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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
1章 王都での戦い
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7.戦闘と自分の魔法

一月後・・・・・・

 優秀特待生合格に両親や兄弟は特に喜ぶ事はなく、ただ一言


「「「がんばってこい」」」


 それだけだ。そっけないようだが、家族にとっては賛辞。もはや心配する必要もなく、一人前だと認めるということ。家を出ることも名乗る事も許されるが、家を出るのだから名乗ったところで意味はない。

 しかし家を出る前に一度名乗り直そう。


 私はオーディン王国の北東辺境地域を領地とするソーディアン子爵の4男 グレン・ソーディアン。

 両親は二人とも元Aランク冒険者であり、王への忠誠と王国に迫った竜討伐行った事から、ランクを返上し領地を得た一代貴族 ソーディアン家。

 長兄アークス 聖騎士であり王国騎士団副長として所属 女公爵と結婚

人格者であり良き兄だ。転生している為違和感はあるのだが、素直に兄として慕っている。

 次兄クロム Aランク冒険者だったが、家を継ぐため領地に戻った。

二つ名『雷鳴』の持つ凄腕の剣士だが、扱きは非常に厳しく実践的な事から全身傷だらけにされ顔には消えない傷を刻まれた。

 三男セズ Sランク冒険者であり魔術師ギルドの幹部

稀代の天才魔導師と呼ばれてはいるが、指導は厳しく実際殺しては居ないが人殺しとまで言われている。

 四男グレン 転生者であり前世では暗黒騎士などと言われていたが、神テラスに従い世界を救ってはいる。今も新たな使命をこの世界で待ち、少しずつ準備を整えている。

 長女シーナ 戦災孤児で養女。血の繋がりはないが大事な妹。散々兄達や両親と可愛がってきたが会えなくなるのは少々寂しい気がする。今は女学院の寮に居る為1年ほど会えていない。


 こんなところだが、会う事は余りないだろうし数年は領地に帰るつもりはない。前世の経験を覚えているといっても、身に覚えこませたり色々思い出す為に鍛錬をしなければならないからだ。

 用意されていた合格祝い金と一月掛けて選別した少ない荷物を亜空間倉庫に放り込み、屋敷の扉を出る前に振り返ると誰も居ない広間に一度頭を下げる。


「行ってまいります」


 扉を出ると王都に向け走り出す。



 王都までこのまま走り続ければあと3時間、夕闇が覆い始め空に月が上り始め夜が迫っている。満月が森を照らし始めた頃、草むらから一体の魔物が出てくる。スカーフのように布切れを巻いたルーンウルフ、どうやら約束どおりここで待っていたようだ。


「《アースガントレット:ダブルアーム》」


 両腕に土と石で構成された腕から肩まで覆う大きな打撃防具をまとう。こんなもの時間稼ぎ程度にしかならないがないよりはいいと思っていたのだが、防具が出来た途端襲い掛かってきたルーンウルフは右腕に噛み付き、頑丈なはずのガントレットが歪み腕に直接痛みが走る。

 鋼鉄と同等程度の強度を持つガントレットのはずが、やはりルーンウルフ相手には大して意味はなかった。痛みを堪えながら噛み付かれたまま、顎下の喉を左手で打ち込むと口を解き一旦距離を取った。

 予期せぬ反撃にルーンウルフも警戒しているようだが、ガントレットは半分近くまで牙が貫通しルーンウルフの右前足の爪が左わき腹を掠め、血が流れている。

 対人戦の組み立てられた技法とは違う予測不能な戦い方、前世の力や技術を思い出すため都合がよいのだが、何かが頭をよぎるが靄がかかっているように思い出せない。こちらが積極的に攻勢に出ない事を理解したのか、ルーンウルフは唸り声を上げると3体に分身し同時に仕掛けてくる。

 

「分身まで出来るのか!」


 驚愕などしてる暇も無い。牙と爪を防ぎながら戦う為のアームガントレットでは対処しきれず、1分と持たず2体が両腕に噛み付き、左右に引っ張られ強制的に無防備な状態にされてしまう。残る1体が正面から牙を剥いていて正面から襲い掛かる。

 危機的状態に、走馬灯のように記憶を辿り前世へ巡っていく。今世の記憶が邪魔で靄がかかり思い出せなかった日本語を利用した独自の魔法、この世界に転生してから完全に忘れていたものだ。


「弾けろ。 《暴爆陣 導爆線》」


 自分自身の体表面に、爆発する紐状の物体を無数に生成。2つの分身体ごと自らを爆雷で吹き飛ばし無理やり拘束から逃れたが、いまだ続く爆発の中を構わず突っ込んできたルーンウルフ本体はその牙を突き立てようと迫る。

 

「穿て。 《爆打 衝》」


 目前まで迫っていた上顎に爆発する打撃を叩き込み、お互いに一定距離吹き飛ばされ地面に着地、いつでも飛びかかれる体制で向かい合った。自分ごと分身体を吹き飛ばした為、爆発の火傷や打撲はあるが、ルーンウルフは上顎側面の毛皮が少し焼けているだけだ。

 さすがはBランク指定危険魔物、今まで領地で狩ってきた獣や魔獣とは格が違う。


「血が滾り楽しいな。 お前もそう思うか?」


 我ながら馬鹿な問いかけとは思うが、ルーンウルフも牙を剥いているが尾は左右に揺れていた。やはり強い獲物を狩るのは、狩人として誉れなのは一緒なのだろう。私も忘れていた言語を思い出したことでテンションが上がっている。

 言葉は意味を成すだけではなく、多くのモノごとを思い出すきっかけ、今魔法だけではなく色々な事をどんどん思い出してきている。前世で教わった体術も、戦術も、仲間で在ってくれた人々の事も。


「そうか楽しいか。俺も今非常に嬉しいんだ!」


 試したい魔法は湧き出る様に思い出し始めている。ルーンウルフには徹底的に魔法の実用試験に付き合ってもらう。傷付いたアームガントレットを再構成、今度はこちらから襲い掛かるように歓喜に身を任せルーンウルフに向っていく。



 周囲が焼け野原となった森の中、朝日が差す頃、ルーンウルフはクレーター化している穴の中心に寝転がり動けないで居た。私も肩で息をしながら木に寄りかかっているのが精一杯だ。

 ルーンウルフとの戦いで朝まで魔法を連発し、ほとんど魔力が枯渇したが、制御を完全に行えたのは良い成果だ。なんとか寄りかかっていた木から離れ、とルーンウルフを見る。おかげで色々思い出す事も出来たが、最後の一撃を加える一時間くらい前からは何も思い出せなかった。

 それでも懐かしい友人達の顔や声、そして前世界にとって人類の裏切り者でもある自分を、殺されるまで信じてくれた同胞、導いてくれた精霊達を思い出すことが出来た。それだけでも幸運だ。

 思い出させてくれた礼として、命を取らずに離れようとしたが、ルーンウルフはよろめきながら起き上がると、敵意はなくこちらに向ってくる。


「なんだ。 ついてくるのか?」


「オマエハカッタ。 ツマリカシラハオマエ、ツイテイク」


「・・・・・・話せたんだ」


「グレン。 私の声が聞こえますか?」


 朝日に空が照らし出される中、ルーンウルフと歩き始めようとしたとき、聞きなれた声が頭に響き足を止め空を仰ぐ。僅かな雲さえもない朝焼けの空のはずが、蒼い晴天の中に後光のような光が射している。


「この声と天候は、テラス様!」


 その場に跪き拝礼の体制を取る。ムーンウルフは何が起こったのか理解できていないようだが、その場で伏せの体制を取った。


「神託を与えましょう。 この世界は6人の異世界から来た者達によって乱されているのです。 そしてこの世界の最上位神は、その6人によって封印されています」


 転生者とて善人や神の意向に素直に従うものばかりではない。召還する対象の人格を読み間違え、過ぎたる力を持たせてしまったのだろう。人間すべてが比較的善良であったり神の意思に従うわけではない。

 私も転生者ではあるが、元々神様が居ると信じて信仰心を持っていたし、転生する時に直接会った事で心底畏怖と敬愛の心を持っている。礼節をわきまえ 神を畏れよ 神を敬え さすれば見守り力を貸してくださる。私なりにだが、ずっとそうしてきた。

 

「ではこの世界の最上位神は封印されてしまったと・・・・・・、その為いままで神託がなかったのですね」


「私は立場上、この世界に深く関わる事はできませんが、あなたが6人の命を絶ち、神を開放するのです」


「っ!」


 さすがに一世代間を置いているとはいえ、同じく世界から来た者を殺すのを、なにも思わないと言えば嘘になる。加護が合っても価値観の異なる世界で、赤子から生活し直すのは楽な事ではない。それなりに努力してきた者を殺すのはためらいがある。

 

「過ぎたる技術は世を乱し、退廃は人を退化させます。 あなたはこの世界の神を救いなさい。 動き回れば、かの者達は邪魔だと思い命を狙うでしょう。 その中にはかならず神を封じた者が居るはずです」


「わかりました。 使命を全うする為尽力いたします」


「あなたは神の使徒ですが人です。 心に常に清涼な風が吹くよう心がけなさい。 長く澱んだモノは全て腐れます」


 そのまま声が聞こえなくなり、空を見上げると再び朝焼けの色に戻っている。難しい使命を受けてしまった。動き回るというのは恐らく前世のように国を崩壊させたり、都市を地図から消滅させたりする事を言っているのだろう。あんな精神衛生上良くない事は神命とはいえあまりしたくはない。


 この世界において私の使命、それは最上位神を封じた転生者を倒す事。その為に技術や知識を会得し、当面は未熟な自分を鍛え上げながら、居場所が判明次第討伐に向かう。


「神託ナドハジメテキイタ」


「厳しく優しい方だよ。 もし語りかけるなら畏怖と敬愛の心を持った方がいい」


 何も答えず首を左右に振るとルーンウルフは立ち上がる。神との対話は軽々しくするものではない。それこそ畏敬の念が必要なのを理解しているのだろう。

 そのまま王都まで歩き続け、森からルーンウルフと共に出ると門前に居た衛兵達が武器を構えているが、敵意はないと両手を振ると5人ほど集まっていた衛兵が武器を下げる。どうやら理解してもらえたようだ。


「それはお前の従魔か? 登録証はあるか?」


「ギルド登録証ならありますが」


「なら冒険者ギルドで従魔登録してマークをつけてくれ。 そうしないと街には入れん」


衛兵の言う事ももっともだ。従魔かどうか分からない魔物や魔獣を町に入れるのは危険だ。


「登録用の一時許可証を出すから、登録したらギルドに返却してくれ」


一時許可書を受け取り、正門をくぐり冒険者ギルドに入ると多くの冒険者がこちらを見て驚いている。2メートルを超える狼が堂々と入ってくれば当然か。人の視線を感じながら受付まで行く。


「従魔をギルド登録したいのですが」


「では、ギルドカードの提出とこちらに、従魔の名称を登録いたしますので記載を御願いします」


 さすがに受付嬢は肝が据わっているというか手馴れているというか、驚きの感情をまったく見せず普段どおり対応している点は評価すべきだ。


「名前はジノーヴィ」


 神託を受けてから色々話し合い、複数用意した名前からルーンウルフ自身が選んだ。個人的にはエクスなんてものが良かったが、ジノーヴィが良いと言うのだからそれでいい。


「それでは従魔登録として首輪やアンクレット、ネックレスなどありますが、物によって費用は異なりますのでご注意ください」


カウンターの上に用意されたモノはどれも作りがしっかりしており簡単に壊れないようなつくりになっている。どれにするべきか悩んでいると、ジノーヴィは自らネックレスを咥えると器用に首に掛けてしまう。


「ネックレスでおねがいします」


「2700フリスとなります。 登録はこれで終了いたしますが、何かお聞きしたい事はございますか?」


「いえ、ありません」


「それでは良き冒険を」


お金を支払った後、ギルドを後にすると王都戦士養成学校に向う。


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