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第5話 2つ目の魔法

皆さん、明けましておめでとうございます。

長らくお休みしていましたが、かなり長めの年始休暇を取っておりました。

今日から更新再開していきます。

いつもお読みいただいている方、更新を待っていただいている方がいればありがとうございます。

 風魔法「エアインパクト」は、魔力を風に変換し高速で打ち出す魔法である。威力は術者が込めた魔力に依存し、強い魔力を込めて打ち出せばそれだけ高い威力を出すことができる。

 打ち出される風は、台風がボール状になったようなものであり、直撃すれば吹き飛ばされるだろう。


 発生させる現象としては単純だが、それだけに高い威力を出すためには純粋な魔力の高さが求められる。魔力保有量の高い術者向けの魔法である。


 風魔法に対する知識を再確認したアレクセイは、改めて目の前に広がる光景を自分が作り出したことに、驚きと感動を感じていた。これまで憧れ続けてきた魔法という存在を、とうとう現実のものにすることができたのだから。


 ただ、一つ予想外であったことは、魔法を使うことが思っていたより簡単であった事だ。


 ーーライナスがめちゃくちゃ教えるのが上手だったって説と、俺がめちゃくちゃ天才だったって説の二つが考えられるけど…。まぁ、後者はないか…ーー


 アレクセイはそこまで考えて、ライナスの様子がおかしい事に初めて気がついた。


「お父様?どうかされましたか?」

「アレクセイ、お前、体はなんともないのか?疲れていたり、立っていられなかったり、頭痛がしたりなどはないか?」

「…?特に、ありませんが…。あ、強いて言えば、先ほど放った魔法のせいか、飛んできた小石で頬を切りました。」

「そ、そうか…。」


 しきりに体調を気にするライナスは、一通りアレクセイの体を調べたあと、訓練を切り上げて自室へ戻るように指示を出した。



 アレクセイは自室に戻ってからすぐさま机にかじりついた。

 先ほど使用した魔法の感覚を復習するためだ。


 この一ヶ月間、必死に調べ上げた魔法知識を復習して、先ほどの魔法の使用方法を思い出し、知識と経験をつなげる。そうやって生の知識を増やしていく作業は、アレクセイにとって幸せ以外の何物でもなかった。


 ーーわかったことは、魔法を使うのに消費する魔力量で威力が変わるってことだ。呪文を唱えるわけじゃないから、魔法を使うために必要なのは自分の魔力とイメージだけ。ーー


 この考察は的を射ていた。

 魔法とは、生物が持つ魔力というエネルギーを別の現象へと変換する手段である。だからこそ、魔法を使うためには人間の持つ魔力を適切なイメージに変換する必要がある。この変換のためのイメージ作りとして、魔法に名前をつけたり、イメージの補助として呪文のようなものを唱える術者もいると、魔法書には書かれている。


「この部分に関して魔法書の記述は間違っていない。でも、問題はここからだ。このイメージが適切に行われていれば、要は自分の魔力をなんらかの現象に変換するだけなんだから、1人につき1つの魔法しか使えない理由がわからない…。」


 アレクセイはいくつか仮説を立てた。

 仮に、魔法を習得したことで自分の魔力の波長や性質に変化が起こり、その魔法を使う事に特化するような変化が起こるのであれば、一種類の魔法しか使えないというのも納得がいく。

 魔法を習得するためには、知識の習得や訓練を繰り返し、1つの魔法を習得するだけで果てしない研鑽が必要になるため、2つ目に手をつけることができない、という場合でも納得がいくだろう。

 しかし、自分で魔法を使ってみた結果、これといった変化も、難しさも感じなかった。


 自分の立てた仮説を自分で否定する。その他、あらゆる「できない可能性」を模索した結果、できない理由が見つからないと結論づけた。


「よし、もういいだろ。できない理由探しはここまでだ。ここからは、できるようにするための方法を見つけよう。」


 そう決意したアレクセイの表情は、晴れやかだった。




 翌日。アレクセイはシンシアの元へ向かった。ライナスが風魔法を習得していたように、シンシアもまたなんらかの魔法を習得している可能性が高い。

 1人が複数種類の魔法を使う、それが本当に可能かどうかはわからないが、兎にも角にも発動のさせ方を知らない事には練習のしようもないのだ。


 アレクセイはシンシアが習得している魔法を教わるため、彼女の部屋の扉を叩いた。


「はーい。どなた?」

「アレクセイです。」


 部屋の中からドタドタと音が聞こえてきたかと思うと、大きな音を立てて扉が開いた。


「あら!珍しい!」

「お母様に聞きたいことがありまして。入ってもよろしいですか?」

「もちろんよ!さあ、どうぞ。」


 気がつけば、ここ一ヶ月ほどシンシアの部屋に来ていない。最後に入った記憶はアレクセイとしてのものであり、雄二が転生してからは来たことがなかった。

 部屋の中はアレクセイの部屋と大きく変わるところはない。せいぜいが、調度品の種類が微妙に違っていたり、大きな鏡台が置かれているくらいのものである。


 ーーあ、でも、なんだかいい匂いがする…ーー

 それは、雄二にとって長らく忘れていた母親の匂いだった。


 相模雄二の母親は、幼い頃に亡くなっている。最後の記憶は、病院のベッドに横たわり、苦しそうな様子の中見せた、儚い笑顔だ。過去にこだわらない方だと自負している雄二が、ほぼ唯一と言っていいほど、トラウマ的に記憶している映像。それだけ、母の記憶というものは雄二にとって大切なものだった。


 だからこそ、転生して新たな母を得たと知った時、戸惑いは大きかったが同時にとても嬉しかった。


 扉のところで立ち尽くす我が子へとたおやかな微笑みを向けながらそっと手を差し伸べるシンシアの姿に、アレクセイは女性としての美しよりも母としての温かさを感じた。

 手を引かれてベッドの前まで来たかと思えば、次の瞬間には抱きかかえられる。

 ーーあれ?なんか、ぬいぐるみみたいな扱いを受けていないか?これ…。ーー


「さぁアレク、今日はどうしたのかしら?もしかして、寂しくなってお母さんに会いに来てくれたのかな?」

「い、いえ、お母様、そういうわけでは…。」

「えー、違うの?なぁんだ…。」


 ーーだ、だめだ!この人といたら完全に甘やかされてダメになるパターンの人だ!ーー


 おそらく、普通の5歳児であればこの対応はそれほど変でもないのだろう。しかし、現在のアレクセイは外見と中身がバランス崩壊を起こしている。このままの調子でいてはいけないと、アレクセイは必死にシンシアの腕の中から逃れようともがいた。


 シンシアは少し不満そうな表情ではあるものの、意外なほど素直に手を離した。

 改めてアレクセイに向き直ると、少し表情を引き締め、改めて訪ねてくる。


「それで、今日はどうしたの?本当に久しぶりだから、お母さん嬉しくなっちゃって。」

「お母様は、魔法を使うことはできますか?」


 少し唐突な質問だったためか、意外そうな表情を浮かべたシンシアだったが、すぐに返答した。


「ええ、使えます。アレクも魔法に興味が出る年頃ですものね。お父様に聞きました。昨日風魔法を習得したそうではありませんか。」

「はい、そうです。魔法を使えるようになり、お母様は魔法が使えるのか。もし使えるならばその魔法がどんなものなのか、知りたくなり、伺いました。」

「そうですか。えぇ、いいでしょう。教えてあげます。」

「本当ですか!?」

「もちろん。ただ…、これだけは覚えておくのです。自分が使える魔法はみだりに他人に教えてはいけません。特に、我々貴族の立場にあるものの魔法は、可能な限り秘匿されなければいけません。」


 魔法使いは自分の魔法が研究されることを恐れる。

 理由は簡単だ。1人につき1つしか魔法がないという前提に立てば、相手の魔法を研究し対策しさえすれば、その相手との戦いで負けることはなくなるだろう。


 そして、貴族のように民衆のため戦う者たちが、自分の魔法を簡単に知られてしまえば自分の首を締めることとなる。

 脳ある鷹は爪を隠すのだ。


「それなのに、僕には魔法を教えてくれるのですか?」

「えぇもちろんです。アレクがお母さんの敵になることなんて、絶対にないでしょう?」

「それは、確かにそうですが。誰かに連れ去られて僕が喋ってしまうかもしれません。」

「そんな事はお母さんが起こさせません。」


 アレクセイはシンシアの言葉に、母としての強い意志を感じた。


「それでは、実際に見せてあげましょう。よく見ておくのですよ。」


 そう言うとシンシアはおもむろに立ち上がり、胸の前で両手を合わせ始める。


 アレクセイは昨日と同様、術者の体が光り始める光景をみた。

 しかし、昨日とは違う点もある。見える光の色が異なるのだ。


 ーーやっぱり、人によって魔力の光は微妙に違うんだ。ーー


 昨日見たライナスの魔力光は美しい赤色だったが、シンシアの魔力光は透き通る薄い緑色だった。ライナスは自分の魔力光が白であったことも思い出す。


 シンシアを包んでいた魔力光は、次第にその輝きを強めていく。どこか一点に集中するわけではなく、体全体が光り始めたことに多少驚いた。しかし、アレクセイはそんな光を決して見逃すまいと、目を見開き真剣にシンシアを見続ける。


「エリアヒール」


 シンシアがそう呟いた瞬間、全身を包んでいた緑色の魔力光が一気に霧散した。

 代わりに部屋の中全体が淡く発光しているように見える。


 ふと気がつくと、昨日できたはずの頬の傷が消えている。


「お母様、この魔法は、回復魔法ですか?」

「えぇ、そうです。私の魔法は癒しの魔法。体の不調や怪我を回復させる効果を持った魔法です。使い手が少ない魔法だそうですが、私の家族はこの魔法を使う者が多いですね。」


 ーー回復魔法とは、まさにRPGじゃないか!!ーー


 表には出さないが、アレクセイのテンションは頂点を超えていた。

 許されるならば、今すぐ小躍りして喜びたい気分である。


 数秒後、部屋いっぱいに広がっていた光は自然と消えていった。


「す、素晴らしいですお母様!」

「ふふ、ありがとう、アレク。もしあなたに何かあったら、お母さんが治してあげますね。」


 いたずらっぽく笑ったシンシアだったが、おそらく本当にもしもの事があれば、魔法がバレる事など気にせず、全力で治す。シンシアのそんな決意を感じ取り、アレクセイは頰を赤くした。



 アレクセイはシンシアに丁重にお礼を言った後、すぐさま彼女の部屋を後にした。

 自室に戻ったアレクセイは先程見た回復魔法をなんとか使えるようにできないものかと研究を開始したのだ。


「回復魔法の原理は風魔法の何倍も難しそうだ。そもそも、人間の体を治すためには、人体の構造をある程度理解しておく必要があるんじゃないだろうか。」


 魔法書の記述にも、回復魔法の希少性について書かれた一文があった。

 曰く、回復魔法は習得までの期間が特に長い魔法であるらしい。

 

 魔法というものが、人間のイメージにより成り立つものである以上、人間の体が治っていく様子は赤血球や血小板などの細胞が活発に作用しているイメージを持つ事がもっとも効率的であるはずだ。

 しかし、どう考えてもこの世界の文明レベルで、細胞や人体の構造を理解している人間などいるわけがない。

 つまり、シンシアも含め回復魔法の使い手というのは、人間が回復していくというその過程のみをイメージし、具現化していく必要があるわけだ。


「そりゃあ、使える人間なんて少ないわな。」


 しかし、ここで自分の圧倒的なアドバンテージに気がつく。


「俺には、前世(?)の知識がある。人間の人体構造だって、だいたいは知っている。つまり、俺なら回復魔法も習得可能なんじゃないか?」


 思い立ったら即行動。それは相模雄二とアレクセイ・グレイベルの共通点である。

 立てた仮説を実証するため、机から離れ、部屋の中心に立つ。


 先程見たシンシアの姿をまぶたの裏に投影する。


 ゆっくりと手を合わせる。全身の魔力が少しずつ流れ始め、だんだんと強く激しく流れている姿をイメージした。


「いいぞ、もっとだ。もっとだ!」


 目を開けた。昨日見た白い魔力光が目の前に広がる。


 魔力光はだんだんと輝きを増し、全身を包み込んでいく。


 同時に、相模雄二としての知識を思い出す。人体の構造、細胞の働き、全身に血が流れ、少しずつその動きが加速していくイメージを持つ。

 

 ふと、昨日は感じることのなかった倦怠感が感じられた。

 

 明らかに魔法の発動に合わせて体の自由が効かなくなっていく感覚を覚える。


 ーーなんだ、これ…。こんなの、昨日は無かったのに…!ーー


 しかし、ここでやめるわけにはいかない。

 もう一歩で完成する。もう一歩で回復魔法が習得できる。


 アレクセイはそう信じて疑わない。


 次の瞬間、シンシアの呟いた魔法の名前が思い浮かんだ。

 浮かぶと同時に、アレクセイは言葉に出していた。


「エリアヒール!」


 半ば叫び声のように響いたその言葉は、魔法を一気に完成へと導いた。

 視界いっぱいに広がった光が、部屋を暖かく包み込むような感じがした。


 先程見たシンシアの魔法「エリアヒール」と同じ、柔らかい光は数秒たって自然と消えていく。


「成功、したのか…な……。」


 そんな独り言を言い終わるやいなや、床に倒れこんだアレクセイの表情はどこか晴れやかだ。


 この世界で初めて、人類が二種類の魔法を使った。その事実を知る者は、まだ誰もいない。

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