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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
2章 各領地への遠征開始
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59.塔での戦い

 王が倒された頃、広い地下の間にグレンは到着してた。

 中央に置かれた椅子に一人の男が座り、僅かな油断もなく張り巡らされた防御結界に護られ、杭打ち機ブレーカーガントレットでも打ち破れそうにもない。

 人の姿をしているがワイトキングとは比べ物にならない化け物。


「腰抜けと金に弱い傭兵、君が2人を殺したのか」


 テラス神様の言葉から転移者同士は仲間と考えていたのだが、同じ転移者を殺された事をなんとも思っていないようだ。

 ゆっくりと椅子から立ち上がると、周囲の空間が膨大な魔力によって揺らめき、薄く光り輝くようにその身を無数の結界が覆っていく。


「で、お前は 何で俺達を狙う なんて事言うだけ無駄か。 知ったところで関係はない」


 足元に魔力の流れを感じ、後ろに跳ぶと同時に足元から炎の柱が立ち上り天井を溶かし始める。無詠唱の発動ワードも無しにこの威力、キメラの男よりも遥かに威力が優れ、離れていても火柱の熱気でやられてしまいそうだ。


「良く気付いたじゃないか。 ではこれならどうする」


 手を軽く動かすと周囲を氷の刃が現れる。軽く見積もってアイスジャベリンを50本、冗談じゃない。

 中級魔法とはいえ、兄セズでもきっちり詠唱をしてせいぜい50本が限度、強大すぎてどんな魔力量をしているのか推測さえ出来ない。


「《アースウォール》」


 石材で出来た防壁を4方向を守り、氷の刃がアースウォールを貫くと同時に跳躍することで避け、倉庫から取り出したダガーを投げる。

 1mほどまで接近したところで雷球が4個発生してダガーを粉々に打ち砕き、今度はその雷球が予測不可能な動きでこちらに向ってくる。


「《アイスジャベリン:ブレスト》」


 10本の氷の槍を作り出し雷球にぶつけ相殺、崩れたアースウォールの残骸に魔力を込めて蹴り飛ばしながら距離を取る。

 石材の残骸が結界に当たると粉々に砕け散り、結界の質が対物理・対魔力結界であることは分かった。


「良く出来てるじゃないか。 これは良い訓練になる」


 こちらはすでに全開状態だというのに余裕が伺える。

 手の動きに連動して氷の刃、炎の柱、雷球など自在に操り絶え間なく攻撃を繰り返され、防ぐので精一杯だ。魔導士・魔法使い、いや大賢者と言うべきか非常にやりにくい。


「次は剣で訓練させてもらおうか」


 とっさに取り出した城崩し 鈴風の負荷強化と身体強化を併用、構えると眼前に迫っていた転移者の剣を受け止める。

 全身の骨が軋み4.25倍の付加にリジェネレーションを付与するも徐々に力で押されていく。剣を打ち払われ、距離を取ると同時に再び踏み込み上段からの剣撃が迫ってくる。

 後ろに下がりながら斜めに剣を構え受け流し、続く切り上げを1歩下がりながら避け、頭部を狙う突きの体勢に入ったのを確認し、反撃に出るため剣をやや上段に構えようとした時冷や汗が流れた。

 突くための構えの割りに足の開きが横に広い、これは頭部への突きに見せかけたフェイント、即座に剣を下げることで胴薙ぎ振るわれた剣をなんとか柄で受け流す。

 折れることなく剣は耐えてくれるかわりに衝撃が体に響き鈍い振動と痛みが全身を襲う。


「いい反応だ。 狼獣人よりも良く防ぐ」


 反撃さえできず、防戦一方でなんとか耐えるが、何かを試しているようで発現と表情から余裕が伺える。


「これは防げるか?」


 突如視界から消え、反射的に背中の鞘に納めてる治癒の魔剣を引き抜き、背後からの攻撃を受け止める。

 今動きが全く読めず、兄に鍛えられた反射行動でとっさに防げたが、視界と共に気配そのものが突如として消えたのは間違いない。

 再び姿消えると次の瞬間には10mほど離れた場所に姿を現した。


「これほど戦えるなら、態々狂戦士を作って訓練相手にする必要はなかったな」


「なに?」


「態々手間をかけて薬物を用意してやり、身体強化魔法や結界魔法を教え、さらに精神操作で限界を超えた狂戦士を作っていたが、数を用意しないと鍛練相手にはならなかったからな」


 あの狼の狂戦士の言葉、そしてこの転移者の言葉、ようやく意味が繋がった。

 獣人は素体の戦闘力が高い為が魔法を苦手とし、その獣人に身体強化魔法を教え、薬物でさらに強化し、精神操作で枷を外せば、簡単にA級冒険者を越える戦士を量産できるわけだ。

 あれだけの戦士を相手に訓練をすれば充分な効果が見込めるはず、だが狂戦士化で次々戦士は死んでいく為に獣士隊のある王城の連中をどうにかしてしまったのだろう。


「そこまでしてなんになる!」


「まだ見ぬ強大な相手だ」


「まだ見ぬ強大な相手だと!?」


「宇宙、その先にはもっと凄い相手が居ると思わないか? エンシェントドラゴンよりももっと強大で危険な生物がいることを」


 満足せず、薬物で強化し、魔法で体を作り変え、限界を超えた狂戦士化させて戦い殺す。

 それさえも、自らの探求と目的のためなら、誰かが苦しもうと世界がどうなろうと気にせず、高みに届くためなら誰かを犠牲にして良いと、その考えに至ったとしても実行するとは正気ではない。

 享楽・自己主義、理解できないが一つ分かった。油断してるわけでもなんでもなく、自らを鍛え上げるために私さえも利用していると言う事。

 なぜどの転移者はここまで自由に生きるのか。この世界はこの世界に生きる者達ものだ。我々の遊び場ではないということを何故理解し、静かに世界のために生きようとしないのか。

 城崩し 鈴風を倉庫にしまい気合を入れなおす。


「能力制限の解除」


 全身の傷痕、魔力紋に沿って黒い光が輝き出す。体をさらに鍛えこみ知識が増えたことで、まったく制御できない状態から、認識し2割程度まで制御できるようになっている。

 これで一人目と戦った時よりは幾ら上回る程度だが、それでも眼前の転移者に届くだろうか。


「黒の魔剣」


 白い腕が黒く光る両手剣を取り出し握り締める。身体強化魔法15割、10割を超えた倍率に城崩し 鈴風を使ったときのように反動が全身に襲い掛かる。


「いいじゃないか。 これでますます仮想敵との訓練になる。 もはやこんなものは不要だな」


 天井にあった魔石が砕け散ると魔力が極端に増大し、魔力の差が簡単に見積もって倍以上差が開く。

 ますます速さを増した斬撃が襲い掛かり、剣同士がぶつかると同時に互いの防御結界に魔力が弾かれ、無差別な破壊が周囲に撒き散らされる。黒い力を利用した身体強化の為、鈴風を利用した4.25倍の時よりも身体能力は強化されているのだが、それでもなお速さについていけず全身の切り傷が増えていく。


「っ!」


 僅かな油断、体制を崩した瞬間左腕が切り飛ばされるが、即座に血液が触手のように伸びると腕を繋ぎ直し傷が癒える。

 一瞬驚いたのか転移者の動きが止まり、即座に亜空間倉庫から城崩し 鈴風を取り出し投じると結界を破壊し転移者の胸部を貫いた。

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