97.サーシャとの約束
小さく開けられた場所から結界の中に入ると、サーシャは離れた場所で微笑みながらこちらを見ている。
このような形になったとはいえ、元より空虚と飢えを満たす約束であった。盗賊狩りや罪人狩りでも満足できないなら、約束どおり相手をする。最悪殺してしまっても仕方ない事だ。
サーシャにとって、鮮血が舞う戦いが嗜好の楽しみ。そして弱者ではなく、命のやり取りに価値がある相手、それが必要だった。
結界が閉じられる戦闘体制を取る。
「さぁ、楽しみましょう?」
刺繍のみが施された真っ白なドレス、赤い長髪と整った美しい顔で微笑むサーシャの姿は本当に美しい。
ただし、その背後の亜空間倉庫が開くと滝のように血が流れ落ちる。今まで殺してきた人間の血を保管していたのか、大量の血液がこちらまで広がり巨大な池のようになっていく。
「あはははははははははは!」
狂喜に満ちた笑い声を上げ、地面に広がっていた血液が刃となり襲い掛かってくる。吸血鬼としての力、血液を自在に武器として扱えるのは知っていたが、ここまで自在に扱えるほどになっていたとは。
一旦広がっていた血液の池から離れる。
「ウィンドエッジ:スラスト》」
風の刃をぶつけある程度は散らすが、数の多さに押し切られてしまう。血の刃に切り裂かれ、防いだ両腕から血が流れ落ちる。
「そうよ。 それくらい防いでくれないと楽しくないわ」
久しく見ていなかった血に酔ったサーシャ、純白のドレスが血に染まる姿からは、触れたら切り裂かれる危険性を持つ美しさにゾクリした感覚が過ぎる。
「凍てつく意思、冷鋭なる刃、《アイスツーハンデットソード:クリュスタッロス》」
透明に光り輝き、大型の両手剣と形状として詳細に作り上げられた氷の剣を握り締める。
お互い血を流しながらなんとなく分かる。私もサーシャと同じ、こういった瞬間でしか生きているという実感を持てない壊れた人間。人として著しく大事な要素が壊れてしまっている。
それでも人の群れで生きる為に人の振りをして、人であろうとしている。だから初めて会ったとき私は同類のサーシャに惹かれ、そしてサーシャも私の話を聞いてくれたのだろう。
「《アイスゲイザー》」
凍りついた左腕を地面に叩きつけ、サーシャの足元から無数の氷の刃が襲い掛かるも、身にまとっていた血が硬質の壁になり完全に防いでしまう。だが血の防壁によって視界は完全に塞がれた。
「《バスターブレスト》」
右腕で握る剣を上段から振り下ろすと同時に5つに分かれた破壊の波動が放たれ、血の刃を打ち砕きサーシャに直撃すると思われたが、血の防壁が消えると同時にまとめて右手で受け止め苦も無く別方向に跳ばしてしまう。
「そう、もっと力を出して。 私を楽しませて?」
ワイバーンなら一撃で仕留める技をなんなく片手で弾き飛ばす。サーシャを人として扱うかどうか迷うところだが、まだ力を出していない事だけは確か。




