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第6話 リーナとの出会い

昨日あげた第5話が予想より見ていただけたみたいで、嬉しい限りです。

見ていただいている皆さん、ありがとうございます。

もうちょっとだけ主人公が5歳のまま進みます。


もし、この小説がいいと思っていただけたら、ブックマークしていただけると嬉しいです!

 アレクセイが目を覚ました時、真っ先に目に入ったのは心配そうな顔をしたターニャの顔だった。寝ぼけた頭がはっきりしてくるに従って、自分の状況が思い出される。


 ーーたしか、魔法を使う練習をしていて…。気を失った、のか?ーー


 体を起こそうとして、ターニャに止められた。


「坊っちゃま、心配いたしました。何度ノックをしてもお返事がなくて…。入ってみたらお倒れになられているんですもの。心臓が止まるかと思いました…。まだお身体が心配です。もうしばらくお休みになってください。」


 そこまで聞いて、ベッドに寝かされていることに初めて気がついた。


 ーーあぁ、また心配かけちゃったんだ…。ーー


 アレクセイの胸の奥にズキリとした痛みが走ったような気がした。思い返してみると、昔からターニャに心配ばかりかけている。5歳の子供であるアレクセイの意識の中には、潜在的な罪悪感はあったものの、迷惑がかかるという事の本質はわかっていなかった。

 しかし、雄二としての意識でアレクセイの記憶を思い返してみれば、いかに自分がターニャを心配させていたか痛感してしまい、申し訳なさでいっぱいになった。


「坊っちゃま?どうされましたか?」


 そう聞いてくるターニャの心配そうな顔がいたたまれない。


「僕、またターニャに心配をかけてしまったんだね…。」


  いつもの飄々とした態度とは違う様子を感じ取ったのか、ターニャの表情が和らぐ。


「そうですよ坊っちゃま。私、いつもとっても心配しているんです。」

「そうだよね…。ごめんねターニャ…。」

「ふふふ、坊っちゃま、今日はどうされたんですか?いつもならそんな事全然気にされないのに。」


 そこまで聞いて、アレクセイは思い出した。


 ーーそうだ、俺は5歳の子供のはずだった。責任とかそんなこと考えてたら変か?ーー


 しかし、吐き出してしまった言葉はもう取り消すことができない。いくら考えても言い訳の言葉が出てこない。ならばいっそ、自分の気持ちを素直に話した方がいいのでは。そう考えたアレクセイは、ポツポツと語り出した。


「僕、今日は魔法の練習をしていたんだ。お父様から魔法を教わって、使えるのが楽しくて、夢中になって練習してたら、なんだかすっごく疲れちゃって。気がついたら倒れてたみたい。目を開けたら、ターニャの心配そうな顔が見えて、なんかすっごく悪いことをしてしまったような気持ちになったんだ…。本当にごめんね、ターニャ。」


 元の世界であれば、成人している自分のことを本気で心配する人間など両親ぐらいしかいなかった。恋人や妻がいればまだ違ったのだろうが、28年間恋人のいなかった自分にとっては誰かから心配されるという経験が欠けていた。

 だからこそ、今この世界で自分を本気で心配してくれる他人の存在というものに、どう向き合えばいいのか分からなかったのだ。


 ふとターニャの顔を見たアレクセイは驚いた。そこには目一杯に涙を蓄えたターニャの笑顔があったのだ。


「坊っちゃま、本当にご立派になられました。そのように、他人を思いやる気持ちは大切なものでございます。ぜひ、大切になさってください。」


 そう話しながら、優しく抱きしめられたアレクセイを再び眠気が襲った。ターニャが言う通り、体は休息を必要としていたらしい。ターニャの体温と柔らかさを感じ、この上ない安心感を覚えながら眠りの世界に落ちていく。

 薄れゆく意識の中で、先ほどのターニャの言葉がアレクセイの心にいつまでも残っていた。



 

 翌日、元気に目を覚ましたアレクセイはいつもより空腹を感じ、普段の2倍も朝食を平らげ使用人達を驚かせた。

 一通りの身支度を整えたあと、昨日の回復魔法に関する研究を再開した。


 昨日は後半意識がなくなり回復魔法に成功したのかどうだったのか分からないままであった。感覚的に成功したような感触を得ていたが、回復魔法の性質上それを確認することができていない。そこでアレクセイは怪我をしている小動物などがいないか探しに出ることにした。


 これまでの反省を生かし、ターニャとシンシアに外出する旨を伝える。やはり、外に遊びに行く子供の基本は『いつまで、どこへ、何をしに』を伝える事だ。


 シンシアからは明るく「いってらっしゃーい」と言われ、ターニャからは「くれぐれも危ないことはしないようにしてくださいませ…。」と心配されたが、これで必要以上に心配をかけることはないだろう。


 ーーそういえば、ここ一ヶ月はずっと家に閉じこもってたからなぁ。何気に屋敷の外に出るのはこれが初めてか?ーー


 門を出る時にそんなことを思ったが、よく考えれば自力でここまで歩いてきた以上、完全に初めてというわけではない。


 それでも、やはり見慣れない異世界の景色であったことには変わりなく、多少の不安は感じつつも圧倒的な期待を持ちながら道を進んでいった。



 グレイベル家は、『グリンウッド王国』の西の辺境地『リンディー』を領地とする男爵家であった。元々国境近くを警備する軍隊の一員であった先代ユリウスが、約40年前に起こった西の大国『ブルネスト帝国』との戦争で活躍し、報奨として爵位とともに与えられた領地だった。

 ブルネスト帝国と国境を接する場所であるため、領地内に暮らす人は少なく、税収も決して多くはない地域である。定期的に侵略を繰り返してくる敵の存在によりおろそかにもできないこの地域は、王家の信頼厚い者でなければ任せられない。

 しかし、戦争の功労者とはいえ元々平民であったグレイベル家を貴族にする事に、反対する古参貴族も多く、軍事上の要衝であるにもかかわらず治める貴族が男爵家という不思議な状態になってしまっていた。


 もともとリンディーに暮らす人々は猟師や農業を営む者が多い。先代ユリウスも元はリンディーの猟師一族であり、爵位を与えられるまではなんということもない平民だった。

 そのため、領地内の人々からは領主というよりも村の一員のように扱われており、グレイベル家としてもそのような関係性を歓迎していたこともあって、非常に仲が良かった。

 それゆえ、アレクセイが歩いていると話しかけてくる人が非常に多い。


 屋敷を出て20分ほど歩いた。その間に4人ほどの人と出会ったが、全員が笑顔で挨拶をしてくれた。最後に会った壮年の男性など、抱き上げて肩に乗せてくれた上、別れる時にはトマトのような野菜をくれたほどだ。


「味もトマトみたいだし、これもうトマトって名前でいいんじゃないか。」


 そんな独り言をつぶやきながら、不思議と温かい気持ちになる。

 元いた世界であれば、家族でもない他人とここまでフランクに接することもなかっただろう。技術面や便利さでは比べるべくもないが、こういった人間関係の中に温かさを感じることができ、アレクセイはこの世界がさらに好きになった。


 ふと、遠くで手を振る少女を見つけた。

 肩のあたりまで伸びた綺麗な金色の髪が印象的なその少女は、見た目からおそらく自分と同じか少し幼いくらいの年齢であろうと予想ができる。

 なんとなく手を振り返してみると、向こうも気づいた様子でこちらに向かって駆け出すのが見える。子どもらしい足取りで、それでも目一杯急いでいるのだろう。なんとなく転んでしまいそうだと思った矢先、少女は盛大に蹴つまずいた。


 ーーあ、これは泣いちゃうんじゃないか?ーー


 案の定、大きな声を上げて泣き始めてしまった少女に、アレクセイはやれやれといった様子で駆け寄った。

 近くに行くにつれ、顔がはっきりわかるようになると、幼いながらもとびっきりの美少女であることがわかる。大きくクリっとした目は少し目尻が垂れており、体格に比べて驚くほど小さい顔が絶妙なバランスを生み出している。


 ーーこんな可愛い子供だったらお父さんお母さんはさぞや美男美女なんだろうか?ーー


 相変わらずくだらない考えがよぎってしまう自分にツッコミを入れながら、少女の傷を確認する。側で見ると血が滲んだ膝が痛々しい。


 ふと、回復魔法を使う機会を得た事に気付いた。

 しかし、いきなり人間に使うことはリスクがある。万が一にも魔法が失敗して傷つけてしまったら。そう考えると簡単には使えなかった。


「とりあえず、これ巻いておくから、傷を洗おうな。」


 傷にハンカチを当てて泣き続ける少女をなだめると、近くの小川へ連れて行き傷を洗った。血はある程度止まったようだが、まだ見るからに痛そうだ。

 先ほどまでと比べれば泣き止んだ少女も、まだ涙を堪えているような表情でどう見ても痛々しい。そこそこのスピードで走っていたためか、思ったより傷は大きかった。


 近くに大人もおらず、手当をする道具も何もない。


 ーーこれは流石に仕方ないか…。ーー


 魔法の実験に巻き込むようで気が引けたが、涙を堪えるような少女の顔を見続けるのも辛い。


「僕が今から治してあげるから、安心してね。」


 昨日やったように魔力を集中し高めていく。アレクセイには自分の魔力光が見えているが、少女にはやはり見えていない様子だ。


「エリアヒール」


 呟いた呪文に合わせて、魔力光がはじけて消えた。同時に周囲を柔らかい光が包み込む。昨日感じたような脱力感はなく、体調にも変化はなかった。

 見ると少女の膝にあった傷が治っていく。怪我ができる様子をスローで逆再生したように見えた。先ほどまで険しい表情だった少女は、目の前で傷が治っていく様子を目の当たりにしてとても驚いた様子だった。


「おにいちゃん、まほうつかいさんだったの?」

「そうだよ、すごいだろ!」


 ーーなに子ども相手にドヤってるんだ俺は…。ーー


 自己反省した後、すごいすごいと繰り返す少女を立たせた。足の痛みなどは無いようだ。


「わたし、リーナっていうの!」

「僕はアレクセイ。5歳だ。」

「わたし4さい。やっぱりお兄ちゃんだったんだね!きずをなおしてくれてありがとう!」

「気にしなくていいよ。それより、リーナは何をしていたの?」

「わたし、おとうさんとおかあさんがおしごとでいそがしいから、ひとりであそんでたの。」

「そうか、お家はどこ?」

「むこうのむらだよ。」


 リーナの指差す方向には確かに村がある。人口は30人ほどだが、農家が多く動物の飼育も行なっていて、忙しい者の多い村であった。

 農家では子供も立派な労働力だが、リーナくらいの年齢の女の子にできる仕事は限られている。できる仕事がなく、遊び相手もいない子供の相手ができる大人というのは確かにいないだろう。


 しかし、そうは言っても子供が1人でフラフラと遊びに出るのは危険ではないか。そう考えるアレクセイの頭の中に、自分もそんな危険な子供であるという自覚は全くない。

 見事に自分のことを棚に上げているのだが、それを指摘する者は誰もいなかった。


  「よし、そしたら僕と遊ぼう。リーナが1人で遊んでいたら、大人が心配するかもしれないからね。」

「え、いいの!?やったー!!」


 大喜びするリーナの姿を見て、これも悪くないかと思うアレクセイであった。



 アレクセイはあれがしたいこれがしたいとはしゃぎ回るリーナの相手をし、おままごとや鬼ごっこなど日本人としての遊びを教え込んだ後、日が暮れる前にリーナを村まで送り届けた。

 リーナの母に受け渡した時、恐縮した様子だった事にむず痒さを感じたものの、満足気な笑顔のリーナを見て「また遊ぼうね。」と自然に声が出ていた。


 屋敷までの帰り道、魔法に関して気づいたことを頭の中で整理していく。


 ーー2日前に風魔法を覚えた。本来ならこれで使える魔法は風魔法だけになるはず。でも、今日確かめてみた通り、回復魔法も使うことができた。この世界の常識に照らしてみれば、今の俺の状態は明らかにおかしい。ーー


 ライナスの話にしても、魔法書の内容にも1人につき1つの魔法しか使えないということは間違いないはずである。


 ーーでも、どう考えてもできないとする根拠が無い。俺の仮説は間違って無かったってことだ。でも、そうすると何でそれができないって事になってるんだ?俺がめちゃくちゃ天才だったって説と、誰でもできるんだけどやってみた人がいないって言う説があるけど、どっちも無さそうだなぁ…。ーー


 魔法に関して、明らかに知識が不足していると感じたアレクセイは、魔法の研究をしていこうと心に決めた。


 屋敷に戻ると、扉の前でターニャが待ち受けていた。


「おかえりなさいませ、坊っちゃま。今日はお約束通りの時間にお帰りでしたね。」

「ただいまターニャ。もしかして、待っててくれたの?」

「もちろんでございます。主人を待つのはメイドの務めですから。」

「え、主人ってお父様じゃないの?」

「確かにライナス様に雇われていますが、私の主人はアレクセイ坊っちゃまですよ?ライナス様からそう仰せつかっていますから。」


 ターニャは自分が雇われた時のことを話し始めた。アレクセイが生まれた時、もっとも年若いメイドであったターニャをアレクセイの担当としてつけたのが始まりであったらしい。本来なら乳母などを雇うのであろうが、シンシアがある程度自分で育てたいと言い出したため、その時見習いとして雇われていたターニャがついたのだという。


 ーーなんだか、ここ2、3日は濃いなぁ。ーー


 いくつもの新事実が発覚し飽きない毎日だったが、これまで漠然と感じていたこの世界での暮らしに対する不安感は、ここ数日の新しい友人との出会い、そして魔法という研究材料に出会う事で払拭されていた。


 ターニャに手を引かれて自室へと歩く間も、アレクセイは魔法のことばかりを考えていた。

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