琥珀
わたしは太陽の光をさんさんと浴びて健やかに育った。南国生まれ。青く未成熟だった身体が熟すころには「このまま平々凡々と子孫を残すのかな」なんて想像しては、赤くなっていた。
そんな細やかな願いさえ叶わないなんて、思ってもみなかった。
ある日のこと。
なんの前触れもなく大勢の人たちがやってきた。
「いたい! やめて!」
抵抗する間もなく、わたしは乱暴に摘み取られた。
結局あのとき、わたしは死んだんだと思う。自慢の衣は目の前で捨てられた。南国の光を吸収したような、真っ赤で美しい衣だった。トラックに詰め込まれ、運ばれた先で、わたしの肌からジュージューと音がしたのを覚えている。一緒になった他の子たちを見ると、鉄で焼かれた肌が無残に変色していた。わたしも同じ目にあったんだ思うと悲しくなったが、涙は出なかった。
それから、たぶん船に乗せられた──外国に売られたんだろう。
故郷から遠いのか近いのかさえわからない。
じつは何が起きていたのかさえ知らない。
だって、冷たく暗い、光のない場所に閉じ込められていたから。
再びなんの前触れもなく明るいところに出されたのは、ついさっきのことだ。目の前でニヤニヤしていたのが、わたしを買った人に違いない。だから──それから起こったことは、所有者が持つ当然の権利行使だったのだろう。
突然わたしの身体をわしずかみにすると、プライドごと粉々に打ち砕いた。
こんなことなら、いっそ分子にまで分解してくれと思う。
しかし、彼は自分の好みに合わせて、乱暴な手の動きを、いきなり止める。
柔らかい布のうえに、投げるように放り込まれた。
ジワ……っと熱い液体が、わたしに注がれていく。
何度も、そう何度も少しずつ。
最後の、一滴までわたしのエキスを搾り取ろうとして。
だって、それがわたしを買った彼の目的なのだから。
そして、この行為が終われば、わたしはゴミのように捨てられる。
そんな、そんな予感がするのだ──。
という、コーヒー豆のきもち。
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