レイ・ノヴァvsリンカ・ソフィーティア(剣、格闘要素あり)【戦力差1:9】
試験の場にて、エルフの王子と獣人の王女が戦う事になった。
エルフの王子も天才だが、対して獣人の王女──リンカ・ソフィーティアは天災。
常に強敵を欲するエルフの王子──レイ・ノヴァは、リンカとの戦いの末に──
視点:レイ・ノヴァ
戦場:闘技場
ポイント:力を求めるあまりサイコパスになったエルフの王子。
「【憑依:月下獣】」
その言葉と共に、穏やかだった娘の雰囲気が、刃物の様な鋭い雰囲気へと変化していきます。
ふふ……ははは!! 素晴らしいです!!
「私はエルフの第二王子レイ・ノヴァ。私が名乗ったのです。娘、貴様も名を名乗りなさい」
「そっちが勝手に名乗ったのに……まあいいや、リンカ・ソフィーティア。一応獣人の王女やってる」
「なるほど、リンカ・ソフィーティア。貴様の名、覚えておきます」
「……もう殺っていい? 早く寝たい」
最後の方がよく聞こえませんでしたが、別に大したことではないでしょう。
「戦いの場でこの様な話をするのも無粋ですね。では、始めましょ──」
「分かった」
「は──」
返事が聞こえたのは私の真後ろ。
「そう簡単にはやられません!」
私は振り向きざまに剣で切り払います。
が、その剣は空を切り裂いただけ。
(何処へ──)
「じゃ、終わり」
次の声が聞こえたのは、振り返った私の真後ろから。
──振り向くのでは遅いと本能が告げます。
見てはいませんが、殺意の濃さを見るに次の行動は攻撃。
「【物理防御】」
後方に防御魔法を展開。
これで大丈夫──
「邪魔」
──と思いましたが、思い描いていた物とは異なる形でその事象は現れました。
──バリン!
小気味良い音が二連続で響く。
何が割れた音なのか……もう明白ですね。
一回目は私の唱えた防御魔法。
二回目は私の安全を確保する為に試験官が唱えた防御魔法でしょうか?
ハハッ、止めきれていないではありませんか。
試験官失格ですね。
とはいえ攻撃の勢いはかなり衰えたので、何とか回避に成功します。
試験官は防御魔法が破られた事に戸惑っているようですが、試合は続行するようですね。
本来なら試験官が手を出した所で私の負けでしょうが、リンカから色々と盗みたい私としては願ってもない事です。
このまま続けます。
身体の向きを戻し、既に私に肉薄しているリンカに目を向けます。
(膝を曲げた……この構えは低位置から放たれるアッパーカットでしょう)
私は半歩引いてその攻撃を回避。
すかさず剣で反撃する為に腕を動かしますが、その腕に下からの蹴り上げが炸裂し、私は剣を放り投げてしまいます。
──ボギィ!!
おや? 何やら変な音が私の腕から聞こえました。
折れましたか?
新しい師匠との出会いで興奮しすぎているせいで全く痛くありませんが、もう腕は使い物にならなそうです。
剣は飛ばしてしまいましたが、戦士たるもの、第二の刃も用意しているものです。
腰に差していた短刀を左手で抜き、脚を振り上げてスキだらけになったリンカ身体へと、この刃を突き立てる──
つもりでしたが、今度は空いていた手で短刀を掴まれてしまいます。
人差し指と中指で挟んでいるだけですが、全く動きそうにありません。
──ですがここは超至近距離。
こうなったら自爆覚悟です。
ここで爆発魔法を使えば意表を突けるでしょう。
「【炎──」
そう、思いましたが──
「ふんっ!」
「あがっ……」
──リンカの脚が、私の頭上にあることを忘れていました。
踵落としをもろに食らってしまいます。
その一撃は私から意識を刈り取る恐怖の一撃。
ははは、まともに立つことすらできませんね。
力もまるで入りません。
地面が冷たい……
私はうつ伏せで地面に倒れているようです。
「遠慮はしたから、骨は折れてないはず」
リンカが何か言っているようですが、よく聞こえません。
(確かに、身体はボロボロですが──)
沈み行く意識の中で、如何にしてリンカの技術を盗むかを考えてみます。
そうすると──
「すば、らしいぃ!!」
あぁ、あぁ! 興奮が止まりませんねぇ!
この圧倒的な力量差!
つまりこの力量差の分、私が登るべき階段があるのです!
なんと素晴らしいことでしょうか!
「うひひひひ……!」
そんな私を奇異の目で見下ろすリンカを最後に、私は意識を失いました。