくなっていた。


(ロメリア様はロメリア様、シオンはシオン。

だれかの面影ではなくて、本人たちに向き合えるようになってよかった)


 一緒にいる時間が長かったからだろうか。過去の家族との記憶と同じような場面に出くわしても心が痛むことは少ない。


「はい、これ。ミルク冷めてしまっていただろう?

 もう一度体を温めてから休むんだよ。カフェインレスだからね。眠れなくなるなんてこともないはずさ」


 ロメリアはそういうとカップに注いだ紅茶を渡してくる。リンゴの香りがふわりと沸き立ち、部屋を包み込んだ。


「ありがとうございます。今日はゆっくり眠れそうですわ」


 カジュはそう言いながらカップを受け取った。両手がじんわりと温かくなる。


(また、ロメリア様とお茶をすることができますように……)


 カルミア国に来てから始めて自分の事情を話すことができて、カジュは胸が軽くなった。

 明日から始まる新たな生活に前向きな気持ちも持てそうである。



 翌日、カジュはプリムラ学園の入学式に出席するために正門までの坂道を歩いていた。ロメリアは、シオンの祖母として式に出席するため別行動である。別れ間際に健康第一で頑張るんだよ、と抱きしめてくれたロメリアの温かさが今も残っている気がする。


「ふう……」


 カジュは寮への引っ越しのために、すべての荷物をまとめてきていた。大きな荷物ではなかったものの、服などをすべてまとめた荷物を抱えていると坂道はさすがに堪える。

 周りに見える新入生たちは執事や親に荷物を持ってもらっていた。


「ちょっとうらやましいわ……」


 カジュはつぶやきながらも汗をぬぐって前に進んでいく。紺に白襟のワンピースは熱の逃げ場が少なく、どんどん暑くなっていった。

 気属性の魔法が使えるカジュは風を使って物を運ぶ魔法も使えたが、最初から目立つのは避けたい。


「大丈夫? 重そうだけど、持とうか?」


 いきなり声をかけられカジュは驚いて後ろを振り返った。そこには一人の男性が微笑みながら立っている。

 金色の髪に茶色の大きな瞳をした男性はシオンよりも身長が高く、カジュがしっかりと見上げなければいけないほどだった。


「いえ、大丈夫です。もう少しでつくので……ありがとうございます」


 重い荷物のせいで猫背になっていた背筋を伸ばし、カジュは男性にお礼を言う。

 同じ新入生だろうか。


「そう言わずに、ね」


 男性はカジュの断りを聞かず、ひょいと荷物を持ってしまう。男性は肌の色が白いため一見か細いように見えるが、荷物を片手で持つところを見るとそうでもないようだった。


「あっ……」


 荷物を取られてしまったカジュは、このまま見知らぬ男性に荷物を預けていいのだろうかと考える。


「カジュ!」


 その時、坂の上から見覚えのある声が聞こえた。

 坂の上を見上げると、シオンが走ってくる様子が見える。いつもと変わらず白シャツに黒のスラックス姿だ。


「シオン! おはようございます」


 カジュは見知った顔に思わず、ほうと息をついた。

 隣にいる金髪の男性も歩みを止めて立ちどまる。


「あれ、シオンじゃないか。なに、二人とも知り合い? てか、俺は無視かよ!」


 男性は顔を少し膨らませて半目でシオンを見た。どうやらシオンを知っているらしい。


「ああ、アヤメもいたな、おはよう」


 シオンはちらりとだけ男性を横目で見る。


「おもいっきり、ついでじゃん……」


 男性はわざとらしく天を仰ぐ。大げさなリアクションだが、悪い人ではなさそうである。


「で、紹介してくんないの?」


 アヤメは楽しそうな表情でシオンの顔を覗き込んだ。


「……こいつはアヤメだ。剣術訓練をしているときに知り合ったんだ。適当にあしらっておけばいい」


 真面目な顔で眉一つ動かさずカジュに向かって言うと、シオンはアヤメからカジュの荷物を奪った。


「え、ひどい。二年間も一緒だった親友の紹介がそれ!? 荷物もちゃっかり取っちゃうし」


 アヤメは口をとがらせて抗議する。アヤメとシオンは二年間剣術を共に学んだ仲だった。


「別に、親友じゃない」


 シオンはアヤメの発言を一蹴すると、カジュの荷物をもってさっさと先を歩いてしまう。


「アヤメ様はじめまして。カジュと申します。よろしくお願いします」


 カジュは二人のやり取りを見ながら、シオンのことについて何も知らないのだなと考えていた。

 シオンの魔法の属性すらも気属性ではないらしいということしか把握していない。


「よろしく! 俺はアヤメ・シャロン。シオンの親友さ。アヤメって呼んでね! あと敬語じゃなくていいからね」


「親友じゃない」


 少し先を歩いていたシオンがすかさず訂正を入れる。先ほどの訂正よりも素早い反応だ。


「またまた! 一緒にプリムラ受けないかってシオンから誘ったくせに~」


 アヤメは楽しそうに笑いながら頭の後ろで手を組みながら軽快に歩いていく。背負ったこげ茶のリュックが上下に揺れた。


「それは、単純に学んでいたほうがいいと思ったからだ。

 おまえの水魔法はおおざっぱすぎるんだ」


 四大属性のうち、水と火は剣術や体術との相性が良かった。そのため学校で魔法について学ばず、最初から騎士団などを志望するものも多い。


「えー、でもそれって俺の魔法がもっとすごくなるって思ってるってことだよね。てことは、俺を信じてくれてるってことだよね?

 シオンほどの実力者に信じてもらえてる俺すごくない!?」


 カジュの場所からはシオンの表情は見えないが、きっと眉間にしわが寄っているのだろう。なんとなく黒いオーラが見えるような気がした。


「はあ、誘うんじゃなかった……」


 ぼそっとシオンがつぶやいたが、アヤメはその発言を無視してご機嫌だ。

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