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「ああ、もちろん聞くさ」
ロメリアは真面目な顔になると、いつもの明るさをひそめてうなずいた。
「ありがとうございます。
―――私は隣国のクロッカスで育ちました。
両親と兄が一人います」
「ああ」
「家業は魔法治療薬を研究・販売していて、その功で男爵の家名を賜っています」
「だから礼儀作法も、学問もしっかりしていたわけか……」
ロメリアは納得したようにうなずく。貴族でなければ一カ月で入試に間に合わせることはできなかっただろう。
「はい。ありがたいことに、しっかり教育を受けることができました。
でも……」
思い出を懐かしむように微笑んでいたカジュの表情が曇る。
「中等学院を卒業するほんの少し前に、私がある方に思いを寄せているという噂が立ったのです。
そのお相手はヴァン・ミシェル様という侯爵家の方でした」
ロメリアはうなずきながら先を促した。
「身分違いなだけならばよかったのです。でも、その方にはすでに婚約者がいらっしゃいました」
貴族の間では早くから婚約者がいる場合もある。
そのほとんどが親同士の決めた婚約だ。
「でも、婚約破棄は普通にあるんじゃないのかい?」
ロメリアが言う通り、婚約は恋愛や家の没落などを理由に行われることもある。
「ええ、でもミシェル様の婚約者、ドロシー様はミシェル様のことをとても愛していらっしゃったようで……。
私がミシェル様に婚約破棄を迫ったと言って大変お怒りになられたのです」
カジュはドロシーの家の使いがやってきた日を昨日のことのように思い出した。挨拶もなしにいきなり家に入り、父親の書斎の場所を聞くとすごい勢いで押し入った。
そして告発したという令状を一方的に置いて帰っていったのだった。
「そして裁判にかけられた私は、家名のはく奪と国外追放を言い渡されました」
「そんなことで……カジュはミシェルとやらを好きだったのかい?」
ロメリアは苦虫を噛み潰したような表情で顎をさすりながら聞く。
「いいえ。
私はミシェル様と数回しかお話したことがないですし……ミシェル様に迫ったことも事実無根です」
同じ学年ではあったものの、ミシェルと接点がなかったため、社交辞令の挨拶しか交わしたことがない。
どこからそんな噂が立ったのか今も分からなかった。
「そうかい……裁判でも否定はしたんだね?」
「ええ、でもドロシー様がご学友から得たという証言を提出していましたので……いくら否定しても取り合ってもらえませんでした。
それに、身分の違いもありましたから」
カジュは無意識に左腕をさすっていた。
ミルクは冷めてしまっている。
「隣国の事情は詳しくは分からないが、そんな些細なことで裁判まで開けるものなのかい?
こっちではそんな裁判聞いたこともないよ。しかも年端のいかない少女を国外追放なんて……」
「クロッカスでは割とある話なのです。特に爵位が低い家は目をつけられやすくて。爵位が上がることを防ぎたいのだと思います」
事実、クロッカスで爵位を上げようとすると既存の上位の貴族に媚びを売るか、大きな成果が必要であり、簡単にできることではなかった。
そのため、政治も一部の貴族有利にことが進んでいる。
「内側から国を食い尽くすようさね。カルミア国ではそんなことはまずないね」
ロメリアはため息交じりにあきれた。貴族ばかりに有利に物事が運ぶ国では、いつか反逆が起きてしまう。
「そうかもしれませんね……私もそんな貴族の一部だったので同罪ですが……」
カジュは苦笑いをしながら、冷めたミルクを口にいれた。
貴族である恩恵を受けてきたため、クロッカス国の階級について文句を言うことは憚られた。
「……プリムラ学園に入ったら、いろんな身分の人がいる。
最初に教わるだろうが、プリムラでは相手の身分によって態度を変えることを良しとしていない。身分ではなく人で判断せよということさ」
ロメリアは軽く息をつくと立ち上がり、台所に立つ。
「だから、何も心配することはないよ。安心して学べばいい」
ロメリアは戸棚から一つティーパックを取り出すとティーポットに入れ、水魔法で沸かしたお湯を注いだ。
「ええ、ありがとうございます。精一杯学んできます」
ロメリアの気遣いに心が和んでいく。
カジュ、幸せになってね。




