魔蛇と名前
俺はいくつか気になる事があった
しかしその前に…呼び方がないと困るな…
そう思い聞いてみるー
「ねぇ、君達に名前は無いのかな?」
ちなみに、ずっと立ち話も何なので
場所を移して、
向かい合う形で
先程の戦闘の余波で倒れてしまったのであろう
大樹に腰をおろしていた
子供達はどっちが母親の膝の上に座るか
言い合っている
…とりあえずはスルーしとこう
「名前…ですか?」
「そう、名前…無いかな?」
一応ヴェルマスの国民の記憶を
引き継いでいるはずだが…
それが灰の状態から
どの程度引き継がれたのか分からない
名前という概念を知らない可能性もー
俺がそこまで考えた時、
「名前というのは、個人を識別する為の暗号のようなもの…ですよね。」
ーと思案気な表情を浮かべながら
母親が呟きー続けて
「私達は、みんな家族だから名前なくても大丈夫なんだよ!」
ーと少し自慢気に
母親の膝の上で少女が
満面の笑みを浮かべて言う
ーどうやら、魔物の蛇ー魔蛇というのは
種族というよりは
家族という単位で行動するらしい
その為名前が無くても意志疎通可能で
問題なく行動できていたようだ…
ーそれはちょっと困るな…
そう考え提案してみる
「名前が無いなら、俺が名付けても良いかな?」
ーと
…正直ネーミングセンスが壊滅的だから
あまりしたくない提案だったのだけれど…
このままじゃ困るからな…
すると
「よろしいのでしょうか?…是非とも御願い致します。」
ーと頭を下げられる…
ーこうして名付ける事になったのだが…
どうしたものか…
何だか物凄く目を輝かせて
こっちを見つめてくるため
プレッシャーが凄い…
二人の兄弟は似た響きが良いかな…
蛇…スネーク…スネイク…ムラサキ
ネクとネムで良いかな?
それで母親は…
ホワイトスネークマザー…
何となく思い付いた単語を並べてみた
クイナとか?
ナがどこから発生したかとか
それ鳥じゃ…とか気にしたら負けである…
「よしっ決めた!」
思いきってこれに決めて
丸太から立ち上がり
一人一人に名前を伝えてゆく…
男の子にネク
女の子にネム
そして母親にクイナ
ーと
「ネク!僕ネクって名前だって!」
「私はネムだったよ!似た名前だね!嬉しいな!」
子供達は思い思いにはしゃいでいる…
もしここで子供達に
がっかりした表情をされようものなら、
3日は立ち直れなかったかも…
危ない…
それで母親ークイナの方はというと
感動したという表情で
「クイナ…それが私の名前…いい響きです…ありがとうございます。」
そう言ってくれた…
というか…勝手に名前つけちゃったけど
そもそもまだクイナ達に
俺の目的伝えてないんだよね…
まだ本人達が協力してくれるかも
分からない状況なのに…勝手に名付けって…
なんか恥ずかしくなってきた
恥ずかしさを誤魔化しながらも
表情を改めて
「それで、クイナ、ネク、ネム一つ聞きたい。」
と言ったー
すると、大事な話だと感じ取ってくれたのか
クイナも
活発な子供達ネクもネムも
皆真剣な眼差しを俺に向けてくれた
俺は三人に向かって頭を下げて頼む
「クイナ、ネク、ネム…俺に力を貸してくれないか?」
それで、頼まれた方はというと
驚愕の表情を浮かべて慌てていたー
「あ、頭を上げて下さい!…頼まれずとも私達皆貴方様への忠誠を誓っております!」
「ですので、そのようなことをせずとも一つ命令を下して頂ければ…直ぐ様実行して見せます!」
そう言ってくれるのは
とても嬉しい事なのだが…
俺はそこまで
感謝される事はしてないと思うのだが…
そう疑問に思い聞いてみる
「俺は大したことしてないと思うけど?」
すると、クイナに直ぐ様
「そんな事ございませんよ!…自身の成されたことの偉大さをもっと自覚してください!」
ーと全力で否定され…何故か
俺のした事の偉大さというのを
説教されることに…
クイナが言うことには
ー魔物というのは知恵が無い故に
力が全てである
よって弱肉強食が絶対ー
そもそも俺に押さえつけられた時点で
死んだも同然…らしい…
その状態から私達全員を見逃し
その上で力を…知恵を授けたー
魔物にとって知恵ある生命というのは憧れで
名前というのも憧れの一つであったらしい…
しかしそれは願っても手に入らないもの
ーそう諦めていたら
そこに俺が現れ与えてくれたー
クイナ達から言えば忠誠を誓うのは当然…
ということらしい
どうにも釈然としないが…
まぁ、クイナ達が嫌がっていないなら良かったかな。
そんな事を考えていたら
クイナからあるお願いをされる
それはー