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第8話 旅立ちへの準備

いつも見ていただきありがとうございます。

今話で大まかに序章が終わりとなります。


とはいえ、まだしばらく一章ですが…。


この話の次くらいまでがプロローグですね。。

 ゴブリンの襲撃を経験してからというもの、アレクセイの研究はこれまでの趣味程度のものとは一線を画すものへと変わっていった。


 はっきりとした身の危険。それがアレクセイの危機感に火をつけた。


 きっかけがどうであれアレクセイの魔法に対する探究心と執着心は凄まじく、ありとあらゆる魔法の研究を行ったのだ。


 日に10時間以上自室にこもり、何事かをぶつぶつと呟き続けるその姿をみて、使用人達は幼い子供が魔物の毒にやられ気が触れてしまったと噂をするほどであった。


 実際には魔法研究に没頭し、あらゆる新理論を試行錯誤しているだけだったのだが、そんな事など知る由もない。


 こうして7年の月日が流れていた…。




 アレクセイは12歳になっていた。


 この7年間での研究は膨大な量の新発見をもたらしていた。


 まず、この世界における常識とされていた、1人1つしか魔法を使えないという説は完全に否定されていた。

 アレクセイが実験したところ、魔法の使用に関して必要な要素は二つあることがわかった。一つは言わずもがな、『魔力』である。魔力は全ての人間が備えており、その大小は存在するものの、概ねどんな人間でも魔法を発動させるだけの魔力を保有していることがわかっている。

 そしてもう一つの要素が魔法を二種類使えないとする説を確立させてしまった、最大の原因でもある『魔力操作能力』であった。


 魔力操作能力とは魔法を使うために必要な魔力を、発動させる魔法に合わせて変化させる能力である。

 魔力は本来そのままではどのような特性も持たない。仮にあらわすとすれば『無属性』の状態である。これを自分の魔力操作能力によって『火属性』の魔力へと変換していく必要があるのだ。

 例えば、火を発生させる魔法を使うならば魔力を『火属性』へ変換し、その状態の魔力を高めていくことで熱を発生させるという手順が必要になる。

 ところが、多くの人々はこの魔力操作能力を高める訓練を行っていないのである。


 実験の結果、アレクセイはこの魔力操作能力を著しく上げる方法を見つけ出した。


 やり方は単純で、無理矢理にでも魔法を使おうとすればよかったのだ。


 魔法を覚えるとその魔法を使うための魔力操作を体が自然と覚えてくれるらしい。ゆえに、風を起こす魔法を覚えれば自然と使う魔力が風属性へと変化してくのである。

 しかし、ここで別の属性の魔法を使おうとすれば、慣れていない体は強い拒否反応を示す。それが強烈な疲労感や脱力感となって襲ってくるのである。


 多くの人はそこで魔法を複数つかうことが無理であると勘違いをするのだ。


 だからこそ、無理矢理にでもそれを乗り越えて魔法を使おうとすると魔力操作能力も伸びることがわかった今は、積極的に複数種類の魔法を使えるように訓練を行っていた。


 イメージとしては、スポーツの練習に近い。

 サッカーをやっている人は、サッカーの動きに関しては上達するだろうがそれ以外のスポーツが上達するわけではない。サッカー選手にテニスをさせてもいきなりプロ選手のように動くことはできないのと同じである。


 しかし、サッカー選手もテニスの練習を続ければ上達していく。しばらくすればある程度までテニスをする事が出来るようになるだろう。

 この事実を発見した時のアレクセイの喜びはひとしおだった。


 そして、魔法操作能力がスポーツでいう『技術』であるならば、魔力は『体力』の部分であった。魔法を使うためには魔力を高める必要もある。しかし、それは魔力を使い続けていれば自然と増大していくことがわかった。


「つまり、この世界の人達って、魔力トレーニングだけして技術を磨かない魔力バカの状態になってるってことなんだよなぁ…。」


 これほど魔法に関する調査ができたのも、ひとえにアレクセイの特殊な力のおかげであった。


 アレクセイは自分の能力についても研究を進めていた。


 以前ライナスに言われた「魔力を見ることのできる目」というのが気になり、その原理を研究してみたのだ。


 結論としては、これも魔力操作能力が関係していた。

 魔力は体の特定の部位に集中させることで、身体機能を向上させるという事がわかったのだ。つまり、魔力を見ることのできる目とは、『魔力を目に集中させて他の魔力が見える状態の目』ということであったのだ。


 そして、この状態を駆使すれば他人の魔力量や魔力操作能力を大まかに把握することもできたのだ。


 魔力量は体の周りに滞留している魔力光の明るさで判断する事ができた。そして、魔力操作能力はこの滞留している魔力がどのように体を覆っているかで大まかに判断することができたのだ。




 これらの理論を裏付けたのはリーナの存在であった。


 ゴブリンの襲撃を受けた後、リーナはしばらくの間家から出られずにふさぎ込んでいる時期があった。4歳の子供にトラウマを植え付ける出来事として、あれほど適切な事件もないだろう


 家の外、とりわけ森の中を恐れるようになったリーナは、以前までの活発さが嘘のように大人しくなってしまっていた。


 そんな状態を心配したアレクセイは、リーナに魔法を教えることにしたのだ。


「魔法が使えるようになれば、前みたいにゴブリンに襲われて手も足も出ないなんてことにはならないさ。」

「本当に?私でも魔法が使えるの?」


 そう返答したリーナの目にはやはり怯えの色が見て取れる。

 魔法を訓練し使いこなせるようになれば、魔物や外の世界への漠然とした恐怖感を払拭できると考えたのだ。


 二つ返事で魔法の訓練を受け入れたリーナは、アレクセイの理論を証明するための良きパートナーとなった。


 魔力の使い方や魔力操作のやり方を教えると、驚くほど早く身につけ上達していくリーナの姿を見て、アレクセイは自分の理論が間違っていなかった事を確信した。


 そして魔法が上達していくに従い、リーナは以前の明るさを取り戻していったのだった。


 こうしてアレクセイとリーナは人知れず、この世界の魔法の常識を破壊し続けていった。



 一方で、アレクセイは別の疑問も抱いていた。


「なんでこんなに魔法の技術研究が進んでいないんだ?』


 本来、魔法という技術が存在するならばそれを最大限利用できるように研究が進むはずである。

 しかし、この世界においては魔法の研究が全くといっていいほど進んでいない。


「それどころか、科学技術の方が進んでいるんじゃないか?」


 研究を進めていく中で、地球の西洋史ではかなり後になってから発見される『火薬』が、すでにこの世界では使われていることがわかった。そもそも、『時計』が存在していたり、真っ白な『紙』が発明されていたりと、文明のレベルは地球の歴史から考えればありえないほど進んでいる。


 もちろん、地球とは違う発展を遂げている世界であり、同じ技術が同じタイミングで発明されなければならないわけでもない。

 しかし、魔法技術の発展度合いと科学技術の発展度合いがあまりにかけ離れすぎているように感じられたのだ。


 これに関してはいくら考えても答えが出るものではなく、アレクセイは一度考えるのをやめた。

 それはもう一つの疑問の方が重要だったからである。


「なぜ、7年前のあの日、あの場所に、ゴブリンが出現したのか…。」


 アレクセイが7年間である意味魔法以上に研究をした分野であった。

 魔物の出現は多くの研究結果があり、調べるのは比較的簡単だった。


 魔物とは、魔力を備えた生物の総称である。

 生物の中でも魔力を持たないものを『動物』と呼び、魔力を持つ生物を『魔物』と呼ぶ。つまり、魔物とは簡単に言ってしまえば「魔力を備えた動物」であった。

 しかし、魔力を備えたことで著しく身体能力が向上していたり、本来飛ぶことができないような体格の動物が飛行能力を持っていたりと、他の動物には見られないような特徴を持っていることが多いため、人間の害となる事が多いのが魔物の厄介な点であった。


 魔物は、『マナ』と呼ばれる土地の魔力が濃い場所で自然発生するものと考えられている。そのため、古くから土地の魔力濃度が濃い場所には魔物が多く出現し人々の生活を脅かすため、現在国ができている地域は基本的にマナの濃度が薄い地域が多いというのだ。


 グリンウッド王国やリンディーもこの例に漏れず。国内全域において、マナの量は少ないようだった。


 だからこそ、今回ゴブリンが発生したのは不自然であり、その原因がわからない。

 特に、一体のみ確認され、他の魔物が一切発見されなかったというのも、奇妙な点であった。


 これらの疑問は今後も研究していく必要があると考え、今後の研究計画を紙にまとめていくのだった。




 ある日、アレクセイはライナスから呼び出しを受けた。ライナスの部屋に向かうと7年経っても変わらぬ美男子がそこにいた。いや、むしろ年をとった事で男らしさに磨きがかかり、よりカッコよくなったと言える。

 ライナスに促され、部屋の中心に置かれたソファーへと座った。

 珍しくライナスの表情が暗い。


「アレクセイ。お前もわかっていると思うが、来年は学校に入学する年だ。」

「学校、ですか?」


 キョトンとした顔というのはこういう事だろう。アレクセイはすっかり何を言われているのか分からなかった。


 わからなかったというよりも、この世界にも学校があるのだという素朴な感想しか出てこない。


「13歳になった貴族の子女は、王都の学校で学ぶことが推奨されている。まぁ、私もお祖父様も通ったことはないのだが…。」

「そこでは何を学ぶのですか?」

「基本的な礼儀作法や国の歴史、算術など、貴族として身につけておきたい教養などを学ぶことになっている。あとは、魔法だな。」

「魔法ですか!」


 魔法と聞いて条件反射的に目をきらめかせるアレクセイの姿に苦笑いを隠さないあたり、ライナスは我が子の事をよくわかったいた。


「魔法はあくまで学問の一つだがな。それより何より、貴族同士の交流の場という側面が強いだろう。」

「そうですか、いつから通い始めるのでしょうか?」

「13歳となる年の10月からだ。あと8ヶ月はある。」

「わかりました。」

「そこで、お前に注意しておきたいことがある。」

「…?何でしょう。」

「私達、家を理由に遠慮するのはやめなさい。」

「……?」

 言われた意味がよく分からなかったが、真剣な表情のライナスに聞き返すのも気が引けた。


「わかりました。」


 返答に満足した様子のライナスは、もう二言三言雑談を交わすと退室を促した。




 ライナスの話を聞いた後、アレクセイはすぐさまリーナに話をしにアルザック村へと向かった。


 7年間でアルザック村には大きな変化があった。魔物が確認されたことにより、周辺の村に防備のための施設が作られるようになったのだ。(というより、ライナスによって命令が出されていた)

 強力な魔物が出る可能性を考慮し、村の周囲に物見櫓が建てられるなど、外観が大きく変化していた。


 しかし、村に暮らす人々の生活が大きく変わったわけではない。


 リーナも本来ならば家の仕事を手伝い、日がな一日農作業に明け暮れる日々を送るはずであった。


 しかし、『領主の息子と仲が良い娘』というのがある意味で誇らしかったらしく、リーナの両親もアレクセイと会う時だけは娘のわがままを許していた。


「さっき、お父様から王都の学校へ通うように話をされたんだ。」

「え、じゃあアレクいなくなっちゃうの…?」

「いや、今すぐではないよ?10月に入学だと言われたから、まだしばらくあるさ。」

「でも、10月になったらいなくなっちゃうんでしょ?」

「まぁ、そうだね。」


 7年間でリーナは大きく成長していた。女の子の方が成長が早いというのはこちらでも変わらないらしく、11歳のリーナは12歳のアレクセイよりも大人びて見えた。

 もちろん、雄二としての認識がある以上、大人の女性という感じはしないが、それでも学習塾に通ってくる同年代の教え子たちを思い返すに、やはり大人びているというのは間違いない。

 幼い頃から変わらない魅力的な目と小さな顔、なにより美しい金色の髪が「美少女」という表現にぴったりであった。


「私も王都の学校に行きたいなぁ…。」

「ついてくる?」

「行けるわけないじゃない!お母さんが許してくれるわけないもん!」


 そんな話をしながら魔法の訓練を始める。


 この世界では誰しもが魔法を使うことができるようであったが、中でも強力な魔法を使える人々のことを『キャスター』と呼んでいる。具体的な基準があるわけでもなければ、試験や資格があるわけでもないようだが、魔法の能力が高い人々は自然とそう呼ばれるらしい。


 そういう意味では、リーナとアレクセイはすでにキャスターであった。


 リーナの魔法はすでに、並みの大人とは比べ物にならないほど強力になっていたし、アレクセイは言わずもがなである。

 7年前の事件をきっかけに始めた魔法訓練は、本来リーナを元気づけるための手段であったが、思った以上にその訓練にはまっていった。

 おまけに、アレクセイはリーナのためという言い訳のもと、自分の考えた魔法理論を証明するためのあらゆる魔法の訓練方法を試していた。

 実際に効果のあった方法もあれば、効果の無かったものも多数ある。

 一度自分で実験しただけでは本当に効果があるのか自信の持てなかった訓練を、リーナにもやってもらうことで効果の実証ができると考え訓練を繰り返していった結果、リーナもまた2種類以上の魔法を使うことに成功したのである。


「そういえば、王都の学校は貴族の子女が行くところって、お父様も言ってたっけ…。」

「ほら、やっぱり。私が行きたくてもそんな簡単に行けるようなところじゃないのよ。」

「でも、俺も1人で行くのは正直嫌なんだよなぁ。」

「どうして?」

「だって…、学校っていうのは面倒な場所じゃないか…。」

「そう?私は行ってみたいけどなぁ…。」


 そんな雑談をかわしながらも、お互いに攻撃魔法を撃ち合い相殺している。魔法の発動に呪文の詠唱などは必要ないと気づいてから、可能な限り呪文を言わずに魔法を使うようにと考えていたらできた練習方法だ。


 暗い紫色をした闇属性の魔法の矢を撃つアレクセイに対して、光り輝く聖属性の魔法の矢を撃つリーナとの間で、それぞれが寸分違わずぶつかり合い弾け飛ぶ。そのたびに起こる小さな破裂音が心地いい。


「ただ、まぁ、魔法の授業が受けられるらしいから、それは楽しみかな。」

「きっと王都のキャスター達はすっごい魔法を使えるんでしょうね。」

「そうだといいなぁ。」


 そう生返事をするアレクセイは正直なところ、王都の魔法技術にさほど期待していなかった。7年の間で読み漁った様々な書物や多くの魔法知識を総合して考えるに、はっきり言って自分の方が魔法を上手に使えるのではないか、という考えが拭えなかったのだ。


 ふと、父の話をおもいだした。


 ーーそういえば、付き人を1人つれて行けるって話を聞いたなぁ。ーー


 学校生活を送る上で、身の回りのお世話をしてくれる人が必要だと考える貴族が多かったらしく、基本的に1人につき1名まで、付き人を連れて行くことができるという制度がある。


 一般的にはハウスメイドや乳母がこの役割を担うことが多いらしいため、アレクセイであればターニャが第一候補だろう。


 ーーでも、別に子供がダメってわけでもないだろうし、もし学校の中に入ってきて良いんなら一緒に授業を受けることもできるよな。ーー


 思いついたら即行動。それが信条のアレクセイはすぐにリーナに話をした。


「実は、付き人を1人連れて行っても良い、ていう制度があるらしいんだ。」

「え、なにそれ?アレクのお世話係ってこと?」

「まぁ、そんな感じ?でも、一緒に授業を受けたりすることもできると思うんだ。それでもいいなら、リーナも来る?」

「行きたい!」


 思っていた以上に決断が早いリーナに多少おどろきながらも、期待に溢れたまなざしで元気よく返事をしてくれたことが嬉しかった。


「じゃあ、お父様に話してみるよ。」

「うん、ありがとう!」


 こうして、アレクセイとリーナの王都行きが決定したのだった。

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