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ないチチびいき  作者: クロード・フィン・乳スキー
貧乳篇
8/80

第8話 素晴らしき貧乳学園4 篠原こやのとの出会い/貧乳の未来

  ★


 ある日、俺は強い日差しの中、和井喜々(わいきき)学園を囲うレンガの塀に沿って歩いていた。


 今日もお気に入りの夏らしいアロハシャツを着てオシャレして、あわよくば貧乳をこの手ですっぽり包み込もうという作戦である。


 裏庭側の秘密の出入り口の前まで来た時、制服姿の見知らぬ貧乳女子の姿があった。


 この娘も、とても良い貧乳をしている。


 貧乳の中では比較的大きな方で、絶壁の今山夏姫や男である天海アキラよりも大きいのはもちろんのこと、スポーティ貧乳のビール娘や氷雨よりもほんの僅かばかり大きかった。それでもグレートな貧乳であることに違いはない。


 近頃、素晴らしい貧乳との出会いが多くて、大変嬉しい。


 さて、そんな貧乳が、俺に話しかけてきた。


「あろはー。もしや、大平野好史さんっすか」


「え、お、おう。見ない貧乳だな。俺を知ってるようだが、どちら様だ。どっかで会ったことあったかな」


「自分は、一年の篠原っす」


「篠原……いや、きいたことないな」


「そりゃそうっす。面識ないっすよ。こっちもアキラ先輩から聞いてただけっすから」


 なるほど、道理で見たことない貧乳オーラだと思った。


 おっと、貧乳にばかり目がいってしまったが、この娘、ショートカットでメガネを掛けていた。


 おそらく、以前アキラがちょろっと言っていたメガネの後輩というのが、この娘のことであろう。


 確か、この出入り口をアキラに教えたのが、このメガネだ、という話だったか。


「アキラは何と言っていた? 俺のことを知的でイケてる先輩だと言ってたか?」


「いえ、別に。アロハシャツの変な人が来たら気をつけろってくらいですかね」


 そう言って、篠原は眉間のメガネフレームを人差し指で押し上げた。


「篠原……えっと、下の名前は何だ」


「こやのっす。篠原こやの」


「可愛い名前だな」


「でしょ? どうも」


「君は、こんなところで何やってるんだ?」


 すると篠原こやのは、にやりと笑い、


「ちょっと脱走っす。部活サボるんすよ。うるさい先輩が練習しろしろって追いかけてくるんで、サボって家でゴロゴロする予定っすよ」


「へぇ、何の部活してんの?」


「卓球部っす」


 スマッシュ。飛び散る汗。激しい動きで揺れるはずの胸。しかし貧乳は揺れない。


 俺はゆっくりと親指を立てた。


「ところで、大平野さんに質問なんですが――」


「好史でいい。フレンドリーにいこうじゃないか」


「はあ、でもこっちのこと、こやのって呼ばないで下さいよ」


「そりゃまた何で」


「下の名前で自分を呼んで良いのは、血縁と執事とアキラ先輩だけっすから」


「ん、そこで何でアキラが出て来るんだ?」


「そう。それも含めての質問があるんすよ」


「何だい、言ってみたまえ」


 俺は突然の紳士口調で先を促した。篠原こやのは変わった口調に対しては特に気にすることもなく、鋭い眼光を浴びせながら、こうきいてきた。


「好史さんは、アキラ先輩とどういう関係っすか?」


「どうって……友達ってとこだろうなぁ」


「よかったぁ!」ものすごいホッとした顔をして、「恋人とか言われたらどうしてやろうかと思った」


 ちょっと物騒にきこえた。


 だがちょっと待ってほしい。


 今の言動から考えるに、この女はアキラのことが好きなのだろうが、天海アキラは男だけども普段は女子のふりをしているはずだ。


 俺でなければ見逃してしまうほどおそろしく完璧な女装だった。そして、篠原の言動から考えるに、このメガネ貧乳はアキラへの恋心を抱いていると思われるわけで。


 ということは、つまり、ここから二通りのことが考えられる。


 篠原がアキラの性別を知っているか、あるいは篠原が同性でも構わずアタックする人間であるか。


 確かめてみるしかない。


「あー、篠原、一ついいか」


「なんすか」


「天海アキラが通ってるのは、女子高だったよな」


「女だろーが関係ないっす」


 構わずアタックするタイプのヒューマンだった。


「自分、アキラ先輩にはもうラブレターで告白済みっすから。それに、アキラ先輩の水着姿だってガン見してやりましたし、アキラ先輩のおっぱいだって、撫で回しましたから! いずれ先輩と結婚するんで、式には好史さんもお呼びしましょう!」


 うわあ変態だぁ、見上げた変態娘だぁ。なんか興奮気味に語ってきたぁ。あなたの付け入る隙間は無いんですよ、とでも言いたげだぁ。


 そういえば、アキラのことが好きだっていう女子が、もう一人居た気がする。一緒に野球場に行った二つ結びがチャーミングな絶壁女子、今山夏姫ちゃんも天海アキラ狙いだったはずだ。


「ときに篠原。今山夏姫という女子を知っているか?」


「今山先輩は、最大級のライバルっす!」


 こんなハイレベル貧乳二人に愛されるとか、うらやましいぞ天海アキラ!


 そういったところで、篠原は唐突に、「あ、来ました」と言った。


 メガネの奥の黒い目が、俺ではなく俺の背後を見ていたので、何だろうかとそちらを振り返ってみたところ、黒塗りの長い車が近付いて来ていた。噂に聞くリムジンとかいうやつであろうか。


 それで一気に、俺は緊張してしまった。


「それじゃ好史さん。またあいましょー」


 篠原はそう言って自動で開いた扉から後部座席に乗り込む。


「あ、ああ。またな」手を振った。


「行って」


 篠原は執事風の男に向かって言った。


 扉が閉じる直前に、その執事のような人が俺を思い切りにらみつけてきた。


 強い意志を持った視線に射抜かれて、眉間に穴があいたんじゃないかと思う。そのひとにらみで、背後にあったレンガの壁さえも切り裂くことができそうで、俺はブルブルと身震いさせられた。


 走り去って行く長い車を見つめながら、ああもしかしたら、この貧乳学園への出入り口は、あの強そうな細マッチョ執事が目からビームでも出して作ったんだろうな、とか、まるで現実逃避するかのように、そんなふざけたことを考えたのだった。


  ★


 篠原お嬢様と別れた後、秘密の出入り口を使って学園内の裏庭に入ると、すぐに見知った顔が現れた。キメ顔で、待ってましたとばかりの空気を醸し出している。


「ふふふ、飛んで火に入る夏の虫とは、まさにこのことですねぇ」


 なんと、その貧乳は占い娘であった。立派な体育館を背景に勝ち誇った顔をしていた。


 いつもの黒ローブは装着しておらず、セーラー服姿であり、ぼろぼろでツギハギだらけの水晶玉を両手で抱えていた。


 たびたび俺や氷雨の前に登場しては、浅くかき回してくる小さな女の子。


 俺と氷雨の関係を壊そうと動いているらしいが、まさか貧乳学園の生徒だったとは。その身体の小ささや雰囲気の幼さからして、まさか高校生であるとは思わなかった。


「誰かと思えば、ヤキソバ娘じゃないか。今日もおいしそうな髪の毛および貧乳をしているな」


「これでもかってくらいのセクハラですね。まったく、相変わらずです」


「そういえば、占い娘ちゃんにはまだ名前を訊いてなかったな」


「ひみつですよ。明かしちゃいけないことになっているので」


「ひみつちゃんか、珍しい名前だな」


「ちがーいまーすよー」


「そうか、じゃあヤキソバって呼んでもいいか?」


「いやです!」声を裏返した。


「ほう、可愛い反応だ。心の中でヤキソバちゃんと呼ぶことにしよう」


「ああ、いま、地平の果てまでぶっ飛ばしたいという氷雨さんの気持ちが、少しだけ理解できました」


「そうか……」俺は呟き、先日会った氷雨の元気の無い顔を思い浮かべた。


「好史さん。それはそうと、これを見てください」


 占い娘は、ぼろぼろの水晶玉を前方に突き出してきた。そして、くりくりとした瞳で俺を見つめながら、責めるようにこう言った。


「あの五月の日、あなたにぶつけたせいで、この有様ですよ」


 いや、何で俺を責める口調なんだろうか。むしろ硬いものを側頭部にぶつけたことを謝罪してほしいくらいだ。常人だったら死んでてもおかしくなかったぞ。直撃したのが不死身の俺だったから良かったものの。


「この水晶玉は、不思議未来グッズなのです。でも、こうもぼろぼろになってしまっては、機能がひどく制限されてしまいます」


 相変わらずの変な娘である。未来から来たとでも言わんばかりだ。


「でもですね、新しい水晶玉を予約注文してて、もうすぐ届くので、楽しみなのです」


「その水晶玉があると何ができるんだ?」


「いろいろできますよ。たとえば、占い……というか未来を垣間見るだとか、道具を作ったりだとか。いちおう時空を超えた通信機能もあるんですよ」


「スマートフォンみたいなもんか」


「そうですね。簡単に言ってしまうと、今ある情報端末の、遥か上位版に当たります。このままのスピードで世界が回ったら、数百年後くらいには生み出される技術の大結晶というわけなのです」


「便利そうだな。それ使えば、遠くで起きている出来事も鮮明に見たりできるわけだよな。たとえば、ひ、貧乳の入浴シーンとか」


「きしょ……。まあ、できますけど」


「俺にも一個くれ」


「だーめですよーう」


 そう言って、彼女はぼろぼろ水晶玉を俺から隠すようにして抱きしめた。その仕草は何だか愛らしくて、もじゃもじゃ髪を()き撫でたくなる。


「そんなことよりも、ですね。好史さんにお話があるのですが、ここで立ち話は……。場所を変えましょう」


 俺たちは、和井喜々学園を後にした。


  ★


 コンビニで購入したカップヤキソバ二人分に店内でお湯を注ぎ、小さな公園に持って行った。


 二人並んで食べる。


 ベンチが四つくらいあり、砂場や滑り台などの子供の遊び場があり、黒い野良猫が塀の上を我がもの顔で歩いているような、住宅街の小さな公園である。


 ヤキソバをもぐもぐする占い娘ちゃんを見れば、いつのまにか、どこからか取り出した漆黒のローブを装備している。今日もフードはかぶっていない。


「その服、あつくないのか? 見てるだけで暑苦しいんだが」


 すると、占い娘ちゃんは、待ってました、よくぞきいてくれましたとばかりに、ニコっと笑った。


「ふっふふー。実はこれ、未来グッズなので快適なのですよ。マント内は温度調節可能なのです。好史さんこそ、腕とかアロハに蚊がぶんぶんといっぱい群がって刺されまくってますけど、平気ですか?」


「言われると、ものすごいかゆくなってきた」


「そんなあなたに、未来グッズの虫除け&虫刺されのお薬がありますけど、要りますか?」


「また巨乳化の薬の時みたいに一万円とるとか言わない?」


「今回だけはタダでいいです。特別ですよ」


「ていうかさ、さっきから未来グッズとかって言ってるけど、占い娘ちゃんは未来から来たの?」


 すると彼女は真面目な顔で答えた。


「バレてしまっては仕方ありませんね。そうです。私は未来からきました」


「へぇ、そうなのか」


 話半分にきいていたのだが、蚊に刺された部分にもらった薬を塗ってみたところ、すぐさま何事も無かったかのように腫れがおさまり、かゆみも消え去った。


 これほど一瞬のうちに腫れもかゆみもゼロになる薬があるなんて聞いたこと無い。驚くべきことではあるけれど、彼女が未来から来たって話も信憑性ゼロってわけではなさそうだ。


「それはそうと、好史さん」


 俺は薬を塗り塗りしながら、「何だ」と返事する。


「どうして、この食べ物は焼いてもいないのにヤキソバなんですか?」


「そんなところにこだわってはいけない。きりがないからな。そういうもんが溢れてるのが、この世界だ。ハイクオリティの偽物に満たされているんだ」


 占い娘はフムと頷き、後、少し表情を硬くした。ようやく本題に入るようだ。


「好史さんにお話があるんですけどね」


 俺は薬でべたついた手をハンカチで拭いた後、ヤキソバをかきこみながら頷き、占い娘に先を話すよう促した。


 占い娘はこくりと深く頷き、深刻そうに話を始める。


「以前もお話ししたかと思いますが、あなたには比入氷雨の貧乳を愛しすぎたために、我を失い、近い未来に巨乳を貧乳にする光線銃を入手して巨乳を狙い撃ちする未来があります。果ては凄腕スナイパーに暗殺されるのです。それは、今なお変わってはいません」


 もぐもぐ、と黙々とヤキソバを食べつつ、彼女の胸を眺めながら話をきく。本当にもう常軌を逸した話だ。まるで他人事にしか聞こえない。


「そしてですね、絶望を回避する方法として最善なのが、好史さんが氷雨さんと別れることです」


 別れるも何も、まだ付き合ってるわけじゃない。


 そりゃ氷雨のことは誰より好きだけど……。


「氷雨さんを説得しようともしてみたのですよ。でも、どうやら無理なようなので、もう一度、好史さんに忠告します。氷雨さんと別れないと、未来の世界はめちゃくちゃになります。あなたのおかげで未来は破滅の危機を迎えているのですよ」


 もぐもぐ。


 ヤキソバを飲み込み、またかきこむ。


「たかがおっぱい、されどおっぱい。何と、未来の世界では、胸の大きさによって差別される世界になってしまっているのです!」


 もぐ。


「その原因が、好史さん、あなたにあるんですよ」


 もぐもぐもぐ。


「どこかで歯車が狂い、好史さんが巨乳を乱射したことは、幼児でも知っている常識になっています。未来のあらゆる世界の教科書に、『大平野好史は巨乳を根絶やしにしようと目論んだ』とあります。その歴史的事実が未来における貧乳弾圧の発端なのです」


 ヤキソバうまい。このからしマヨネーズソースが味を引き立てている。これをカップヤキソバとしては邪道と言う者も居るが、俺はこのマヨっぽいものがあった方が好きだ。


「貧乳過激派と呼ばれる人たちが次々に誕生し、取り返しのつかないほど暴れ回る未来を、私は知っています」


 想像もつかない。そんな未来。


「私個人の立場としては、貧乳であることと巨乳であること、胸のサイズが、敵対を生むものであってはならないと思うのです」


 彼女の口調は終始真剣そのものだ。


「胸の大きさによって善とか悪とか、敵とか味方とか決めつけていたら、平和は幻想のままです。私は、それでいいとは思えません。だから! 私は、過去を修正しに来たのです」


 そこで話を終えたようた。彼女は俺の目をじっと見つめた。俺が何か声を発するのを期待しているような目だ。


「えーと。なかなか面白い話だった。出版とか考えているのかな? それとも学園祭の演劇とかで披露するとか」


 占い娘ちゃんはムッとした。


「作り話じゃないんですよ」


 そう言われても、なかなか信じられることではない。


 彼女は、手に持ったヤキソバをベンチに置いて、大げさな身振り手振りで俺を説得しようとする。


「まだわかってないようですね。要するにですね、貧乳差別が起きた根本原因である大平野好史さんは、そもそも氷雨さんを遠ざけるべきなのです。何度言えばわかるんです? 氷雨さんの貧乳が失われることで、好史さんは自暴自棄になってしまうんですから」


「そんな未来は来ないと思う」


「いいえ、間違いなく来ます。何者かに『巨乳を貧乳に変えてしまう光線銃』を渡され、乱射してしまうのです」


「しないって。そんなこと」


「するんです!」


「ありえないって」


 話は平行線を辿る。


「未来の歴史研究で有力な説としては、好史さんは本来巨乳を憎んでなどいません。巨乳が居るから貧乳が輝くわけであって、個人的に巨乳は好きじゃないけれど両者は等価な存在なのだという思想だといわれていました」


 だいたい合ってる。


「つまり、ちょっとだけ貧乳が大好きではあるけれど一般的で常識的な思考の範疇に収まるのです。ところが、それを暴走させるスイッチがあるんです」


「それが氷雨の貧乳だと?」


「そうなのです」


「……まぁな、確かに氷雨の貧乳は、俺に理性を失わせる部分があるかもしれないが」


「ええ。まさに世界を傾ける魔性の貧乳、というわけなのです」


「でも、でもさ、まさか、そんな未来の命運を左右するほどのことには……」


「しつこいですね。なるんです未来を狂わせたのは、あなたなんです。何度でも言いますが、好史さんのせいで、私たちの未来はメチャクチャです。貧乳だっていうだけで、友達もできないし、職探しにも苦労するんです。そんなのって、おかしいじゃないですか。私だけじゃないんです。


私よりも可愛い他の貧乳たちも、みんな貧乳というだけで……。その原因が、好史さんと氷雨さんが出会って結ばれてしまったことにあるんです」


「…………」


「あなたが愛する大勢の貧乳のためにも、氷雨さんのことは、諦めて下さい」


 これが、占い娘ちゃんが俺と氷雨の恋路を邪魔する理由というわけで。


 どうしたらいいってんだ。



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