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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
1章 王都での戦い
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6.合格と約束

翌日・・・・・・

 早く寝すぎた為か、宿に併設されている食堂の開店時間よりも早く起きてしまった。時間を持て余し、依頼を受けるつもりはなく、ギルドに入るとすでに数グループの冒険者が集まっている。

 併設食堂で食事をしているものが比較的多く、これから早朝の依頼に出るか帰還したばかりなのだろう。食堂の隅に空いている席に座ると、すぐにウェイトレスが注文を聞きにやってきた。


「朝食は何がお勧めですか?」


「スネークラビットのシチューですね。 400フリスとリーズナブルなのもお勧めな点です」


「それとお茶をください。 熱々で」


 4分ほどして届いたシチューは予想以上の出来上がりだ。テーブルの上に置かれたのは、原型の残った少々グロテスクなウサギとヘビだったが、見た目と違って味も良かった。ゆっくりと味わって食べ終わる頃にはギルドは活気を取り戻し始め、多くの冒険者が依頼を吟味し受領していく。

 まだ正午まで時間はあるが、私も簡単な依頼でも受けようかとEクラスの依頼掲示板を確認していると酒の匂いが漂ってきた。


「おい新人! 俺達に挨拶しないとはいい根性じゃないか!」


 声のほうを振り返ると、酒臭いを漂わせている男達が絡んできた。やはりこの世界でも新人にえばり散らしたい奴らが居たようだ。

 革防具とブロードソードを持つ事から同じDランクか、良くてCランクと言ったところだろうか。

 前世のギルドなら喧嘩は警告もしくは強制除名だったが違うのだろう。周囲を見回しても我関せずといった様子だ。私も関わっても仕方ないと無視したいところだが、どうやらそうはさせてくれないらしい。


「おい! きいてんのか!」


 酔った勢いなのだろう一人がブロードソードを抜き、もはや挑発で済む段階は超えている。こういった輩の対処できるかどうかもこの世界では冒険者のたしなみなのだろうか。

 黙ってギルドの目の前にある通りに出ると、男達は喚き散らしながら同じように通りに出てくる。戦うつもりで間違いない。止める事もなくギルド担当者達も数人出てくる事から一応の公認ではあるのだろう。


「骨の数本くらいは覚悟してもらうか」


 いまだ口汚く罵っているようだが、もはや意識に止める気にもなれない。


 数分後ギルドの職員に止められた。加減はしたつもりだったが、全員腕や肋骨の骨が砕かれ地面に転がり、うめき声を上げている。今は18歳とはいえ、前世の35歳とその前の30歳以上をあわせれば80歳を超えるのだが、元々居た世界の名も顔も思い出せない師範に知られたら。


[まだ心の修行が足りん。自己を完全に制御できてこそ一人前だ]


 と窘められる事だろう。一時的な感情に飲まれてしまった事を恥じよう。


「申し訳ない。 少しやりすぎたようだ」


 止めてくれたギルド職員に丁寧に頭を下げ謝罪を述べる。必要のないことかもしれないが。


「いえ、彼らが先に剣を抜いたのは確認していますし、問題はありませんよ」


 やはり黙ってみていただけか。この程度の事を対処できなければ依頼遂行中の問題も解決できないということだろう。怪我をした連中がギルド職員の手で室内に引き摺られていくのを見届けたし、再びギルドの中に戻ると隅の方でのんびりと時間まで過すとしよう。

 正午前、王都戦士養成学校前に到着すると職員の手によって張り出された正門前の掲示板に多くの人が集まり、合格番号を確認しては喜びと悲しみの表情を浮かべている。人混みを押し退け掲示板の前に行くと自らの番号を確認。


優秀特待生 5

13 56 74 75 99


 優秀特待生の中に合格番号があるのでどうやら無事入れたようだ。これで兄達に怒られずに済むとほっとしたが、これから一旦家に戻り両親に報告した後荷物を運び、生活費を稼ぐ為に依頼もこなさなくてはけない。

 掲示板を離れ、急ぎ足で王都の正門を出て20分ほど離れると全速力で屋敷へと向う。王都内で全速力で走るには狭く人が多い為無理だが、王都外なら問題はないし今走り始めれば夜遅くには屋敷には着ける。

 野原や森を突っ切り一直線に領地へと向っている最中、夕暮れの中妙な気配を感じた方向に進路を変えると森の中で珍しい魔物を見つけた。

 2メートル近い体長に真っ黒な体毛と、鋼の様に光る牙と爪、滅多に出会う事のできないBランク指定危険魔物 ルーンウルフ。

 近付いてみると全身傷だらけのルーンウルフは唸り声を上げて威嚇しているが、立ち上がる力もないのか横たわったままだ。

 並みの刃など通さぬ体毛を貫き、体をえぐったのは、近くに屍骸が二体転がっている熊型の魔獣。おそらく何とか倒したものの瀕死の重傷を負ってしまったのだろう。


「怪我しているのか」


 せっかく人間以外の強い生物と戦うことで、前世の事を色々思い出せるかと思ったが、これでは何も意味がない。Bランク指定危険生物である以上討伐し、部位証明を持っていけば金はもらえるのだが、ここは治療して傷が癒えたところで戦った方がいい。

 ルーンウルフと熊型魔獣を回りを覆うように魔除けの簡易結界を張り、傷薬と布を取り出してルーンウルフに近付くが、相変わらず威嚇をしたまま横たわっている。唸り声を上げているが、弱々しい声に恐怖は感じない。手当てをしようと延ばした腕に噛み付くも、もはや力もないのか痛くはない。

 傷を触れて確認すると皮膚を切り裂き肉を裂いているが、幸い骨や臓器までは届いていないようだ。手当てによる痛みで何度か痛々しいなき声を上げているが、気にせず薬を塗りこみ布で覆ってしまう。

 

「生き残っていたら次の満月の夜に戦おうな。 それまで人を襲うなよ」


 ルーンウルフは魔獣ではなく魔物、その知性は高く人間の言葉を理解している。目印に袖の一部をナイフで切り裂くと小さなスカーフのようにルーンウルフの首に巻きつける。手当てできる事はしたし、幸い横には大きな熊型魔獣の肉が大量にあるし二三日は魔除け結界の効果は持つし大丈夫だろう。

 その場を離れると再び領地に戻るため走り出した。

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