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試験が終わった日、カジュは町の雑貨屋に立ち寄って贈り物を選んでいた。高価なものではなくても二人にお礼がしたかったのだ。
どの町にもあるような商店街の雑貨屋は老若男女問わず賑わっている。カルミア国では手作り風の雑貨が流行っているようで、小さな小物入れからタペストリーまで様々な刺繍商品が揃っている。
「あ、これいいかも……」
カジュは花の刺繍がしてある栞を手に取った。
栞は銀色の刺繍糸で縁取られており、縦長の布の中央には一輪の花が刺繍で縫われている。花のモチーフは鈴蘭だろうか。
シオンが花のモチーフの物を使っているところは見かけたことがなかったが、鈴蘭の落ち着いた白色の花弁が彼の雰囲気に似合っている気がした。
栞ならば本を読むときに使うだろうし、持っていてもさほど邪魔にはならない。
「何をしているんだ」
いくつもある栞のうち、どれが一番きれいに縫われているかと吟味していると、突然後ろから声をかけられた。
驚いて後ろを振り返えると、そこには白いシャツに黒のスラックスというラフな格好のシオンがいた。
「あ、えっと、ちょっと買い物を……」
焦って心臓がバクバクなっている。
「そうか。栞か?綺麗な花だな」
シオンはちらりとカジュの手元を見て栞の柄を一瞥して言う。
「ええ、綺麗ですよね」
カジュは自分の見立てが間違っていなかったことにホッと胸をなでおろした。
最も、シオンは自分への贈り物だとは思っていないだろうが。
「買い物はこれからか。だったら先に宿に行っている」
「えっ、ご自宅ではなくて宿に行かれるのですか?」
家に帰る途中なのだと思っていたカジュは聞き返した。
「ああ、おばあさまに話したいこともあるしな」
「そうなのですね……私はもう少しだけここで買い物をしてから帰るので、先に行ってください」
シオンは分かったと返事をするとカジュに背を向けて歩き出した。
その背中を見送っていると、数歩歩いたシオンが振り返る。
「悔いはないか」
突然問われた内容に一瞬何の事だろうと逡巡したカジュだったが、すぐに今日の試験のことだろうと思い当たる。
「はい。ないです」
「そうか、ならいい。じゃあ」
シオンは今度こそ宿のほうへ歩いて行った。いつものように早歩きの彼の姿は人ごみに紛れてすぐに見えなくなる。
ふう、と息を吐いたカジュは手元の栞を見つめた。
(もっと試験のこと、聞かれるかと思ったのだけど……)
試験で解けなかった問題はなかった。時間がかかった問題こそあったものの、一番正しいと思う答えを何とか絞り出すことはできた。
魔法実技に関しても、いつも通りの魔力を出すことができた。昨日シオンに言われた通り「絶対受かる」と思い込んで緊張をほぐすことで、実力を発揮できたのだろう。
そのあと店内を見て回ったカジュは、結局栞を三本購入することにした。
シオンには鈴蘭、ロメリアにはガーベラ、そして自分用にアネモネの刺繍が入った栞だ。
(今から急いで帰ったらシオンにも渡せるかしら)
カジュは思わず小走りで帰り道を急いだ。
ロメリアからのお使いで何度も通った大通りは、彼女にとって親しみのある風景になっていた。
あえて試験内容は伏せました。
魔法の世界らしくなってくるのはまだもうちょっと先です…( ´ ` *)




