(貧)NEW GENERATION 第7話 二人のひみつ
今山ハルヒメは驚いた。
「なんで、自分の名前を知ってるんですか」
その顔、その声、その胸。すべて前玉うおるが持つデータ通りだったからだ。『ないちち賞賛部』に所属することになったという最新情報もある。
前玉うおるは、素直に答えることにした。
「重要人物だからです」
「あー。まあ、なんか他の新入生とかから声かけられまくるし、どうも有名人らしいっすからね、自分。ちょっと変だなって思ったのは、みんな、なぜか『ハルヒメ』とは全然呼んでくれなくて、『ハルキ君』としか呼んでくれなかったことですかね」
「でしょうね」
「何か知ってるんですか?」
単純な話だ。格好良くて、きれいで、清潔感のある男扱いされているからだ。目の前にいる前玉うおると並んで、二大イケメン新入生と称されているのだった。
前玉うおるは、そのような価値の低い情報を盾にとり、
「もし、あなたが、この隠し通路のことを内緒にしてくれるのであれば、教えてあげてもいい」
などと口走ったのだが、この発言は隙だらけだった。
ハルキくん呼ばわりされる謎と、保健室の隠し扉の謎とでは、全くもって釣り合わない。
優勢になったことに気付いたハルヒメは、しばらくの間、あごに手を当てて考え込み、やがて言うのだ。
「……条件、出していいすか」
「何ですか」
「この隠し通路の先に何があるのか、教えて欲しいっす」
前玉うおるは考える。
今山ハルヒメは、それなりの関係者と言えなくもない。ただ、これは自分で最終判断を下してはいけない問題だ。
うおるは心の中で弾き出した結論に自分で頷くと、「ハカセ、どうする?」と囁いた。イヤホンからは、「隠し部屋に連行してください」と返事があった。
「では、あたしの後をついてきてください」
★
今山ハルヒメは、感動した。
「かあっけえ……」
数えきれないほどのスイッチと、数多くの画面。その光景が、彼女の中にひそむ少年の心をくすぐったようだ。
うおるがスイッチを操作すると、大きい画面から小さな画面まで、ひとつひとつに同じ顔が表示された。
大人の女だった。黒ローブのフードをかぶり、怪しげな雰囲気を出している。ハカセというよりは、怪しげな占い師といった風貌だった。
緊張したハルヒメであったが、しかし画面からはユルめの声がきこえてきた。
「ようこそ、今山ハルヒメさん。ナツキちゃんは元気でしょうか」
「えっ、ナツキねえさんの知り合いなんですか?」
「いちばんのお友達です。ハルヒメちゃんは、ナツキちゃんからみたら、従妹にあたりますね。今山家の血筋にしては、胸が大きいことから、親戚から今山家の奇跡と呼ばれていますね。ちがいますか?」
「なぜそれを」
「占いの力なのです」
「おおーすごい」
ハルヒメは拍手してみせた。しかし、占い師ふうの女は嘘をついている。実際は、親友、今山夏姫から得た情報の力である。
そしてまた、占い女は今山ハルヒメの隠し事を知っていた。
「ナツキちゃんに免じて、普通に胸が大きく成長していることは、秘密にしておいてあげます」
「はえ、なぜそのことを……!」
「困りますねぇ。うっかりカクシコちゃんにバレたら、『ないちち賞賛部』の仲間として認めてもらえないかもしれませんよね。それは、あまり好ましくないですよね」
今山ハルヒメは、視線を床に向け、自分の抱えていた最重要の秘密がわし掴みにされていることに、気持ちのいい諦めのような感情を抱いた。
「さすがです。占いの力ってすごいですね。ええ、そうです。あなたの言う通り、自分は巨乳なのです。でも、できれば、先輩たちを安心させておきたいです。偽乳で巨乳マウントをとってくる部活の先輩二人に対して、本気で悔しがっているかのような渾身の演技を続けて安心させてあげたいですから」
「ふたりとも、かわいい貧乳ですもんね」
「そーなんすよ! かわいーんすよ! 胸を盛ってくれてるからまだ我慢できるものの! あーもー撫で回したい!」
さっそく本性をあらわしていた。
「せいぜい、バレないように撫で回すことですね。あなたの従姉のナツキちゃんも、貧乳を撫で回すことに青春をかけていたといっても過言ではありませんでした。今山家の伝統なのでしょう」
「ハイッ、ナツキねえさんに近付けるよう、技を磨きたいと思います」
青春を浪費するものではない。
「先日、ナツキちゃんから電話をもらったのですよ。カクシコちゃんと仲良くやってほしいねって話でした。でも、ハルヒメちゃんとカクシコちゃんは、すでに仲良くやっているんですよね」
「はい。カクシコ先輩は、やさしくて、かわいくて、最高の部長っす!」
「それなら安心なのですよ。この場所のことは、くれぐれも内密にしてください。大好きな部長や、先輩にも、絶対に内緒ですからね。絶対ですよ?」
「わかってます。この今山ハルヒメ、約束は絶対に守りますから!」
これが、前玉うおると今山ハルヒメの出会いであった。




