天霧夜vsジル・ブラッド(刀、斧要素あり)【戦力差1:9】
霊装──それは一部の人間が持つ強力な武器。
雷を発する斧の霊装を持つ男──ジル・ブラッドに、高い戦闘技術を継承し続けた天霧家の少年が、たった一本の刀で挑む。
視点:天霧夜
戦場:屋敷のホール
ポイント:格上の相手に立ち向かうには──
鞘に手を当て、ジルへ駆ける。
俺の腰に携うこの刀は、俺の家に伝わる名刀──【天之叢雲】
その切れ味は霊装に引けを取らない。
霊装の普及化で名刀の価値は鑑賞用に落ちてしまったが、【天之叢雲】は今尚、他の霊装に対抗できる稀有な刀だ。
ジルは数多の実戦を潜り抜けてきた歴戦の戦士。
搦手を使った所で簡単にいなされてしまうだろうし、全力でぶつかった方がまだ勝機があるだろう。
「俺とまともに立ち会って、立っていられる奴はなかなかいないんだがな」
そこで背中に手を伸ばし、斧を掴むジル。
もうすぐ俺の射程圏内に入ろうかという距離で──
俺はある技を使う。
「【集眼】」
その瞬間、俺の世界から音が無くなる。
──天霧流戦闘術【集眼】
人間は自ずと集中力を分散して生きている。
それは周囲の危険を感じ取り、即座に行動する為の生存本能だ。
【集眼】は生存本能──周囲への注意力、聴覚や味覚といった感覚を一時的に遮断し、視覚から得られる情報処理能力を爆発的に強化する技だ。
他の五感を完全に捨て視覚に一点集中する事で、視覚内での情報処理能力は通常時の十倍を超える。
視覚外からの攻撃に対処出来なくなるというデメリットはあるが、視界に捉えてさえいれば、【集眼】状態の俺は無類の強さを発揮できる。
視線、構え、筋肉の動き──
ジルを攻撃へと転じさせる要素を視覚内で全て計算し、ジルの攻撃を俺の未来と結合。
そこから予測されるジルの攻撃地点。
──地面だ。
一点に集中力を集めたせいで時の流れを遅く錯覚している俺は、その真意を深く探る。
ジルの霊装が雷を纏うものだというのは知っている。
その情報を加味した上なら、地上に電気を流し、俺の動きを封じる位の事は想定出来る。
このまま地を走り、ジルに突撃するのは危険だろう。
──なら!
斧が地面に接触する直前、俺は地面スレスレを跳躍する。
足と地面との間は10cmも無い。
この方法なら勢いを殺さず、かつ予期せぬ攻撃を避けられる確率が一番高い。
更にこの距離なら、鞘から抜いていなかった【天之叢雲】の抜刀タイミングとしても最適だ。
だが──
『読みは悪くねぇな』
ジルの口はそう動いていた。
斧が地面に触れたその瞬間──
(……何も無い?)
何も起こらなかった。
(焦るな、ジルの考えを読み取れ……!)
斧の叩きつけられた地面を確認するが何も無い。
再び正面を向くと──
「な!?」
ジルが消えた。
そこには彼の斧が刺さっているだけだ。
跳躍と抜刀の勢いを止めきれない俺は、地面に突き刺さった斧の柄を、身体を捻って回避する。
霊装は絶対に壊れないという性質を持つ。
ここで柄に切りかかって【天之叢雲】の刃を傷付けるよりは回避した方が良い。
そう判断しての行動だったが──
「ぐっ!?」
一連の行動全てがジルに読まれてる事を、背中に加えられた凄まじい衝撃で察した。
「いい気迫だったが……まだまだだな」
俺の意識はそこで途絶えた。
やはり経験が一番。