1-13
宿に帰ると満面の笑みでいつものようにロメリアが「お帰り」と言って迎えてくれた。
木製のドアを開いた先にあるこの部屋は、いつ見ても温かい雰囲気を纏っていて落ち着く。
「ただいまかえりました」
「お疲れ様。よく頑張ったよ! お茶を煎れてあるから一緒に飲もうか」
ロメリアはそういうと食堂に入っていく。あとに続いてカジュも食堂に入るとふわりとアールグレイのいい香りが鼻を抜けた。
「はい、これ。まあお座りよ」
ロメリアはガラスにバラの飾りが入ったティーカップに冷たい紅茶を注いだ。
「ありがとうございます……」
カジュはそれを受け取るといつもの席に座った。ぎしり、と木の軋む音がする。机の上には小粒のチョコレートが並んでいる。
「やり切ったんだろう? ならあとは結果を待つだけさ。
それはそうと、カジュはもし学園にいけなかったらどうするつもりなんだい」
カジュは一口紅茶を飲むと、肩の力を抜いた。先ほどまで走っていたからか、紅茶が全身にしみわたっていく。
「どこか働き口を探そうと思います。実家に帰るつもりはありません」
カジュ自身も学園に行けなかったときのことはずっと考えていた。
すでに魔法が活かせる職業を調べており、いくつか目星は付けてある。
「ふむ……そうかい。なら、そん時はここから通いな。 この町はそんなに広くはないし、大抵のとこが通える範囲だろう?
住み込みで働くってんなら別だけどさ」
ロメリアからの申し出はありがたかったが、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。部屋を占領してしまってはロメリアの収入が減ることになる。
「ありがたいのですが、これ以上お世話になるわけには……」
困ったように微笑んでカジュは答える。
「気にするんじゃないよ。まあ、お前なら絶対受かるけどね」
にやっと笑ってロメリアは紅茶を一気に飲み干した。カジュは特待生でなければ入学できないため、合格はできても通えるかは別なのだが。
「急かしたことを聞いてすまなかったね。これから三日はゆっくり休みな! 今日の夜ご飯は豪華だよ!」
ロメリアは話題を変えるように明るく言う。
実家に帰らないと言っても驚かず、詮索をしないロメリアには感謝だ。
「はい! お手伝いしますね」
これから三日間気を揉むような時間を過ごさなければならなかったが、そばにロメリアがいてくれるなら落ち着いて普段通りに過ごせるような気がした。
*
夕食の後、ロメリアに栞を渡すととても喜んでくれた。
栞を窓辺の写真立てに飾ったときは、使わないのかと驚いたが、それほど大事に扱ってくれたことが嬉しかった。
(結局鈴蘭が残ってしまったわ……)
自室に戻り、カバンの中を整理しながらカジュはラッピングを開けた。何度見ても、鈴蘭の白い花弁と静かなたたずまいはシオンそっくりである。
「……大事にしよう」
シオンを連想する栞を持っていることはなんとなく気恥ずかしかったが、同時に彼の面影をそばに置けるようで心強い。
カジュはしばらく栞を見た後ノートに挟んで机に置いた。
勉強用に使用したノートは20冊にも及んでいる。




