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第3話 魔法の存在

今日も二話投稿です。

ストックがなくなるのが早いので、このペースがいつまで続くか…。

 窓の外から差し込む光は、どの世界にいても変わらない。

 他の誰もが知る由もないだろう事実を知ることができたと、アレクセイは多少の優越感を感じながら体を起こした。


 相模雄二としてはいつも通りの起床時間であるが、アレクセイとしては明らかに早すぎる起床時間のためか、いつもはいると記憶していたはずの、ターニャの姿が見当たらない。


 この世界に転生して、安心できた事といえば、言語が通じる事と時間の感覚が地球と同じだった事である。言語に関してはアレクセイとしての記憶が統合されているため、特に不自由していないだけかもしれないが、時間に関しては本当にラッキーだったとしか言いようがない。


 時計の読み方も共通している。目に入った置き時計の針が6時を指している事と、外から差し込む光の加減から、早朝の空気が伝わってくるのは気持ちがいい。


 ベッドから降りて、大きく伸びをした、その瞬間、部屋のドアがノックされる。


「おはようございます、アレクセイ坊っちゃま。」


 会話の声より、気持ち小さい声でかけられた挨拶は、普段ならば帰ってくることを想定しないが故の声量である事を物語っている。だからこそ、いたずら心の芽生えたアレクセイは、わざと必要以上の大声で返答する事にした。


「おはようターニャ。いい朝だね。」

「キャッ!」


 いつもならば聴くことのないターニャの悲鳴に、思わず笑みを浮かべてしまったアレクセイは完全にいたずらっ子の表情をしている。


「起きていらしたんですか?驚いてしまいました…。」

「ごめんごめん、調子に乗っちゃった。いつもはこんなに早くきてくれてたんだね。ありがとうターニャ。」


 そう言って見たターニャの顔は、ひとしきり驚いた後、少し頰を赤らめているように見えた。


「もう、坊ちゃんの将来が怖いです…。」


 そう呟くターニャの声は、アレクセイまで届くことはなかった。



 朝の身支度を整え、朝食を食べるために食堂へ向かう道すがら、屋敷の中を改めて見回してみるといよいよ異世界に来た実感が湧いてきた。

 そこに見える風景は、いつも通りであるはずなのに目新しいという奇妙な感覚をもたらしてくる。壁にかけられている肖像画は、見る限り中世ヨーロッパの貴族や王族を彷彿とさせるものであるし、内装や装飾品の数々も明らかに現代の日本で見られるようなものではない。


 似たようなものを社会の教科書の中で見た記憶はあるが、それだって完全に一致しているわけではないのだ。


 思わず立ち止まって見ていると、ターニャが説明をしてくれた。


「先代様の肖像画は、旦那様そっくりですよね。私はお会いしたことがありませんが、とても立派で勇敢な方だったと伺っております。」


 この肖像画が先代の領主、自分から見れば祖父にあたる人物であると言う記憶はあった。しかし、今聞いた話は初めてだったと思う。いや、以前に一度ライナスから聞かされたような記憶もある。自分の記憶に自信が持てないのは、聞いたことをアレクセイ自身がうろ覚えであったためだろうか。


「おじいちゃんは、戦争に行ったことがあるんでしょう?」

「そうでございます。私が伺った話では、先代様はそれはそれは戦の上手なお方だったとのことで。戦争で武勲を上げられ、その功績が認められたため、国王陛下より男爵の地位をいただいたのだとか。」

「じゃあ、おじいちゃんはもともと貴族じゃなかったんだ!?」

「そうでございます。坊っちゃま、貴族制度をご存知だったんですね?」

「そりゃあ、自分の身分だもの、知っているよ。」

「まあ、旦那様はもうそんな話を坊っちゃまにされたんですか?」

「え、えーと…。」


 アレクセイは必死に自分の記憶を漁ってみるが、ライナスがアレクセイにそんな話をしたという記憶はなかった。


「いや、ほら、あれだよ。なんとなく、ね?」

「なんとなく?」

「ま、まあいいじゃない!僕お腹空いたなぁー」


 かなり苦しい言い訳ではあったが、なんとか誤魔化す事に成功した。成功したと信じたい。



 食堂では既に朝食の準備がされていたが、ライナスとシンシアはまだ来ていなかった。いつもより30分以上早いのだから当然だが、いつも食べる朝食がどこか冷めていた理由がようやくわかった。

 仕方がないと思い、自分の席に座って待っていると使用人がスープを運んできた。


「あれ、お父様とお母様がまだ来ていないよ?」

「いえ、しかし、坊っちゃま、お腹が空きませんか?」

「そりゃあ空いたけど、でもみんなが揃うまで待っていないと失礼じゃない?」

 そう言って見た使用人の顔は、何故だか驚いた表情をしている。


「坊っちゃま、そんな事をお考えになっていたのですか?」

「え、うん。普通じゃないの?」

「あぁ、やはり、貴族の方というのは育ちが違うのですね…。うちの息子ときたら、もう7歳になるというのに私に甘えてばかりで…。」


 そんな話を聞いて、アレクセイは気がついた。


 ーーそうだよ、俺、5歳だった!5歳でそんなことまで気遣ってたら確かに変かも…。ーー


 どうにも新しい自分の境遇というやつを意識するのが難しい。アレクセイとしての記憶は存在するものの、話している意識が28歳のそれである以上、大人の感覚で話をしてしまう。そのせいか年相応とはいいがたい発言や行動が多くなってしまっているのだ。


 ひとしきり感心した後、スープを下げていく使用人の姿を見てアレクセイは、この姿でいることの難しさを痛感した。


 とはいうものの、やはり自分の行動を5歳児のそれにすることは難しい。多少の違和感が生まれたとしても、早熟だということにしてもらおうと自分を騙すことにした。


 20分ほど経った頃、ライナスとシンシアが連れ立って食堂に現れた。仲の良い様子は見ていて羨ましい。


「まあ、アレク、今日は随分早いのね。」

「おはよう、アレク。立派じゃないか。」


 そう言って自然とキスをされた。日本人としての意識のみであれば驚いたかもしれないが、アレクセイとしての記憶のおかげか、不思議と違和感はない。


 2人が着席したと同時に、先ほどのスープが運ばれてきた。



「そういえば、そろそろアレクの魔法適性を調べなければいけないな。」


 食事が始まり、少しした頃。ライナスから出たその話題に、アレクセイは異世界に来て最大級の衝撃を受けた。


「ま、魔法!魔法ですか!?父上!!」

「あ、あぁ。なんだ、アレクは知らなかったのか?」

「知りませんとも!何ですか?どんな魔法が使えるんですか?もう使えるんですか?早く始めましょう!」


 そうまくし立てる我が子の姿を見たライナスは完全に面食らっている。


「こら、アレク、そんなに興奮してはいけません。少し落ち着いてお話しなさい。」


 珍しくシンシアがたしなめるほど、アレクセイの様子は異常だったのだろう。

 しかし、雄二としては聞き逃すことのできないワードである。これほど心踊ったのはこの世界に来て初めてだった。


 ーー魔法が使える!あんなにも夢見た魔法が、本当に使える!信じられない!ーー


 長年の夢を叶えることができると知った雄二にとって、アレクセイを演じる事など到底できる事ではない。いや、そもそも、2人の意識が統合されている時点で、こうして魔法が使えると知った事を喜んでいるのは他でもないアレクセイ自身でもあるわけだ。


 ライナスは食事が終わったら必ず魔法を教えると約束し、はやるアレクセイをなんとかなだめすかし、これほどまでに魔法に憧れを抱くのは一体誰に似たのだろうと思い悩んだ。

 そんな悩みなど知る由もないまま、アレクセイは少しでも早く魔法を教わろうと、初めて食べるはずの異世界の食事を味わうこともせずに口に放り込んで行った。


 そんな姿を見て、やはり5歳の子供かと納得する使用人がいたことに、アレクセイは最後まで気づかなかった。

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