第6話 素晴らしき貧乳学園2 今山夏姫との出会い
秘密の出入り口を把握するという大収穫の後、俺は天海は連れて、街道沿いのファミレスに来た。
外の景色でも見ながら天海アキラの女友達を待とうという流れだ。
窓際の四人掛けの席からは、外の様子がよく見える。アキラは、「校則があるから、制服でレストランに入ってるところは見られたくない」と言って嫌がったが、俺にはもう魔法の言葉がある。
「おい、男だとバラされたくなければ――」
「くっ……ちくしょう……」
苦々しく俯いた。
可哀想に見えるかもしれないが、考えてもみてほしい。こいつは最高クラスの貧乳たちに囲まれた生活を送っている羨ましい男なのだ。多少の脅迫くらい許してもらいたいものだ。
今、決定権は全て、俺の手にある。
俺が普段の学校生活において氷雨の言いなり状態であるのと同じように、天海は俺の言いなり状態というわけだ。
そこそこ気分がいいけれども、こうして不幸は連鎖していくんだろうなあと、悲しみも同時に胸に広がっていた。
ゆったりとした姿勢で席に座った俺と、どこかびくびくしている天海アキラ。二人きりで話をする。
「だ、大平野さんは――」
「好史でいい。俺もおまえのことはアキラと呼ぶ。仲良くしようじゃあないか」
「あ、はい。じゃあ、その、好史さんは……何年生ですか」
「三年だ」
「やっぱり年上ですね」
「ほう、アキラは一年か?」
「いえ、二年です」
「ああ、そういえば、さっき後輩がどうのこうのって言ってたもんな。すまない」
「いえ、でも、五月くらいに転入してきたばかりなんで、女子高は一年目です。だから、そういう意味では一年生みたいなもんですね」
五月、転入、どこかで聞いた話だ。
ふと窓の外に、学園の体育着のままレースで使うような自転車に跨って走るポニーテールの貧乳少女が見えた。いい貧乳だ。スポーティ貧乳だ。一瞬だけ目が合った。
その体育着娘は俺とアキラの姿を見て、びっくり顔をした。あの子がアキラの紹介してくれる女の子なのかと思ったが、そのままのスピードで通り過ぎていって、店に入ることは無かった。
俺はアキラに視線を戻し、
「なるほど、アキラは転入したばかり……か。てことは、氷雨のことは知らないよな」
「ひさめ? 何です、それ」
「やっぱ知らないか」
「はあ、すみません」
天海アキラはぺこりと頭を下げた。しおらしい。
「いや、謝られるほどのことじゃないんだよな。実は、俺の知り合いで、比入氷雨っていう常軌を逸した暴力女が居るんだ。あいつが、あの和井喜々学園の出身でな。出会ったのが五月だから、ちょうど入れ違いになった形かもな」
「そう、かもしれませんね」天海アキラは頷き、「夏姫なら、何か知ってるかもしれません」
「夏姫?」
「おれの友達です」
「どんな子だ?」
「なんでも、家柄はかなり良いとこらしいです。お武家さんだったとかで」
「お嬢様系か」
「いやいや全然ですよ。男勝りなガサツ系です。ひどいもんですよ。血筋は良くても家はかなり没落してしまったらしいので」
「そりゃまたドラマがありそうな」
「夏姫の家は、かなりのお金持ちだったらしいんですけど、戦争の頃に、ひいおじいちゃんが変な宗教にはまっちゃったらしくて。そのひいおじいちゃんが、世界中から使えないガラクタを、信じられないような高値で買い集めるようになったんだそうです。それで、一気に没落したって嘆いてましたね」
「不幸な子なんだな」
「いえ、いつも楽しそうですよ。嘆くっていっても、お小遣い減ったのはそのせいだって言って笑い話にしてましたし」
「なるほど、興味が湧いてきた」
「それから、夏姫は、よく友達の胸を撫で回して、バレないように逃げるっていうセクハラ技を得意としてます。変態ですよね」
「ほう、ますます親近感が湧きあがって来た。貧乳ナデナデ&アウェイの使い手とはな」
「なんです、その技。貧乳界隈では有名なんですか?」
「ああ、俺でも知ってるくらいにはな。巨乳界隈では、巨乳モミモミ&アウェイとか無いのか?」
「おれはきいたことないですね」
「だろうな。貧乳は上品だが、巨乳は下品すぎる」
「いや、どっちにしろ下品も下品だと思いますよ?」
「違いがわからない男だな、天海アキラは」
「だって女ですし! あ……いや、ちがう、男ですけど、外では女なんで、おれ」
「なんかもう、板についてない?」
「……やめてくださいよ」
かわいらしい反応である。これは、女だと騙されてしまう人ばかりだろう。
「でも、本当にいいんですか、好史さん」
「何がだ」
「いや誰か紹介してくれって話ですけど、うちの学園の生徒なんて、みんな貧乳ですよ。女子高に唯一の男子として通ってるって状況だけで、おれのこと羨ましいなんて思って欲しくないですね。おれは巨乳が好きなんで、胸ちっちゃい女ばっかで、全然ときめかないですし」
「おい……貴様は今、とんでもないことを言った。巨乳が好き、それはまぁ、好みだから勝手にすればいい。俺にとっては気持ちの悪いことだけど、まあ勝手にすればいい。だが、貧乳を見てときめかないだろう、なんて決めつけは、俺の愛する貧乳への侮辱に他ならない」
「え、あの……えっと……」
「撤回しろ、巨乳派め!」
そして俺は怒りに任せてテーブルを叩いた。店内の人々の視線を集める。
と、そのタイミングで、セーラー服を着た女が手を振りながら近付いてきた。
「やっほー、アキラー」
そちらに視線を向けた時、すばらしい貧乳が目に飛び込んできた。ぱっちりした目や、二つ結びの髪もチャーミングだったが、それより何より彼女の絶壁の素晴らしさに目を奪われた。
「いい貧乳だな」
挨拶がわりに親指を立てたときには、もう貧乳を侮辱された怒りなど、どこかへ行ってしまっていた。
思わず目を見開いてガン見を続けてしまうほどに、その貧乳はすばらしかった。
目を見張るものがあるっていうのは、まさにこういう貧乳のためにある言葉であろう。さすが和井喜々学園の生徒。レベルの高い貧乳だ。上質な貧乳オーラの平均値を簡単にぶち超えてくる。
もちろん、やや小さすぎるため、氷雨には少しばかり及ばないが。
貧乳は不審がっている声で、天海アキラに問いかける。
「ねえアキラ、急に呼び出して、どうしたの? ていうか、この人だぁれ?」
天海アキラは、俺の怒りがどっか飛んでったことを感じて安心した様子をみせながら、少々歯切れ悪くこう言った。
「この人は、えっと……三年生で、おれの、別の学校の、えっと……友達」
「アキラの友達? ふーん。三年ってことは、先輩かぁ」
「どうも、絶壁を愛する男、大平野好史だ」
俺は握手しようと手を差し出した。
彼女は、「絶壁?」と首をかしげながらも俺の手を握った。
貧乳との握手!
このあったかい手の先には貧乳がある、つまり、この手と貧乳は繋がっているわけで、その手を今、俺はつかんでいるわけだ。そうした紛れもない事実に興奮を隠せない。
「紹介したってことで、おれはこれで。秘密は守ってくださいよ!」
そうして店内を全力ダッシュで逃走した天海アキラは、そのまま外へと駆け出して。すぐに見えなくなった。けっこうな足の速さだった。一般女子では絶対に出せないスピードだ。
残された女の子は、「あ、ちょと、アキラ――」天海アキラを追いかける素振りを見せたが、「いっちゃった……」と残念そうに呟き、結局は見送った。
美しい貧乳が落ち込んで貧乳なのに下を向いているのは見過ごせない。それが氷雨の貧乳でなくともだ。
俺は、斜め四十五度の角度を向けて、格好つけながら、
「素敵なお嬢さん、俺とデートしないかい?」
ストレートなお誘いをした。
貧乳娘は顎に手をあててしばらく考え込んだ後、「……いいよ」と言って頷いた。その顔には、どこか打算めいたものを見て取れた。けっこう感情が表情に出やすい子のようだ。
しかし、彼女の真の目的が何であれ、貧乳とのデート決定に俺が大歓喜の雄叫びを発したのは言うまでもない。
「いよっしゃあ!」
★
この貧乳は、今山夏姫という名だった。
二つ結び。後ろから両手で自転車のハンドルを握るみたいにして引っ張りたくなるくらいに愛らしい髪型だ。ぱっちりした瞳は可愛らしいが、整った顔からは、どことなく気の強さが感じられる。
いやまあ、こんな髪型や顔などというものは、大して重要ではないのだ。
胸、おっぱい、貧乳。
彼女は素晴らしい絶壁を持っている。天より与えられしその貧乳は、今まで目の当たりにしてきた全ての貧乳の中でも五指に入るほどの貧乳オーラを放つ。エクセレント。
今山夏姫は、天海アキラのクラスメイトであるらしい。
アキラが転入の挨拶のときにパッドを盛ってきたことだとか、プールの授業の時もパッドを盛ってきたことだとか、自分を呼ぶときに「おれ」って言うのが男っぽくてカッコイイだとか、そういったことを滔々と語った。
その間、俺はずっと夏姫の胸を見つめていた。
素晴らしい貧乳だ。貧乳というよりも無乳に近いが、本当に良い貧乳オーラを所持している。
俺は氷雨のことが好きだ。しかし、素晴らしい貧乳たちを観賞しに、今後も和井喜々学園に幾度と無く侵入しようと考えてしまっている。こんなものを見てしまっては、もう通うしかない。
誤解してもらっては困るのだが、これは浮気ではない。
なぜなら俺は、氷雨以上の貧乳は存在しえないと確信しているからだ。
つまり、氷雨以上の貧乳が存在しないことを確認しに行こうというわけだ。素晴らしい貧乳たちと氷雨の貧乳を比べて、氷雨を華麗に選び取りたい。
要するに、こういうことだ。
――氷雨を真に愛するためには、氷雨の貧乳を愛したい。その貧乳が世界一だと実感したい。
好意を愛に変えたい。
愛とは、選択であろう。
触れない鉄壁の最高の貧乳より、触れる絶壁のトップクラス貧乳だぜ、とか、そういうことを考えての行動ではない。
ああそうじゃない。絶対に違う。仮に心のどこかで思っていたとしても、口が裂けたって言えやしない。
さて、しばらくファミレスで話をした後、今山夏姫と電車に乗って、野球場へ行くことにした。夜の野外球場で趣味の野球観戦をしながら、メガホンを振る彼女の揺れない貧乳を観賞しようと思ったのだ。
開催されていたのは、プロ野球のナイター。
贔屓チーム側の外野スタンド自由席に座った。トランペット等で盛り上げる熟練の応援集団の近くに座ったので、落ち着いて話をするという雰囲気ではなかったものの、夏姫はノリの良い貧乳で、メガホン振り回したり、元気に声援を送ったりして、とても楽しそうにしていた。
素晴らしいセーラー服の貧乳が喜んで上下しているのを見ると、とても幸せな気持ちになるね。たとえそれが、世界一の氷雨の貧乳でなくともな。
「夏姫は、野球好きか?」
「うん。アキラがさ、球使ったスポーツ好きだからな。興味はあったんだ。全然ルールとかわかんなかったけど、見てたら何となくわかってきた」
また天海アキラの話だった。この夏姫ちゃんはアキラのことが好きなのだろう。
「そうか。楽しんでくれてるなら何よりだ」
誰が誰のことを好きであれ、貧乳をよろこばせることこそ、俺の生きがいなわけで。
「あ、先輩、ちょっと、お花つみに行って来ます」
突然、謎の言葉を残して席を立った彼女は、トイレ方向へと歩き去っていった。
ビールと唐揚げ等が混ざった匂いがしていて、何となく不快でありながら、やかましくて楽しい空間。それは、夏祭りに身を置いているような感覚であった。
試合内容は残念ながら惨敗スコア。〇対九。八回裏なので、もう勝ち目なんてほとんど無いだろう。それでも自軍にヒットが出れば湧き上がるし、メガホンで拍手もする。響く応援歌や掛け声は、そこそこの一体感がある。
男も女も、子供も大人も年寄りも、一つのものを見て、応援している。
俺はこの、球場の雰囲気が好きだ。
まぁ、貧乳への好意と比べれば劣るのだけれど、かなり好きなのだ。そんな野球場に、貧乳と一緒に来ることができたってのは、夢が一つ叶ったと言って良いんじゃないだろうか。
氷雨を誘った時には、「野球なんぞ興味ねえんだよ、しね」って断られたからな。
そのとき、良い気分に水を差すような声が響いた。
「おい、ビール売り! そこジャマで見えねぇよ! ブス!」
二段くらい上の席からの太い大声。酔っ払いらしきオッサンからのものと思われる。
「あ、わわわ、すみません!」
そして、俺の目の前の通路にしゃがみこみ、ペコペコ謝るビールの売り子さん。
背中に小さめタンクを背負って黄色っぽい感じに統一された服を着て歩く貧乳。ミニスカから出る美脚がまぶしい。人見知りな感じの貧乳で、目深にキャップをかぶって俯いている。キャップの後ろから、縛り髪が尻尾みたいにして跳ね出ていた。
良い貧乳だ。ポニーテールのスポーティ貧乳だ。
その貧乳が、今、あろうことか罵倒された。
身体と口が、自然と動いていた。
俺は喧騒の中で立ち上がり、応援歌を切り裂くように、こう言った。
「おい、オッサン!」
貧乳ビール娘がしゃがんだ場所の至近に居た俺は、勢いよく立ち上がり、そして、もはや勝ち目の薄い試合に背を向けて叫んだのだ。
「な、何だよ少年……」
突然叫ばれたので、たじろぐオッサン。頭髪の薄さが目立つ中年男だった。
「どこに目ぇつけてんだ! ブスじゃねぇだろ! こんなに美しいのに」
そうさ、こんなに美しい貧乳に向かってブスだなんて、到底許せる発言ではない。たとえ酒に酔っていたとしてもだ。
黄色い服の貧乳娘に目をやれば、「えっ」と、一気に頬を染めながら小さく声を漏らした。見れば見るほど素敵な貧乳だ。
このような貧乳を助けるためならば、オッサンに殴られたって構わない!
「いくらボロ負けしてるからって、ビールの子にあたってんじゃねぇよ! 情けねぇ!」
俺が堂々と言ってのけたところ、少し頭髪の薄さが目立つ中年男は、顔を真っ赤にして何を言ってるのかわからない不思議な言語を叫び、そして怒りをぶつけるかのように手に持っていたプラスチック製メガホンを投げやがった。
メガホンは空中で不規則な軌道を描いて落下し、ビール売り子ちゃんの肩あたりにポコンと当たって通路に落ちて、さらに下の、お客さんの少ない指定席エリアにコロコロと転がり落ちていった。
野球場で物投げとは……!
ビール娘に怪我は無かった、しかし、ポニーテールのスポーティ貧乳に物を投げてぶつけた。
――そんな状況に立ちあったら、君ならどうする?
どの貧乳好きに訊いても、言うだろう。その万死に値する男を倒すと!
怒りに震える体を抑えることができない。抑えたくもない。久々だ、こんなに怒りを覚える出来事は。
「オッサン! やっていいことと、ダメなことがあんだろ!」
永久にブタ箱にぶちこんでやりたい!
そのくらいの極悪行為だ!
俺は、今にも殴りかかろうとしたのだが、その前に、横から誰かが割り込んできた。
「物投げしたお客様、こちらへ」
警備服を着た男だった。
「な、何だ、おいやめろ、こっちは客だぞ、金払ってんだぁ!」
屈強そうな警備員は、「はいはい、お話はこちらで伺います」ってな感じで騒ぐオッサンを連行していった。とても慣れた動きだった。
俺たちの外野自由席に平和が訪れた。
「大丈夫ですか、お嬢さん。お怪我は?」
俺は紳士っぽい感じで話しかけた。
「は、は、えっと、はい、大丈夫です。あの、ありがとうございました」
「ハハハ、構いませんよ。美しい貧乳を助けるのは当然のことですから」
おそらく、残念なことに、『貧乳』より後の部分はチャンス拡大のライト前ヒットの歓声にかき消されて、彼女の耳には入らなかったであろう。
彼女は、おそるおそるといった口調で、
「あのっ、お客様、ビール、いかがですか?」
「いや俺、高校生なんだけど」
「そ、そうなんですか。どこの高校に――」
しかし、そんなタイミングでお客様の声。
「おねえさん、ビール!」
スーツ姿の会社員が彼女を呼んだので、
「お仕事、頑張ってね」
俺は小さく手を振った。
素晴らしいスポーティ貧乳を助けることができたと充実の笑顔を見せながら。
「ありがとうございました!」
名も知らぬ彼女は頭を下げ、背を向けると、ぱたぱたと小走りで去っていった。
彼女が顔を上げると、ビールを注文した人のところでは別の売り子さんが対応していて、同僚に笑顔でありがとうの合図を送っていた。
そういったところで、お花を摘みに行っていた夏姫が戻ってきて、
「あれ、好史先輩。何かありました? すごいニヤニヤしてますけど」
「素晴らしい貧乳だったからな……」
夏姫は首をかしげた。
★
球場から最寄の駅まで歩き、互いに反対方向の電車に乗ることになった。改札前で、別れ際に、素敵な絶壁貧乳に挨拶をする。
「夏姫。今日は君の貧乳と過ごせて、とても楽しかった」
「貧乳って言うなぁ!」
ばちん、と平手打ちが飛んできた。痛い。
「あっ」夏姫は申し訳無さそうに、「すみません。つい反射的に……」
「いっててて……氷雨といい、夏姫ちゃんといい、貧乳学園の女の子はすぐ暴力だな……どういう教育をしてんだ……」
「え、氷雨……って? 比入氷雨先輩のこと? 氷雨先輩を知ってるの?」
「おおっ? 夏姫とは知り合いなのか?」
「ええ、有名人でしたから」
「ほうほう。じゃあ、夏姫は、氷雨の過去のこと、いっぱい知ってるのか?」
「いえ、いっぱい……ってわけじゃないですけど」
「でも知ってるんだな? どんなだったんだ!? 氷雨は!」俺は身を乗り出した。
「え、えっと、なんか、すごい必死ですね」
「好きだからな、氷雨の貧乳が」
「はぁ貧乳が好き、ですか。でもそれ、氷雨先輩に言ったりしたら殴り殺されると思います。コンプレックスだって言ってましたから」
「ああ、そうみたいだな。もう何度死線をさまよったか、たとえば俺が阿修羅だったとしても、指折り数えて手足が足りなくなるくらいだ」
「あはは」
夏姫は俺大して面白くない冗談に軽く笑い、その笑顔を張り付けたまま、
「ときに、好史さんはさ、アキラが、実は男の子だってこと知ってるの?」
「なんだアイツ、夏姫にもバレバレか」
俺も夏姫につられるようにして、ヘラヘラ笑った。しかし、
「あ、やっぱりそうなんだ。そんな気はしてたんだよね」
サァっと血の気が引いた。
「え? 知ってて言ったんじゃ……」
夏姫は、「んー?」と首を傾げる。
し、しまったァ!
もしやこれは、カマかけられたってやつじゃないのか?
そして、見事にあっさり吐いちまったァ!
アキラは言っていた。バクチだと。アキラの親父がつくった借金を返すためには、女装男であることがバレてはいけないと。わけのわからん縛りだが、確かにそう言っていた。しかし今、単純な質問に、ものの見事に誘導されて暴露してしまった!
すまない、本当にすまない。本当にすまないと思っている。
天海アキラ。お前に甚大な迷惑をかけてしまうかもしれない!
「そ、そういったところで、今日は解散しとくか! ではまた会おう、絶壁の今山夏姫くん!」
俺は改札へと駆け逃げた。