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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄は全て計画通り。

作者: ケイ

注意


ボーイズラブです!

完っっっっ全なるボーイズラブです!

悪役令嬢はいますが恋愛しません!

ざまぁ要素少ないって感じる人いるかもしれません!

 

「殿下!婚約を破棄させてもらいますわ!」


 自尊心をズタズタに切り裂かれ、つい言ってしまったような叫び声がこの場を支配する。

 氷点下のように感じるパーティー会場で、僕と対面するキャサリン・アニー・スチュアート公爵令嬢の目だけは怒りに熱く燃え、僕らを睨んでいた。


 アレグザンダー・ダニエル・ヘンダーソン、これまた無駄に長い名前のこの国の王子は、僕だ。ついでにいうと今この瞬間に婚約破棄された。

 婚約破棄を言い出さなくてはならないほどに彼女が追い詰められた理由は誰から見ても明らかなのだろう。


 一つ。

 パーティー会場だというのに、僕の隣には婚約者のキャサリン公爵令嬢ではなく、平民のアリエル嬢がいること。

 僕の隣にいるアリエルが友人としては有り得ないほどに僕にくっついていること。…それはまさしく、恋人としての距離。


 二つ。

 アレグザンダー殿下が恋に落ちた、平民だけども美しく、そしてそれを見せびらかしたりせずに皆に平等に接するアリエル。

 二人の恋を邪魔しようと卑劣な嫌がらせを続けた、美人ではあるものの冷たい顔をした、『悪役』というのが相応しいキャサリン。

 どちらを皆が正義だと決めつけるのは分かりきったことで、まだ婚約破棄しないのかと圧力を掛けられるのは、キャサリンだったこと。

 誰もアリエルを王子にふさわしくないなどと言わず、むしろ応援していたこと。


 三つ。

 そういった事が重なって、ついにはキャサリンの家が、早く婚約破棄をしろと言い始めたこと。




 皆は冷めきった目でキャサリンを見る。まあ、当然だろう当たり前だろう、と僕らを囲む人達は思っている。


 彼女は、ついこの間までアリエルにそれはそれは酷いいじめを繰り返していたというから。

 キャサリンは、公爵令嬢という身分を盾にしてアリエルにいじめを隠すことを強要していた。アレグザンダー殿下は、キャサリンのいじめすらも隠そうとする優しい彼女から、やっといじめのことを聞き出し、たった今糾弾していた。

 不利になったキャサリンは、キレて婚約破棄を言った。



 …それが、皆が思っているこの婚約破棄が起こった理由だ。




 ちなみに、これは全て間違っている。ホントに。いや、マジなんだよ、本当に1から10まで全部間違ってる。



 正しいのはね。

 僕が、女性に対して恋愛感情を抱けないこと。好きな人が男性であり、両思いであること。

 そして、たった今婚約破棄を言い出したキャサリンが『腐女子』だということ。

 この世界は乙女ゲームの世界で、アリエルはなんともラッキーなことに主人公に生まれ変わった人だということ。とてつもなく恋愛脳で、逆ハーレムなんて目指していること。

 僕がアリエルに対して「なんだよこいつマジうぜー、ベタベタベタベタしやがって。キモっ」と思っていること。


 ここまで言えば、()()()の僕とキャサリンの計画が分かると思う。

 僕がアリエルに恋をしたフリをして、キャサリンに婚約破棄をしてもらう。

 そして、キャサリンを先に国外に逃がしたあと、僕と僕の騎士、この二人のみで逃亡する。その後、キャサリンと合流して衣食住を確保し、僕は堂々と僕の恋人と結婚する。


 ちなみに僕の恋人は、僕の騎士であるユウヤ。

 そして、僕とキャサリンとユウヤは、前世で幼馴染で、キャサリンは僕とユウヤが付き合うことになった時に一番最初に応援してくれていた。

 元の世界では、隕石が降ってきて人間が絶滅しちゃったんだけど、こうして生まれ変わった。

 ーーーー僕とユウヤは、また出会った。


 まあ、前世を思い出す前にキャサリンと婚約することになってしまい、婚約破棄のためのプランを三人で考えるのに思ったよりも時間がかかってしまった。

 乙女ゲームの一番最後、『公爵令嬢と王子の婚約破棄』そして『王子とヒロインが結ばれる』イベントまで長引いてしまったんだよね。


 あ、僕は乙女ゲームやってないよ?ユウヤ以外の男性から甘ったるい言葉かけられるのは正直存在しない人相手でも無理だからね。

 乙女ゲームしてたのはキャサリン。妹が一ヶ月分のデザートとの交換条件で、乙女ゲームの攻略をお願いしたらしい。

 ちょっと意味が分からないけど、まあいいや。今は関係ない。



「婚約破棄を受け入れる!もう二度とお前の顔なんて見たくない!」


 僕は高らかに言うと、アリエルに向かい微笑んだ。そして、同時にキャサリンを睨みつける。

 すごいな王子って、二つの表情を同時に出来るなんて。今は自分の顔だけどね。

 ちなみに、「もう二度とお前の顔なんて見たくない!」は「成功だよ〜次のプランに移るよー」で、

「アリエル、今まで気づけなくてごめんな」は、「何らかのハプニングがあるから気をつけてーね」という意味だ。非常時の暗号。

 まあ、この悪役令嬢ゴリラだからそんな心配はいらないと思うけど。



 話を戻すね。つまり、僕らの作戦は成功。

 皆は悲劇のヒロインが王子と結ばれるのと、悪役令嬢がざまぁされるのを疑ってない。

 実は反対で、僕とユウヤとキャサリンは国外に簡単に逃げれる状態になったのにね?

 そして、絶対逃げるつもりだ。


 だって僕、ユウヤと早くイチャイチャしたい。

 ただの演技だって知ってるのにちょっとだけアリエルに嫉妬してる顔とか超可愛い。人目なんて気にしないでもいい田舎に逃げてずっと可愛がろうっと。


 それと、キャサリンがここまで迫真に迫った演技が出来るのは、理由がある。

 ここから逃げたら、キャサリンは元の世界の進んだ技術や魔法で無双したいらしい。

 まあ、ゴリラだからね。全く死ななさそう、むしろ長生きしそう。

 それと、この『腐女子』は、僕とユウヤがキスする所を撮っていいという約束をしている。

 僕らが逃げるには、キャサリンの助けが必要だからね、本当は見せたくないんだけど。


 だから、彼女がとても怒っている演技を出来るのは、この後のことに対して物凄く興奮してるのを隠しているからだ。

 幼馴染なので、かなり分かる。まあ、僕が一番よく知っているのはユウヤの事だけど。


 ちなみにキャサリンはアリエルをイジメてない。勝手に証拠がひとりでに出来上がるだなんて変な感じだけど、まあ実際に起こってしまったことだ。

 今更文句をつけても何も起こらない。

 でも僕がアリエルを好きになることはなかった。ゲームの強制力も、人の心にまでは作動しないみたい。


「ええ、いいですわ!私もこのビッチの顔なんて見たくないですからね!!」


「見たくないですからね」で、逃げる準備は出来ているので先に行きます、待ってますという意味。

 とても怒った目で、さらに僕らを睨みつける。

 実際にはユウヤと僕のことで妄想でもしてるんだろう。腐女子だからねえ、キャサリンは。


 でもユウヤの可愛いところとかいつもクールなのにデレたりするところとかを知ってるのは僕だけだから。



「キャ、キャサリン様っ!私は、ただ…!」


「アリエル、こんな奴に様付けをしなくてもいい。…なあ、アリエル。…俺は君のことを愛している。だからッ、いつも隣にいて、その笑顔を見せてくれないか」


 自分で言ってて超恥ずかしいセリフだけど、乙女ゲームに出てるセリフだから仕方がない。

 乙女ゲーム通りに進めればハッピーエンドと思わせてた方がいいからね。脳内お花畑さんだし、騙すのは簡単だった。

 はぁ…でももう嫌だなぁ、こんなヤツと話すの。


 はやくユウヤで癒されたい。ユウヤはクーデレだからたまにしかデレてくれないけど、甘やかして愛してると赤面するのがとても可愛い。

 ユウヤの好きな所ならたぶん途切れることなく言えると思う。それぐらい好きだ。



「は、はいっ…!」


 アリエルが僕の手を取って、微笑む。

 僕の内心?「一刻も早くこいつの手を離したい気持ち悪い何こいつなんで逆ハーレムなんて狙ってんの?実際に逆ハーレムになっても数年で修羅場になること確定じゃないのか」って感じだけど?

 他の攻略対象とのハッピーエンドももう迎えていて、あとは王子とのハッピーエンドのみなんでしょ?

 逆ハーレムが待ちきれないのか顔が気持ち悪く歪んでいる。やばい、アリエルは生理的に無理だ。



 ーーーまあでも、これで終わりだ。

 周りの人達が拍手をし、祝福する。

 アリエルが笑顔で僕に笑いかけてくるのを、僕も愛想笑いで返す。

 ああいやだ。こんなクソビッチと話さなきゃいけないとか。他の攻略対象にも同じようなことを言われて、「はい」って応えてるんだもんねコイツ。八方美人っていうかクソビッチだ。

 それとアリエルは美人じゃない、可愛くもない。

 ピンク色の頭にオレンジの目って凄く見ててチカチカする。カワイイ系?これはただのぶりっ子だよ。


 ユウヤの方が何から何まで一億倍くらい整ってる。というかアリエルとユウヤを比較できない。


「それでは、アリエル嬢と殿下に祝福を!」


 ああ、ありがとう牧師さん。でもコイツとは今日でサヨナラなんだよね。

 それとさ…牧師さん、君も攻略対象の一人だよね?

 ヒロインが色んな人と愛し合ってるの見て何も思わないの?それでも愛すとか?うわあ、本当に気持ち悪い。

 パチパチパチ、って拍手うるさい。あーもうユウヤの声が聞きたいなあ。


 さあさあ、これにてパーティーは終わり。

 僕らは夜中に逃げ出す。じゃあね、勘違いぶりっ子さん?僕はユウヤ以外の人間には興味がないんだよ。


 ーーーーーー



「殿下…って、おい!」

「ユウヤー!!もう嫌だアイツーー!あーユウヤが一番だよ大好き!」


 久しぶりに聞いた感じがするユウヤの声に、理性がなくなり飛びつく。耳が赤くなってるのが可愛い。ポーカーフェイスを保ってるのもまた可愛い。


「はやく支度しろって言いに来ただけなんだが…おい、離れろ」

「やっぱユウヤが一番落ち着く…それと支度なら終わった」

「はあ…じゃあ出発するぞ。城のヤツらは全員眠らせてきたから」


 ユウヤは僕がパーティーで時間を稼いでいる間に細工をして、城にいる人達全員が爆睡する魔法を発動しててくれた。うんうん、ユウヤはチートだよね。


 いやー、僕もチート級なんだよ?一応は攻略対象だし。

 でもユウヤは僕の二倍ぐらい強くて(王子の騎士に選ばれるくらいだもんね)、魔法のエキスパートみたいな感じ?


 え、キャサリン?あれはゴリラだよ。人と比べられない、というか、あれはもうおかしい。霊長類最強とか通り越して生物最強みたいな感じ?

 前、隕石が降ってきた時に、キャサリンが地上から宇宙に向かってパンチして、隕石が最初から存在しないかのように消滅した時には僕も腰を抜かした。

 やばいよ。もう敵なんて居ないよ。



「ほんとユウヤ大好き」


「…早く歩けっての」


「クーデレだなあ、僕の可愛い彼氏さん?」


「クーデレじゃないし可愛くもねーだろ。気性が荒いペガサス待たせてるんだから早くしろ」


「はいはーい。…ねえねえ、もしかしてはやく目的地に到着して僕とイチャイチャしたいの?」


「うっせ」


「だよねえ、やっぱそんな事ないか…って、え!?本当に!?ちょ、ユウヤ待って!」


 ほんと、僕の彼氏は不意打ちが多すぎる。

 理性なくなって押し倒しそうで怖い。はあ…もう少しだけ我慢しないと。衣食住が見つかる前にしたらユウヤの身体に負担がかかっちゃうからね。

 でも少しぐらいなら…いやいや、少しで止められたことが今までにないし、我慢我慢!着いたらずーっと可愛がれるんだし!



「ペガサスには何回も乗ったことがあるから大丈夫だよな。…出発するぞ」


「うん」










 真夜中、風の音すら聞こえない日に、僕らは国を抜け出した。

 僕らはこれから知らない土地で、ゼロからのスタートになった。でも、いいんだ。

 乙女ゲームの世界なんて、くだらない。それまでの思い出や気持ちを無視した、気持ち悪い世界。ご都合主義っていうやつ?ほんと腹がムカムカしてくるよ。


 僕が好きなのは男だ。

 僕らが大切に思っているのは、悪役令嬢だ。

 僕は王子だけど、ヒロインとは結ばれてやらない。


 でも構わない。僕が決めた生き方だ。僕が選んだこれからずっと一緒にいたい人達だ。

 ゲームの都合?知ったこっちゃない。僕らだって生きてるんだから、生き方ぐらい自分で決める。

 敷かれたルート?ぶっ壊してやる。

 ハッピーエンド?夢なんて粉々になってしまえばいい。


 僕はユウヤとずっと共にいる。

 僕とユウヤとキャサリンと笑いあって、小さなことで喜んだりして、生きていく。

 それが、僕が決めたことだ。





「ユウヤ、おはよう」


「…ん、おはよう…。ご飯…」


「ご飯は出来てるよ。そういや、今日はキャサリンが来る日だったね、あと三十分くらいかな?」


「…なんで起こさなかったんだよ、バカ」


「いやあ…ユウヤの寝顔が可愛すぎて惚れた」


「元々お前は俺に惚れてんだろ?ほら、はやく着替えろ」


「えっ!?ちょっ、心臓に悪いから不意打ちで可愛いこと言うのやめて!」




 あれから五年。

 僕らの暮らしはとても変わった。


 剣とペンしか持ったことがなかった僕は、農具を持ち畑を耕す。朝に弱い、愛おしい彼氏のため、ご飯をつくる。街に出かけて交渉し、買い物をしてくる。


 ユウヤは、元々神級だった魔法をさらに磨いて、家を創った。時々出る魔物を、殺さずに傷つかせずにに追い返したり、服を作ったり家具を直す。


 キャサリンは、僕らのいる場所に一年に一回は戻ってきて、胸が踊るような冒険譚を聞かせてくれる。キャサリンは毎回星を100個従えてきたとか、魔王と一ヶ月間休むことなく戦い続けて勝ったとかで、もう本当に同じ人間か怪しくなる。あれれ、それは五年前も同じだったね。




 あれから、あの乙女ゲームの舞台である国がどうなったかは詳しくは知らない。

 もう乙女ゲームの内容も忘れた。ヒロインの顔も朧だ。というか、僕等がいた国の名前も思い出せない。





 乙女ゲームなんてつまらない事は忘れて、目の前にいるユウヤを見る。

 ユウヤを抱き寄せて、頬に口付けをする。

 五年間毎日やってるのに、耳が赤くなるユウヤは本当に可愛い。

 お返しとばかりに僕にも口付けをしたので、僕もやり返す。

 無限ループに入って10分ぐらい経って、あの『腐女子』ことキャサリンが気配を消してニマニマしているのを見つけた。鼻息が荒くてすぐ見つかった。世界最強が気配を隠しきれないのは僕らの前だけだろうね。




 さあ、今日も一日が始まる。

 僕の大好きな人達と共に、笑い合える日が。


書ききれなかった事情(長いので読まなくてもいいです、裏話みたいなもの):


悪役令嬢と王子が婚約破棄をするまで国外逃亡しなかった理由


魔法が存在する世界なので婚約する時も魔法を使う。

婚約破棄をする場合は、婚約した時に周りにいた人(証人になった人)が全員揃っている状態、なおかつ婚約を結んだ二人が婚約を破棄することを宣言している状態にしなくてはならない。


悪役令嬢キャサリンの家のほうがはやく婚約破棄をしろと言っていたけども、家が勝手に婚約破棄出来なかったのはそーゆー事情があったのと、

やっぱ王家と公爵家では王家のほうが偉いから、公爵家の方から婚約破棄のために集まってくれとか言えない。

王子の方も、『王子が嫌だから、悪い噂が広まってるから』なんて理由で婚約破棄すれば王家の力を自分たちの名誉を守るために使ったーとか、まあ要するに揚げ足取られてしまう。


パーティーでは王家公爵家、全員が招待されているから婚約破棄には好都合、しかも乙女ゲームのシナリオ通りなので怪しまれない。

他の時にも全員が集まる時はあったにはあったけれども、乙女ゲームのシナリオから外れるため、ヒロインが何がなんでも王子を手に入れようとする可能性があった。

となると、騎士であるユウヤも何かしらの被害を受けるかもしれない。例えば、ユウヤを洗脳して王家に公爵家の悪い噂や、命を狙ってるとか伝えるようにするとか。

それと、単に逃げる予定の国と戦争中だった。ファンタジー設定なので(乙女ゲームも)、当然戦う場面も出てくる。相手は、もちろん隣国になる。


そして、一度シナリオから外れると、未来が大きく変わる可能性があったため迂闊には動けなかった。


それらもろもろの理由で長引いた。

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