焦燥
「僕達もいこうか!ネム!」
「そうだね!ネク!」
ー大好きな父を殺した敵
大好きな兄を傷つけた敵
大好きな母を悲しませた敵
そんな愚か者どもにはー
死んでもらわなきゃね!
クイナから逃げ惑い
ネクとネムのいる方へと走って逃げてきた数人が
声を荒げて二人へと襲いかかる
「邪魔だぁッ…!どけッ…ガキども!」
そう言いながらおもいっきり
持っていた大剣を振り上げる
ーその瞬間
…彼は見た
その二人の幼い顔に浮かべられていた
無邪気でゾッとするそんな笑みをー
二人の幼い少年と少女は
紫の髪を揺らしながら飛び上がり
大剣を振りかぶっている
大男の顔と腹を
おもいっきり蹴りつける
その瞬間にその大男の体は宙へ浮き
逃げようとしていた
他の数人の間を通り
大樹へと叩きつけられた…
逃げようとしていた
男達は皆目を疑うー
当たり前である
巨大な体躯を持って
チームでも最大の怪力を持っていた
頼もしき仲間が何もできず
目の前の小さな少年少女に
蹴り飛ばされたのだから
二人は無邪気な笑みを浮かべて言う
「お兄さん達も、一緒に遊ぼうよ!」
そうして逃げようとしていた
男達もその恐ろしい笑みを目に焼き付け
子供達の遊び相手とされ…
人生に幕を閉じていったー
ネクとネムの様子を見守りながらも
俺はずっと彼らの兄だという
大蛇へと【贈与】を発動させていた…
しかしー
ー遅いッ…何故だ?
回復が全然進行しないッ…
大蛇の体は回復の兆しを見せない…
それに身体の変化も
ゆったりとしたものであった
ーッ…このままじゃ手遅れになる
俺は焦りながらも、原因を探るー
まさか、死にかけているから
【贈与】が発動しないのかッ…?
いやアビリティにそんな条件はー
そこまで考えてある可能性に気付く
ーッ魔物でも特別強力な個体…
そいつらは魔法やアビリティへ
ある程度耐性を持っていたはずッ!
どうする…このままじゃまた助けられないッ…
ーアリシアの時の事が脳裏によぎる
クイナ達にあんな思いはさせたくないんだ!
考えろッ!
何の力もなかったあの時とは違うはずだ…
何か方法がー
頭をフル回転させ全力で考える
強い焦燥感に襲われる中
それでも頭は冷静に…
ーッ…これしかない
そう考え、思いついた瞬間
即座に実行に移すー
【贈与】で分け与える物の中に
自身の回復力の一部も加えたのであるー
耐性によってそれもゆっくりとしか
進行しなかったが
身体の変化が始まるまで
死なせなければ良いのである
そうして少しずつ大蛇の傷を回復してゆきー
俺の回復力が10000程吸収された瞬間であった
突如として強烈な光が放たれ
人の形へと収束を始めたのである
俺はそこで一先ず安心しながらも
【贈与】のアビリティの発動をやめ
指輪の保存領域から真っ黒な服を取りだし
素早くかけてやったー
そして光が収まりそこに立っていたのはー