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2 そういえば貴方は天使のように美しく、悪魔よりも腹黒いんでした。(遠い目)


「というか貴方は誰ですか。名も知らないのに勧誘なんて、失礼です」


 ちょっとふてくされぎみに私は尋ねました。からかわれた仕返しです。

 まあ言われなくても分かっていますけどね!

 一応名乗られてないのですよ、私。


「ああ、すみません。私はセイセル・フォン・ルートル。以後お見知りおきを、レディ」


 そう言って王子は今度は私の名前を目線で訪ねます。

 王族の名前を名乗ったのにも関わらず反応が無いのは、まさか私がその知識を持ち合わせていないからだと思っているのでしょうか。

 いったい彼は私をどれだけもの知らずだと思っているのでしょう?

 まあ二度と関わりたくありませんし、貴族だともましてや第一序列婚約候補者(わたし)だなんて知られたくないのでいいですが。


「……リリィ・アローと申します」


 少し間を開けて返事をする。

 本名のリリアンローズとは少し似ていますが、愛称はローズなので被りませんし、本名に近い方が戸惑わなくてすみます。


 そのままわざと、はぁ、と溜め息をついてセイセル王子を見上げました。


 因みに今もお姫様抱っこ、もとい抱き抱えられたままです。

 何がしたいのでしょう、この人。

 無駄に良い柑橘系のの香りが漂ってきてムカつくのですが。


「離してくださいませんか?」

「いやです」


 駄々をこねるよるような言い草なのに、顔がいいと良く見えるのは狡いと思います。

 イケメンは得ですね。いつかバチが当たればいいのに。

 ってそうじゃなくて、一度離れてもらわないと。


「何故です? 一度」

「それはね、リリィが今にも逃げ出しそうだからだよ。それに君はこの話を受けるだろう。実家、とか借金、とか関係なくてもね」


 いきなり名前呼びですか。

 そして敬語も無くなった。

 いや、庶民相手ならそれで正しいのですが。


 「……何故そうなるので?」

 「リリィなら気づいていると思ったのだが」


 自信満々に、悪く言えば悪魔のようなお腹の黒さが滲み出た笑みで王子はニッコリと笑いました。


 「君との噂はもう令嬢の間で流れてるよ。彼女らの影によって」


 そう彼が目線を向けた先には、射殺すような殺気を放つ4つの気配がします。

 その中には私をいつも過保護すぎるくらい真絹に包もうとする、専属侍女もいました。


 というかあれ?あの方見たことがありますわ。

 ああ、あの方も。

 うん、全員顔見知りですね。

 ふふふ。ふふふ……。ふふ、、、

 ……「もしかしなくてもあの方々は四大公爵の手駒で?」と瞳からハイライトを消して尋ねたくなるのを必死に堪えました。


 あの方々を知っている、なんて自分の正体を晒しているようなものじゃないですか。

 その手には載りません。

 いや、王子はそのつもりは無いのでしょうが。

 大方『お嬢様の手先っぽいのが見ていて今一人になったら殺される』などと言いたいのでしょう。


 その気なら此方も考えがありますわ。

 自分より身分の高い者には手を出さないと思っているかもしれないけど……知っていまして?

 証拠も存在も全て()()()()ことにすれば万事解決いたしましてよ?


 「ふふ。久しぶりに腕がなります」


 彼らと戦ってみたかったけれど令嬢じゃ無理だったのですもの。

 楽しみです。

 私は舌なめずりをせんとばかりに獰猛に目を光らせました。


 しかしその希望(?)も王子によって粉々に砕かれてしまいました。


 「ああ、面白い試合が見られるだろうね。だけど残念。君は私の()()()()だ」

 「何故そうなるの……まさかその為のこのお姫様抱っこ(格好)!」


 普通はもし王子と恋仲になっても、身分などの理由から表舞台から存在は黙殺、裏では圧力がかけられてめったに会えないのはまだいい方で、場合によっては国外に追放されたり、自殺に追い込まれたり、暗殺されたりして内々に処理されます。

 それでもごく偶に御子を宿したまま生き延びて問題になるのですが。


 でもこの王子は()()

 生まれながらに人を操r……統治する天性の才能が備わっていた彼は、誰もが敵に回したくない名君で、同時に自分の物に酷く執着することで有名です。

 昔気に入っていた騎士爵の側近に怪我を負わせた上流階級の息子の家の不正を()()()()()()暴き、没落させたというのは周知の出来事。

 陛下も数年前から頭を悩ませていた一件だったのですが、それを王子はいとも簡単に成し遂げていたそうです。


 そんな有能すぎる王子をどうして平民一人を殺したぐらいで敵に回したいと思うのでしょう。

 政略やらなんやらあると思いますが、それにしてもまだ婚約もしていないこの状況でお気に入り――もとい『御手付き』を害するのは割に合わない。

 しかしだからと言ってあんなぽっとでの平民風情が――と思うわけで。


 結果。

 「ああ。私と()()()()()()()()君は彼らと剣を交えることもなく永遠に付きまとわれるだろうね?」


 これでは誰にも気づかれることなく屋敷に戻れない。

 本当に忌々しい王子が!

 チッと舌打ちをしました。


 ああ、令嬢らしくないなんて言わないで下さいね。

 商人でも、下町の給仕のお姉さんでも、笑顔で舌打ちを出来ないようでは務まりませんもの。

 大体王子へのカモフラージュにはこれくらい必要です。

 彼ら貴族男性は、令嬢が舌打ちをするなんて考えもしないのです。


 きっと女性達はふわふわな世界でぬいぐるみと戯れてきゃっきゃうふふしていると思っているのです。

 実際はガンと虚偽と自慢と詮索の飛ばし合いですのにね。

 たまに舌打ちも飛びます。殿方の前では決してしないけれど。



 おっと、話が飛びました。

 まあどちらにしろ私は王子の恋人ごっこに付き合わなければいけないのでしょう。


 今私が困るのは素性がバレ、お父様に冷たい視線をもらうことですもの。

 はぁぁ。

 まあ一番イヤなのは王子と婚約することですがね。


 それにしても何故聡明な(と噂されている)殿下に限って、こんな素性も知れない女を捕まえて恋人ごっこなんかしたがるのでしょう?

 お相手はいくらでもいるでしょうに。

 もしこれで「余興だ」とか言われたら蹴飛ばしましょう。

 ええ、それは殿下に玩ばれた『リリィ』の仕業であって、『リリアンローズ』には何も関係がありませんもの。

 うふふ。


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