彼の思い
これは桔梗sideのストーリーです。
僕は一人だった。ずっとずっと社の中で一人。今思えば寂しかったんだと思う。
そんな時ある女の子が来た。小さくて触ったら壊れてしまいそうな人間の女の子。最初は見ていて飽きない子だなと思った。笑ったり、泣いたり僕には出来ないことだ。
そして彼女な何を思ったのか突然森へ行った。動物に襲われないだろうかとか、蛇に噛まれたりとかしないだろうかと思ったがそんなことはなかった。が、案の定迷ってしまったようだ。最初は神主さんが来るだろうと思っていたが中々来ない。当然だ。かなり奥まで行ってしまったようだし、神主は彼女が森に行ってしまったことを知らない。
そして声をかけてしまったんだ。決して交わることの許されない人間に。僕は彼女と同じぐらいの歳の男の子に化けて話しかける。僕が話しかけた瞬間彼女は顔を真っ赤にして泣き出してしまった。始めは久しぶりだからきちんと化けられてなくて怖がらせてしまったのかと思ったが、ただ人に会えたことへの安心だと気づいた。
彼女と話しているとやはり面白く、くるくると変わる表情は実物だ。僕はこんなに笑ったのは久しぶりだと気づいた。というより、人とこんなに話すこと自体も久しぶりだった。
気づくともう神社についていた。分かっていた。これでもう彼女と言葉を交わすことは最後だと。しかし、彼女は僕に「また、会える?」と聞いてきたのだ。恥ずかしそうにいう姿をみると頭ではダメだと分かっていながらもその可愛いお願いを聞いてしまう。
それからしばらくたったある日、近所で夏祭りがあった。結衣は夏祭りに今まで行ったことがないらしく、必死に行きたいと言うので一緒に行くことになった。
もう少しで結衣は帰らなければならない。そんなこと分かっている。結衣も今までな日々に戻り僕もまた一人のあの日々に戻る。分かっていたはずなのに寂しいと感じてしまう。それは僕の口から出ていたようで結衣は心配そうに僕の顔を覗き見る。
結衣はキョロキョロと辺りを見渡しあるものを手に取る。見てみるとそれは指輪だった。
「きょうちゃん!これ、お揃いで買おうよ!私が帰ってもまた会おうっていう約束のお守り」
結衣はまた元の生活に戻っても僕に会ってくれる。僕を忘れないでいてくれる。そう言ってくれたのが、僕は純粋にとても嬉しかっんだ。
でも、それは間違いだと気づいたんだ。
祭りから帰る途中、結衣が妖に襲われた。僕はそいつを追い払おうとした。しかし僕が今チカラを使えば変幻が解けてしまう。そう思った僕は彼女を庇うことにした。
しかし、子供の小さな体では全てを守ることができずに結衣は気絶してしまった。横たわった彼女を見てやはり、人間は脆いと痛感させられる。かすり傷ひとつですぐに壊れてしまう。と、同時に結衣をこんな状態にした妖に今まで感じたことのない何か熱いものを感じる。
その時僕の中で何かが切れた。目の前にいるのは土蜘蛛だ。やれる。僕は怒りのままにチカラを奴にぶつける。
「もっと、もっと!グシャグシャにしてやる!」
途中で来た神主さんに止められるが、僕はそのままチカラを使い果たし、倒れてしまう。きっと神主さんは僕のことを最初から気づいていたのだろう。僕が何者であるかを。
眼が覚めるともう、真夜中になっていた。横を見るとスヤスヤと寝ている結衣がいる。神主さんに聞いて見ると命に関わりないと聞いて安心する。
「ねえ、僕のことを気づいてたんでしょ?」
「...はい。存じておりました。」
「僕みたいなやつは君たちの様な人間に関わってはいけない。そんなこと分かっていたんだ。でもあの子一緒にいたい、そう願ってしまったんだ。」
「...」
「でも間違いだった。僕がそう願うほどに彼女を傷つけてしまう。こっちの世界に巻き込んでしまう。」
もうあんな思いを彼女にさせたくない。それならもう、彼女との縁をきる。
それから僕は結衣に会いに行くことはなくなった。いや、正しくは結衣に姿を見せなくなったと言う方が正しいか。
彼女は来る日も来る日も僕を待っている様だった。その姿を見るたびに僕の胸はズキズキと痛む。
そして結衣が帰る日が来た。結局最後まで僕を待ち続けていた。きっとこの先も僕のことが心のしこりになるだろう。いや、ならないかもしれない。人は日が経つごとに忘れて行く生き物だ。もうしかしたらこんなことはしなくても良い事かもしれない。でも、僕はこの手で終わらせる。
僕は結衣に会うためにまた人間の子供の姿で会おうとした。しかし、もう最後ぐらいは本当の僕で会いたいと思った。流石に大人の姿で会うのは誰が誰だかわからないだろうから子供の妖狐の姿で。結衣は紅葉の下でずっと待っている。中に入れば良いもののずっとそこで待っている。
「ごめんね」
僕はそう呟く様に言った。それはずっと待たせてしまったこと、あの時守れなかったこと、そして、今からすることに対して。
「僕は見ての通り人間じゃないんだ。結衣、君とは生きている世界が違う。もし一緒にいても君を巻き込んでしまうかもしれない。それは僕にとってとても耐えられない。」
思っていることを全て言う。君はどんな反応をするのかな?やっぱり人間ではない僕を恐れるのかな。
「意味わかんないよ?巻き込んでしまうとか...生きている世界が違うって今までそう思いながら過ごして来たの?」
そんなわけない。涙でグシャグシャになっている彼女にそう言いたかった。君とも日々はそんな事を感じさせないぐらい楽しかった。僕だって君と同じ世界で笑っていたい。でも今の僕はそんな事を言う資格なんてない。
でも君の記憶を封じることに甘え、共に僕の気持ちも封じられるのならば伝えさせてください。
「好きだよ。どうしようもなく君を愛してしまっている」
伝えた瞬間また愛しい気持ちが溢れて来る。だけどもうこれで終わりだ。もうほぼ僕の姿は君には見えないだろう。
「さよなら。僕の愛しい人」
思ったより早くに桔梗編です。