光は――人間をやめるんじゃろうか?
わしは冥たちと別れた後、幽霊の鍛冶屋へ行って、水竜と火竜の装備を一式作ってもらい、今からクロに乗ってクロのレベル上げのついでに、色んなマップを空から観光することにした。
まずは『マリン』じゃな。
ぶっちゃけもうレベル上げに使ったマップは、特化した装備にするほどでもないので、雷竜と水竜と火竜の装備を二か所ずつ装備して、雷耐性200、水耐性200、火耐性200の状態にする。これで今から行く先々で一々装備の付け替えをしなくて良いわけじゃ。というかこの為に頑張ったんじゃ。別にVRMMOに限らず、MMORPGにおいても、装備の付け替えは普通にかなりの手間で、だるい要素の一つじゃからな。見た目の悪さをカバーするためにコス表示にし、メイド服を選択し『翼の指輪』の羽根を表示させておくかの。
「わし、メイド服を着て、敵をドラゴンに乗って蹂躙するのとか、やってみたかったんじゃよね」
とはいえマナーは大切なので、他のプレイヤーがいないカニがいる場所を上空から探す。
他人に気を遣う魔王とは一体――。
「お、カニがたくさんいるのう。クロ、ファイヤーブレスじゃ!」
ファイアーブレスは黒竜のクロが最初から覚えている技じゃ。
クロが咆哮とともに辺り一帯にファイヤーブレスを吐くと、砂浜のカニがあっという間に消滅していき、クロのレベルが爆上がりしていく。さすがに聖獣魔獣ガチャで一番価値がある黒竜は便利じゃのう。
「ふふふ――今は人間の姿じゃが、思いっきり魔王プレイしておるのう!」
最近忘れとったけど、本来は魔王ってこういうもんじゃからなぁ。
よし、次は『アチチ』じゃな。
マップ移動の読み込みが終わり『アチチ』の景色が読み込まれる。
「溶岩鳥の群れが飛ぶのに邪魔じゃな。クロ、火力の違いを見せてやれ! ファイヤーブレスじゃ!」
クロの圧倒的な火力の前に溶岩鳥が燃え尽き、クロのレベルがガンガン上がっていく。
「やっぱ虐殺は良いのう――心が癒される」
次は『イカズチ』じゃ。
本来なら『イカズチ』で飛ぶのは正気の沙汰ではないが、クロに乗っている間はマップの雷など、飛行を妨げる環境によるダメージを無視できる。というかそれが出来なきゃ、ドラゴンに乗って空を飛べる意味が薄れるから当然なんじゃが。
「クロ、雷バッタ定食を作るぞ! ファイヤーブレス!」
次々に草原にいる、雷バッタが炭になっていく。
「あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
もう完全に別ゲーである。
今までがつまらなかったわけではないが『最後の楽園』がこれほど楽しいゲームだったとは。
早く光インしないかのう。光と一緒にクロで飛びたいのう。
わしは自然に光のことを考えてしまうし、やっぱわしにとって光はヒロインなんじゃ、勇者じゃが。
今わしには気になっていることがある、別れ際に冥が言っておったが、明日のアプデでついにプレイヤーのキャラが人間以外も作れるようになるらしいんじゃが、光は――人間をやめるんじゃろうか?
わしの自分でもなんだかよくわからない感情をかき消すかのように、クロが辺りを焼け野原にしていくのを、わしはただただクロの背で、ぼーっと眺めていた。




