天霧夜vsガイア・スプラウト(刀、槍)【戦力差5:5】
槍使いの獣人──ガイア・スプラウトと、試験の場で戦う事になった人間の少年──天霧夜。
特殊な槍と魔法を使う強敵を相手に、一本の刀といくつかの戦闘技術を使い、少年は挑む。
視点:天霧夜
戦場:闘技場
ポイント:防御面を忘れると──
槍を構えるガイア。
俺が魔法の使えない人間だからと油断せずに槍を構える辺り、ガイアにはスキが無い。
「始め!」
考えてるうちに試合が始まった。
ガイアはその場で脚を引き、槍を持った右手を肩の後ろに引く。
その構えからガイアの動きを予想する。
──槍の投擲だ。
俺は鞘に収めていた愛刀──天之叢雲を抜き、飛び道具を撃ち墜とす技──【流墜】の構えをとる。
そして──
「【追跡の投槍】!!」
「【流墜】!!」
途轍もないスピードで迫る槍を正面から叩き伏せ、槍に流れる力の向きを下へと変換する。
──ギィィィィンンン!!
闘技場に金属音が鳴り響き、槍が地面へと突き刺さったのを確認。
俺は得物を失ったガイアに突撃する。
いきなり槍を投擲したのを見るに、他の武器を隠しているのは間違いない。
念の為、気配察知能力を莫大に上げる【感覚拡張】を使い、俺はガイアとの距離を詰める。
が──
「よそ見厳禁だぜ?」
【感覚拡張】を使用した瞬間に、それの存在に気付いた。
「なっ!? っっっっ!!!!」
後ろから猛スピードで迫っていたそれ──ガイアの槍をスレスレで回避する。
(今のは危なかったな……)
【感覚拡張】を使ってなかったら気付かなかっただろう。
「よく避けれたな」
「死角からの攻撃には慣れてるんでな」
俺が槍の対処に追われている間に、距離をとっていたらしいガイア。
一旦仕切り直しだ。
(さて……)
俺は考え続ける。
ガイア自身は一歩も動いていないはずだ。
にも関わらず、地面に刺さった槍は俺を襲い、ガイアの手元に戻った。
ガイアが魔法の詠唱をしていたようにも見えなかった。
まさか……付与か?
──【特殊能力付与状態】。
これは何らかの形で、武器に特殊能力が付与されている状態を指す。
ガイアの槍には特殊能力が付与されている可能性がありそうだ。
戦闘前は近接戦になると思っていたが、相手に遠距離攻撃の手段がある以上、その考えは改めざるをえない。
なら──
「次は俺から行かせてもらう!」
駆け出す俺に対し、例の槍を構えて受けの体勢に入るガイア。
だが──
(崩しは俺の得意技だ……!)
俺には受けに徹した相手を崩せる技を、いくつか持っている。
まずは──
「【変更】」
俺の状態を広範囲を感覚で捉える【感覚拡張】から、視覚以外の五感を代償に狭い範囲での集中力、視覚機能を爆発的に増加させる【集眼】に変更する。
それによって多角的な攻撃には弱くなるが、相手が完全な受けの体勢の場合、その可能性は低い。
俺は鞘の刀に手を掛け突撃。
もう互いの射程圏内ギリギリだ。
だが、俺は刀を抜かない。
そんな俺に対して、槍を突き出すガイア。
その突き出しは鋭く、まともに受けていてはキリがない。
更に剣にリーチで勝る槍は、対剣の戦闘において先手を取りやすい。
だからこその突き出しだったのだろうが──
(それは読んでいる!)
──手をかけた刀はフェイントだ。
俺は突き出された槍を斜め横に回避し、槍の柄を横から掴む。
そこからガイアの右手──槍の持ち手を蹴り上げる。
槍を弾き飛ばし、その間に接近戦で決着をつけるのが最善だろう。
「!? ……!」
意表を突き完璧な軌道で入った蹴りは、ガイアの槍を宙に舞わせる。
何か言っているようだが、集眼状態の俺には聞こえない。
だが、動揺しているのは分かる。
その瞬間を見逃さず、抜いた刀でガイアに斬り掛かる。
だが──
「【…………】!」
「届、かない!」
至近距離で放たれた風魔法は、俺に回避を許さない。
やむを得ず、刀身で風魔法を受ける。
風魔法は対象にダメージを与えるより、吹き飛ばす事に重きを置いた魔法。
近接戦しか出来ない俺にとって、強引に距離を開く風魔法は厄介極まりない。
距離を再び詰めようとした所で──
──蹴り飛ばしたガイアの槍に、遠距離攻撃の手段がある事を思い出した。
【集眼】状態の俺は、対象を視覚に捉えていなければ無力だ。
(しまっ……!)
その状況を理解し、飛ばした方向に目を向けるが──
もう遅かった。
俺の目の前には槍が迫り、咄嗟に刀身で受けようと身体を動かすが、間に合いそうにない。
このままじゃ刺さる──
「【物理防御】!」
……はずだったが、俺の目の前に防御魔法が展開される。
【集眼】を解除し、ふと試験官の方を見ると、こちらに手を向けていた。
この防御魔法は試験官が展開したものなのだろう。
試験官に一礼し、両手を上げで敗北を認める。
「勝者、ガイア・スプラウト!」
危ないですね。