3 覚悟を決めましたわ。
「私がリリィを選んだワケ?」
いまだ私を抱えている王子がきょとん、と首を傾げました。
「一目惚れって言ったら信じるかい?」
「いいえ、全く」
有り得ない、まあ護衛の依頼なら信じますが――と返すと、王子は何故か肩を震わせています。
ある意味護衛だが――と耐え切れないというように下を向いて少年のように相好を崩す殿下は、金色の前髪が少し揺らめいて嫌でもドキとさせられてしまいます。
チッ美形は本当に得ですわね!
そうして暫く楽し気に笑った後、もうデフォルメとなったキラキラオーラ――所謂“エフェクト”表すのがちょうどいいかもしれません――が一層輝き、その天使の如く美しい貌に真っ新な紙に一滴濃い墨を垂らしたかのような腹黒さを滲ませて王子は笑みを浮かべました。
「条件に合った者がなかなかいなかったんだ。私は王子でこれでも王維継承権第一位を所有しているからね。恋人役なんて任せられるのは、この地位に憧れるでもなく野心を燃やすでもなくかといって忌避するわけでもない、所謂『興味のかけらも持っていない』人が第一条件だろう?」
ええ、その時点で無いに等しい人材ですわね。
王子に全く関心のない方は、俗世から遠ざっかている方でも珍しいのでは?
というかこの人自分が王子だとあっさりばらしましたね?
ここで私がそれを知らずにパニックになったらどうするつもりだったのでしょう。
「更にある程度礼儀を知ったものが好ましい。マナーや言葉遣いは後でも直せるけど、根本的なものまでなってないと、躾――教育が大変だからね」
今躾って仰いましたわね?
もう隠す気もありませんね?
王子様の仮面がズタズタに引き裂かれていますが大丈夫なのでしょうか?
出来れば一生かぶっていてほしかったのですが。
「後は自分でも護身ができること。勝手に死なれるのは困るからね。馬車を野盗に襲われても、生きていてもらわないといけない。
まあ一番気をつけなきゃいけないのは暗殺の類だけど」
「……それなら、騎士団の方にお願いすればいいでは無いですか? 最近は女性騎士も所属していると聞きますし」
「あそこは父上の息が掛かっているから駄目だ」
うーん、条件がかなり厳しいです。少なくともここには一人もいません――ああ、そこでハンカチを噛んで殺気を出している私の専属侍女ならどうかしら?
ちょうどいいと思うのだけれど。
「後どんな圧力にも屈しないのも大事」
だめですね。あの子は私に忠誠を誓っていますもの。
私が少し目を潤ませて頼めば一瞬で寝返りますわ。
「とまあこれが最低ラインなんだけど」
ふるふると頭を降って王子が溜め息をつく。
まるでまだまだ足りないんだが――と言いたげです。
フザケテルのかしら?
たかが代役にどれだけ望みが高いと――
「一人思い当たる人がいるんだが、」
――居るのですか?!
もうどんなに他が整って無かろうとその子を選んで仕舞いなさいな!
きっと運命の方なのですよ。
「その人の名はリリアンローズっていうんだ。聞いたことないかい? 誇り高き蝶の玉石、白薔薇姫と名高いのだが。
もし白薔薇姫と恋仲のフリでもしたら――そのまま婚約に持ち込まれる可能性が高い。それだけは阻止したいんだ」
ソレワタシデハ?
――前言撤回。絶対に運命なんかではありませんわね。あり得ない。
流石腐っても王子。
その判断は正しいです。
まぁそんなに剣が振るえるわけではありませんけどね!
……本当よ?
「そうして途方にくれていた処に君が現れたんだ。これはもう、神の思し召しかなって」
そして迫ってくる王子。
無心ですわ。
そう。これはただの権力の塊ですの。
犬と遊ぶのと何ら変わりなく――近い!!
そして殺気半端ない!!
あちらから見ると角度的にキスしているように見えるのでしょうか。
侍女達四人の気配が尋常じゃないです。
そしてこの方はわかっていてやっておりますわね?
こ の 腹 黒 王 子 が ! !
考えるだけでうすら寒いですわ!
まあ私を選んだ理由はわかりましたし、正体がばれてなきゃ殴るのはすべてが終わってからにしてさしあげます。
所詮貴族の恋人ごっこなんて権力争いを避けるためか、女嫌いかの二択なのですわ。
覚悟を決めて茶番に付き合いましょう。
――決して普段できない役ができて楽しいとかではありませんからね?
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