吸血鬼姫は思い出す
少女は、巨大な扉の前で立ち止まる。
少女の背丈の3倍はあろうという石造りの巨大な扉。
すぐに扉を開けようと
慌てて衛兵が扉へと駆け寄ってこようとするが、
少女はそれを右手で制した。
少女は、巨大な扉を見上げて、思い出す。
ーこの扉…かつて同じ主に仕えた仲間、
巨人族の副王ビレストの奴の為に大きめに作らせたのじゃが…
もう、この大きさである必要は無くなってしまったのじゃから…
作り変えさせるべきなのじゃろうな…
彼女は、胸に一抹の悲しさを覚えながらも、
扉に手を伸ばす…
そして、吸血鬼の衛兵達が4人がかりで開ける扉をいとも簡単に開けてみせる。
巨大な扉を抜け、
少し広めの石造りの通路を真っ直ぐに歩いてゆく、
本来であればここまで広く作る必要は無いのだが…
これもかつての名残である。
そして、到着する。
そこは、ヴェルマスを一望できる回廊である。
ヴェルマスにおいての最高の高さを誇る巨城の最上階。
一階からここまでおよそ20mもの高さがある。
ここからのヴェルマスの眺めは、絶景である。
ヴェルマスは、直径5km程の大きな円状国家である。
地下洞窟を拡張しているため、周りは、土で覆われている。
そしてその土の中には所々鉱石が入っているため、
その鉱石が光を反射し、
幻想的な美しさを演出しているのだ。
地下洞窟には、光が入ってこない、その為本来は真っ暗で何一つ見えない…
まぁ、吸血鬼種には何の問題もないのだが…
かつて、主より、この場を会議の場所にする!
と宣言を受けて以来、
他種族も来る以上それでは不便との事で、
光魔法で常に一定の明るさを保っている。
ーこうして見てみると未だ私は過去に囚われておるのだな…
自身を嘲笑うようにそう考える。
ここは、最上階である。
彼女以外の者は、皆そう考えているだろう…
しかし、この城には彼女しか知らない
もう一つ上の階が存在している。
かつての主がある願いを込めて作った…
魔法で隠蔽された隠し部屋ー
彼女は階段へと向かうことなく、
回廊の壁のくりぬかれた、
本来絶景を楽しむ為の場所へと足をかけ、
そしてそのまま飛び降りる。
その瞬間腕で抱えていた少年が
何か言いたげな表情でこっちを見ていたが
とりあえず、スルーする。
すぐに彼女を強い浮遊感が襲うー
しかし彼女は何一つ焦ることなく、
背中に意識を向ける。
ー瞬間、
彼女の肩甲骨あたりから蝙蝠の羽根のような、
黒く美しく大きな羽根が現れる。
吸血鬼種は、
全ての者が歩き始めてすぐぐらいの歳から、
飛ぶ術を覚えるー
その為、彼女らの服には
必ず羽根を通す為の穴が空いている。
穴が見えない様に工夫されているのもあれば、
それがオシャレと言わんばかりに
大きく穴を開けているものもある…
ちなみに彼女は、後者である。
彼女が羽根を一振りした時点で落下は止まりー
二振り目で急上昇を開始する、
何やら左腕の方から…
ウグッ!
という謎の音が聞こえて来た気がするが気のせいだろう。
そんなことを考えている間に目的の場所へと到着する…