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前編

短編が長くなってしまったので前半、中編、後編と分けました。

私は霊感なんて全くない体質だと思ってた。心霊現象なんて一回も会ったことなんてないし、そもそもおばけとか幽霊なんていうオカルト的なものなんて信じていなかった。今夜のこの出来事に出会うまでは。


「こんばんは。結衣」


「わっ!」


突然現れた、いや降ってきた和服の男に驚き思わず尻餅をついてしまう。


「おやおや、ごめんね。驚かせようとはしたけど、まさか腰を抜かすほど驚くとは思はなくて」


そう言って男は手を差し出す。差し伸べられた手はびっくりするほどひどく青白い。


「あ、貴方誰ですか?何者なんですか?私の名前を知っているようだし、それに...」


「まあまあ落ち着いて。まず僕の名前は....ごめん、名前はないんだ。好きに呼んでくれて構わないよ。そして何者であるか、だよね。うーん、妖怪っていう者だよ」


...何を言っているのだこの男は。何が名前はないんだ、だ。何が妖怪だ。中二病にも程があるよ!?へらへらと笑う男に向かって私も抗議をする。


「妖怪だったら妖術とか使えるんじゃないんですか?使って見てくださいよ。今、ここで!」


「うーん....ちょっと難しいなぁ」


へへ、と今度は苦笑いを浮かべる。ほら見たことか。妖怪なんているわけないのに。やはり、この人本当にヤバイ人なのではないだろうか。もしかしたら新手の誘拐犯か何かなのかもしれない。


「もう、いいです。警察......」


警察呼びますよ、と言おうとしたその時、ぼっという、ライターで火をつけなような音が聞こえてくる。今、タバコを吸うのかと思い男の方に顔を向けると、その男の周りには青色の炎が浮かんでいた。


「っ!」


目の前の光景に思わず息を飲む。男はニコリと微笑むと、私の方に近づいてくる。


「”狐火”って言うんだ。ほら手を近づけてごらん」


私は言われるがまま、恐る恐る手を近づけてみる。するとじんわりと熱が手に伝わってくる。じっと見てみてもタネも仕掛けもあるようには思えない。


「これで、信じてもらえたかな?」


___ これは信じざるおえない。

私はゆっくりと首を縦に降る。この男が、妖怪だと言うことはわかったところで、尚更信用できないだけだ。妖怪という者は人間に危害しか与えない存在なはずだ。こいつも妖怪なら例外ではないはず。信用してはいけない。


「よかった。」


そう言って男は安心したようにニコリと微笑んだ。その笑顔はあまりにも綺麗で、私は目が離せなくなってしまう。最初は暗くて分からなかったけど、長い睫毛、綺麗な青色の瞳。女性なら間違いなく惚れてしまうほど綺麗な顔立ちだ。ダメだ。警戒心を解いてはいけない。相手は妖怪なんだぞ。


「じゃあ、行こうか」


「...っ!」


やはりそう来たか。しかし、顔がいくら良くても私は騙されない。


「いや」


「...だって君、帰れないでしょ?寝床、貸してあげるよ?」


「.....」


確かに私は、お母さんと大ゲンカして家を飛び出してしまった。行くあてがないのは確かだが、こんな男について行くぐらいなら転校初日で仲も良くない子の家に上がり込んだほうがまだましだ。


私はくるりと後ろを向き全速力で走ろうとする。が、男に腕を掴まれそれを阻止される。


「...ごめんね」


どう言う意味?そう問おうとた瞬間腕を勢いよく引かれそのまま、口をハンカチで塞がれる。抵抗しようとするが体に力が入らず、私はなすすべなく気を失った。


*******

目覚めた先はは廃れてた神社だった。あたりを見渡すと外は雨が降っているようだ。神社の中の木は古く今にも折れてしまいそうなほど古く、起き上がろうとするとギシギシと音がなる。


「ごめんね、こんな古くて...」


声がした方を向いてみるとさっきの男が立っていた。男はよっこいしょと声を出しながら私の横に座る。


「昔は人がいっぱい来てここも賑わっていたんだけど、今はもう神主も居なくなってるんだ」


そう言うと寂しそうに長い睫毛を伏せる。


「...じゃあ、貴方一人ががこの神社を管理してるの?」


「うん。そうだよ」


確かにこの社は古い。正直に言ってボロボロだ。しかしよく見ると辺りにはチリひとつなくとても綺麗にされてある。社の掃除を一人で、尚且つ完璧にこの男はこなしていると言うわけか。


「...そう」


そう思うとこの男はもしかしたらとても寂しい奴なのかも知れない。しかし、今の私にはそんなの関係ない。


「それで?私を無理やりここに連れて来た理由は何?」


私にはこの男の事情なんて心底どうでも良いことだ。大切なのはこれから私がどうなるか、だ。


「安心して。君に手を出すつもりはないから。もちろん君が望むのならば別だけどね?」


「ば、馬鹿じゃないの!そんな、望むわけないじゃない!」


言葉の意味を理解出来ないほどもう私は子供ではない。頬がみるみると熱くなるのを感じつつ叫び散らかす。きっと私の顔はユデダコのように真っ赤なのだろう。


「冗談だよ」


「か、からかわないでよ!」


「つい、君が可愛くて」


ああ、もう。ちょっと、いやかなりドキドキした自分が馬鹿みたいにじゃないか。こんな事をしている場合じゃないのに。


「...そろそろ本題に入りましょうよ」


まだ赤い頬に手を当て、一息ついた後私はそう告げる。


「...何の事だい?」


「しらばっくれないでよ!私をここに無理やりにでも連れて来た理由よ。まさか、理由も無しに連れて来たなんて言わないでよね?」


男は少しびっくりしたようだったが、また困ったような笑顔を浮かべる。


「理由...か。困っている君を助けたかったってだけじゃ駄目なのかい?」


「そもそも、私が困ってたってことを知っていること自体がおかしいじゃないの?」


私は男に向かって睨みつける。やはりこの男のは信用ならない。


「こんな時間に女子高生が一人とぼとぼと歩いている時点で何か帰れない理由があるのは明確じゃ、なあかな?」


「うっ...」


確かにその通りかもしれない。しかしだ、困ってたことを知っていることについてはこれ以上何も言えないが、困っている人を助けようとする人がこんな手荒な方法で連れて来るだろうか。


私がもう一度反論しようとするが、男に遮られてしまう。


「さあ、この話は終わりだ。君、ご飯は食べたかな?」


ぐ〜〜


何てタイミングの良いお腹なのだろうか。この男も下を向いて何も言わない。今だけ自分のお腹が憎たらしい。取り敢えず返事をしないといけないと思い、私は再び赤くなった顔で首を横にふる。


「ぷっ..はははは」


突然男は今までの落ち着いた様子から考えられないほど笑い出した。


「そ、そんなに笑わなくても良いじゃない!」


「さっきまでの威勢の良さはどこへいったんだろうね?あー面白い。こんなに笑ったのは久しぶりだ。じゃあ僕は食事の用意をしてくるから君は、好きにしていて良いよ」


そう言って男は奥の部屋へ入って行く。さて、どうしたものか。結局ここに連れて来た本当の理由は聞けずじまい。この神社の散歩でもしようかな。何か分かるかもしれない。


私は逃げようとは思わなかった。ここが何処だか分からない、雨もひどく、雷も鳴っているというこの状況で逃げ出すことは現実的ではないことぐらいわかっている。


それに、一つ気がかりなことがあった。あの男と、初めてあった時確かに私の名前をはっきりと言っていた。つまり私のことを前から知っていたと言うことだが、私にはあの男と会った記憶なんてこれっぽっちもない。


私が忘れているだけなのだろうか。いや、あんな胡散臭い男良くも悪くも忘れるわけがない。


悶々と考えている中私が向かった先にあったのは大きな庭が見える縁側だ。この庭も綺麗に整えてあり、奥に見える真っ赤に燃える紅葉はこの世のものとは思えない怪しげな美しさを感じる。


_____私、過去にここに来たことがある


ふと、そんなことが頭をよぎる。赤い紅葉と誰か...知らない子...。ダメだ思い出せない。もう一度思い出そうと無理やり思い出そうとするとが頭が割れるような痛みに襲われる。まるでその部分の記憶だけ蓋を閉じられているような感覚だ。


あの男なら何か知っているのだろうか?この社に住んでいる昔から住んでいるのならば、私が昔ここに来ていたのならもしかしたら覚えているかもしれない。それに、そうだとするとあの男が私を知っていたことにも合点がいく。


しばらく庭を眺めていると男がやって来る。


「ここに居たんだね。もう、夕飯の準備が出来たからこっちへおいで」


男についていくと段々と良い匂いがしてくる。襖を開けると机には豪華な和食のフルコースが所狭しと並べてある。正直言って食べ切れないぐらいある。


「わ、美味しそう...」


「そう言ってもらって嬉しいよ。君のために腕によりをかけて作ったからね」


照れ臭そうにへへへっと笑うのは、まるで新妻のようだ。...いや、待てよ。


「貴方今、作ったって言った?」


「言ったよ?」


ありえない。私とこの男が離れていた時間は約15分程度。その短時間でこの男はこれだけの量の食事を作ったと言うわけか。作り置きという線も考えたがほとんど全てが熱々ほかほかであり、湯気が登っている。


男は初めは何が何だか分からないと言う顔だったが、私が思っていることを理解してしたのか納得したような顔をしてくる。


「なるほど。君は私が僕の料理のスピードに、驚いているわけだね。まあ、僕も妖怪の端くれだからそれぐらいのことは出来ないとね」


妖怪だったらこんなに早く料理を作れる、という訳ではなくおそらく、それぐらい早く動けると言うことなのだろうが、正直言って羨ましい限りだ。


「さあ、冷めないうちに食べちゃって」


遠慮する必要もないし、私の何よりお腹がもう限界だったので、迷わず目の前の食事に手をつける。


「お、美味しい」


さらに別のお皿にも手を出して見るが、すべてプロ顔負けの美味しさだ。私はおもわず、夢中になって食べ進めてしまう。ふと、顔を上げると向かいに男がニコニコとしながらこちらを見つめている。


「な、なによ?」


「え?ただ美味しそうに食べるな、て思っただけ」


「う、うるさい!どんな風に食べようと私の勝手でしょ!」


その後どんどんと食べていき、食べ切れないと思った量でもペロリと平らげてしまった。美味しかったのだから仕方ない。



中編は明日投稿します。

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