第1話 国立防衛神代学園
説明回になってしまった。
話は何も進んでいません。
長い廊下をゆっくり歩く足音が聞こえる。が、その音は決して軽やかとは言い難い。重いと表現する方が正確だろうか。
「はぁ、行きたくねー」
ため息の主―――暁 慈蓮の表情は廊下の横、その端までズラッと並んだ大きな窓ガラスから差し込む日の光とは対照的にとても暗い。普段はそれなりに人がいる場所だが時間的に今は暁の姿しかないようだ。
「ここに来るの間違えたか?あいつら俺の言うこと全然聞きゃしねーし」
そんな独り言を喋りながら暁が向かう先は生徒の待つ教室だ。まあ、待っているかは甚だ疑問だが。
そうあの多々羅 礼華の勧誘から学園に来て既に2週間が経っていた。当初はそれなりに意気込んではいたのだ。
なんだったらちょっとワクワクしちゃったりもしてたわけだが...少なくとも教室に入るまでは。
「まあ、気持ちはわかるけどな」
暁は苦笑いしながら自分の顔、目元に触れる。
原因はわかっている。目の"それ"だ。しかし、今その事を考えても仕方がないこと。
「さ、今日も一日を乗り切ろう」
暁が立ち止まったその前にあるこのクラスの名は"特別クラス"。少し...いや、かなり個性的な奴らが集まった暁の担当するクラスだ。その教室に手を伸ばし扉を開く。初めてここに来た時を思い出しながらゆっくりと。
〜〜〜〜〜〜〜
時は遡ること2週間前、暁はCD-Rのヘリに乗って学園にやってきた。そのヘリにはパイロットと暁しか乗っていない。因みに礼華は暁を勧誘したあと直ぐ東京にあるCD-R日本支部に戻っている。礼華はああ見えて以外に色々と忙しいのだ。訳あって"最近"更に忙しくなったわけだが。
「にも、関わらずわざわざあんなとこまでご苦労なこった。…それにしても、上から見て思ったが想像より随分と大きいな」
暁がヘリから降りつつ関心したように言う。誰に向けてというわけでは無く思わずと言った様子だったが聞こえていたのだろう律儀にもヘリのパイロットが操縦席から暁の方へ振り返りそれに答える。
「未来の優秀な若者を育てる場所ですからね。期待しているんでしょう」
「期待ねぇ…」
学園の大きさは周辺にある建物の何よりも遥かにでかい。それだけでも国がどれだけ力を入れているのか分かると言うもの。
学園を建てる計画に反対意見はもちろんあった。それも当然のこと、いくら学園といえど好き好んで子供を危険な場所に送る親はいない。それが例え国の為であったとしても。それでも計画が通ったのはその子供達、当人の多数の賛成意見があったのも大きい。やはり何もしないということに思う所があったからだろう。
暁はそれに対して外のことをほとんど知らないから言えることだと思わなくはないが口にはしない。言ったところでもう既に学園はできてしまっているのだから。
「お待ちしていましたよ。暁さん」
そんな事を思っていた暁に声が掛かる。その声の方へ顔をやると優しそうな笑顔を向ける男が立っていた。暁がなんて返そうか少し迷っていると「あ、これはすみません」と頭を一度下げてから男が続ける。
「申し遅れましたね。私はここで同じく教師をしている橘 翔悟といいます。
今日は暁さんの案内役を承りまして。よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな…あ、いや、すまん。敬語がどうも苦手なんだ許してくれ」
「あはは、僕のこれは癖みたいなものでして歳も近いようですし構いませんよ」
そう言う橘の外見は10人中8人はイケメンと答えるような容姿をしている。物腰柔そうな雰囲気はさぞかしモテるに違いない。身長も175cmと暁より少し小さいくらいだろうか。
「とりあえず、説明がてら学園の案内をしますので付いてきてください」
「わかった」
「暁さんがこの"国立防衛神代学園"に来てくれてほんとに良かった。これからお互い頑張りましょう」
と、そう改めて笑顔を向けるのだった。
〜〜〜〜〜〜〜
それから1時間くらい案内を受けた。
CD-Rは世界各国にその支部を置いているが学生を育成するための学園、それは東京にあるこの神代学園しか今は存在しない。各地に作る話も出てはいるがまだ先の話だろう。
先延ばしされる大きな要因は資金の問題だ。学園を作り維持することに莫大な金が掛かってしまう。それこそ各国から集めなければないけないほどに。では、何故日本に作ることになったのか。それはただ単に日本支部の発言力が高いというのがある。その理由が暁を捕まえたことによるものだったりするのだが暁本人はまったく知る由もない。
そうした経緯で唯一の学園に世界各地から生徒が集まることによって前に少し話した通り教師数の不足問題が浮上。そして、礼華の誘いに暁が乗りここに来ることになったわけだ。
学園が出来てそれからの大まかな流れは大体こんなものだろうか。じゃあ、次は内部の話に移ろう。
学園は、"訓練ブロック"、"諜報ブロック"、"学業ブロック"、"寮ブロック"と大きく四つのブロックに分かれている。
"訓練ブロック"は基礎体力、対人戦、護身術その他必要項目を身に付ける場所だ。能力の更なる向上を目的としてここでは生徒が互いに戦いランク付けが行われる。その為のランク戦があるのだが今は割愛で。一番活発で生徒の利用が多い所と聞かれれば間違いなくここだろう。
"諜報ブロック"は生徒が自由に最新鋭のコンピュータを使える場所だ。主にハッキング技能などはここで覚える。コンピュータの性能は多少の規制はあるもののCD-Rが使うそれに引けを取らない。時に情報は何よりも大事になるとあって体力に自信の無い生徒はこちらに力を入れているようだ。
"学業ブロック"は普通の学校と同じで生徒が勉学に励むと同時に世界情勢や犯罪組織を捕まえる為のノウハウを教わる場所だ。当然と言われればそれまでだがこの学園、割と学力も重要視されている。それは、学生の本分は勉強だぞ!という親からの意見があったからだが残念ながら殆どの生徒がそれなりで有ればいいとあまり関心がないようだ。まあ、確かにいくら大事とは言えそんな事をしにきた訳じゃないと言われればそう思わなくもないが。ともかく、生徒はまずここに集まることになっている。
"寮ブロック"とはその名の通り生徒が住む場所だ。この学園は全寮制で何らかの事情がない限り学園の敷地内から出ることは禁止されている。もちろん、外部から入ることも。治安が前より良くなっているとは言え危険であることに変わりはないというのがそうする理由の一つだ。
「他にもそうしなければいけなくなった事情があるんですが…今は時間も限られていますので今度また改めてということで。まあ、禁止されてるとは言え敷地内だけでもある程度済ませられるとあって今のところあまり不満はでていないんですけどね。…と、学園施設の説明はこれくらいでしょうか。他に聞いておきたいことや質問はありますか?」
歩きながら説明をしていた橘がその場に止まるとそう聞いてくるが暁は首を振る。他にも施設はあるらしいが今は知る必要はないだろう。
「いや、施設説明は十分だ。助かった」
「いえいえ、それならよかったです」
「あとは、そうだな。聞きたいのはクラスのことや俺の担当に関する話か」
「あっ、そうですよね!すみません!さっき行ったときに一緒に説明するべきでした!」
慌てて橘はそう言うと先程行った学業ブロックに移動しながら説明するらしくそこに向かいつつクラスについて話し出した。
「クラスは全部で5つあります。Sクラス、Aクラス、 Bクラス 、Cクラス、そしてもう一つ…」
入学時にクラス分けが行われる。それらは上から順に学園側が選んだ優秀な生徒たちだが先程話したランクはクラス分けに直接関係があるわけではない。もちろん、Sクラスにランク上位者が多くいるのは間違いないだろうそれでもCクラスにもいたりするのだ。つまり、それは総合で考えてクラス分けが行われるということ。ランクが低いからと言って出来損ないであるとは限らない。まして、諦める必要もないのだ。そういった考えも生徒の中にはあったりするが学園側は公平に判断している。
そして、そんな評価基準とは別の基準で成り立つクラスがもう一つ。
「最後に、特別クラスです。そして、このクラスが…暁さんの担当クラスになります」
特別クラス。その実力はSクラスに及ぶ生徒も多くいるだろう、もしかしたらその上をいく生徒もいるかもしれない...が何かと問題が多いのだ学園側としても手が余ってしまうくらいに。だから、隔離...一つのクラスにまとめてしまおうとなったわけだ。にしても、
「…そんなクラスに新人の俺が担当すんの?」
さも、めんどくさいという事を隠しもしない暁の態度に橘は苦笑いしながら答える。
「前の担当していた人が先日突然居なくなってしまって、急遽暁さんに担当してもらう流れになったんですよ。僕も難しいのでは?と言ったのですが暁さんならきっと大丈夫だと」
「おい、誰だ。んな無責任なこと言った奴は」
...まあ、想像は付くが。要はまんまと押し付けられた訳だ。そんな話など一度も聞いてはいない。あんのチビ!!やってくれたな!っと悪態をつきそうになるのをグッと我慢する。
「...でそのクラスはどこにあんだよ?」
「今から案内します。生徒との顔合わせも含めて」
暁は嫌な予感を覚えながら、されど少し胸が踊る気分を、そんな自分を誤魔化してそこに向かうのだった。
クラスに入ってしまうとまた長くなりそうだったので区切りもいいという事でここまでで。
次回は生徒と対面になります。
設定が曖昧過ぎる。
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