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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
1章 王都での戦い
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5.入学試験開始と他の魔法剣士

翌日・・・・・・

 王都戦士養成学園には100人以上の受験者が集まり、いくつかの部屋に別れ、最初の試験である筆記が始まるのを待っている。筆記試験、平民やろくに勉強もしてない貴族のボンボンにとっては大変だろうが、学問は兄達指導の下必死で覚え大抵の問題は答えられる。

 回答を間違えて丸焦げになったり、正解するまで魔獣に追い掛け回された勉強風景を思い出すと涙が出てくるが。

 

「それでは筆記試験を開始いたします。 なお、不正行為は即失格となります。 回答の記入が終えた人は試験官を呼び、用紙を回収してもらってください」


 早めに全ての問題を解き終え、試験官に用紙を渡すと午後からの実技試験に備え、早めの昼食を取る為食堂に移動する。

 予想していたよりも筆記試験は簡単なものだった。兄達が作った模試の方がずっと難しかったのだが、今年から問題が簡単になったのだろうか。


「おい、賄賂は贈ってあるんだろうな」

「あんな難しい問題出来るわけないだろ」

「庶民連中と一緒にやってられるか。 金さえあればどうにかなるだよ」


 広い食堂についてみると貴族連中が一箇所に固まって話しているが、やはりボンボン連中は勉強していなかったのか、賄賂で合格を得る算段をしていた。堂々と廻りに聞こえる声量でそんな話をしている時点でかなり馬鹿だが、取り巻きや仲間も同じ程度らしく止める様子も無い。

 関わり合いになっても仕方ないとカウンターで注文し、日替わり定職を受け取ると誰も座っていない食堂の隅の椅子に座る。

 食堂にも張り出されている受験案内を確認すると午後の試験は実技、教官と一対一で戦って実力を直接計るらしい。いつもどおり片手剣で行くか、それとも双剣で対応すべきか悩むところだ。


「お~っほっほっほ!」


 食堂に響き渡る高笑いに視線を向けると思考が停止してしまった。綺麗なブロンド四連縦ロールのブルーアイ、貴族出身だろう身なりとスタイルの良さ、美しく自信溢れる顔で口元に手を当て、淀みの無い高音の高笑い、私を含め食堂にいた全ての視線を惹きつけて止まない。

 

「・・・・・・まじかよ」


 兄達に叩き込まれた貴族の口調を忘れ、久しぶりに前々世の口癖が出てしまった。蘇る記憶の中でもこんな存在はアニメや漫画の中だけ、前世でも多くの貴族を見たがここまでど直球お嬢様を見たことは無い。


「午後の試験がまもなく始まります。 各自割り振られた実技会場に集合してください」


 案内係の人の声で5分ほど唖然としていた事に気付き、急いで食事を済ませると足早に案内に従って会場に移動する。普段は戦闘訓練に使用されていると思われる実技会場は非常に広く、数グループに分けられ試験を受けるのにも関わらず充分は広さがあった。


「それでは実技試験を開始する。 一人ずつ順番に試験官と得意武器で立会い、3分耐えられれば合格とし、3分以上は評価点として加える。 10分も耐えられれば、実技試験において優秀は確実だと思ってよい」


 順番としては最後になるため、端の方で座って他の受験者の眺める。誰しも合格を目指してきたのは間違いないのだが、やはり身なりの良い者の一部は3分も持たず無残としか言いようがない倒され方をしている。


「次74番!」


 先ほどのお嬢様は腰に下げているショートソードを抜くと片手で構える。半身に構える様子から戦闘スタイルは騎士ではなく貴族流の刺突系剣技だろうか。

 開始と同時に刀身全体に炎が宿り、周囲の受験者達が驚きの声を上げている。


「付与魔法剣なんて、あんな魔法消費が多いものを使うなんて、すごいな」


 剣同士がぶつかり合うと、教官の剣が赤くなり始め長くは打ち合えない事を教えている。炎を纏う以上並みの剣で受け止め続ければ溶断されるか、手持ちが熱くなりすぎて剣を捨てるしかなくなる。

 炎をまとったショートソードを巧みに操り、試験教官を追い詰めていく。炎で自らの身を焦がさず、弧を描く美しい炎の軌跡に照らし出される姿はとても絵になるものだ。美麗な剣技とはこの事をいうのだろう。

 兄クロムには美麗な剣技は無駄もあるが貴族としては必要と散々言われ、心がけてはいたが結局モノには出来ず、騎士が一般的に習得する基本のみなんとか使えるに留まっている。

 2分と掛からず試験官の持っていた剣を絡め取り、横に払い落とすと首元に突きつける。


「まっまいった。 ここまでやれるとは」


「ありがとうございます」


 炎を消しショートソードを丁寧に鞘に収めると優雅に頭を下げる。礼節も整い強くて美しい。同じ受験者の男達は身だしなみを整えたり、貴族の男達は声を掛けようと集まっていく。

 しかし手馴れているらしく寄ってくる男達を軽くあしらうと、最後まで見ていくつもりなのか実技会場の隅に移動する。それから待つこと1時間、ようやく最後だった私の順番だ。

 

「次99番!」


 試験官も度々交代し、目の間にいるのは3人相手にした5人目の試験官。老齢に入ろうとしている歳だろう顔には皺と共に刀傷が刻まれており、どこか父親に似ている気がした。

 

「一手お相手をお願いします」


「良い面構えだ。 良い指導者でも居たか」


「私を普段から半殺しにしてくれる良い兄達がいました」


 皮肉もこもってはいるが、素直に感謝はしている。小さい頃から全力で戦い、セズ兄に能力制限の魔法を掛けられていたおかげで、前世の力を少しは取り戻す事が出来た。今も大分能力を制限されているが、全力を出しても怪しまれる事はないのが助かる。

 

「そうか、では全力で掛かってくるが良い。 事によっては首席の判を私がじきじきに押してやろう」


「では全力で参ります。 《アイスツインソード》」


「気にせず掛かって来い!」


 目の前の試験官はそれ以上言葉に出さず剣気を容赦なくぶつけてくる。二本の氷の剣を構成し双剣に構えると躊躇なく斬りかかる。甲高い音が鳴り響き胴を狙った一撃は剣で防がれもう片方の剣で首を狙うはずが、試験官の顔を狙った拳を右腕で受け止める為攻撃できなかった。

 殺さない加減はしていたが、躊躇なく拳で反撃してくるとは思わず一瞬驚いたが、実戦では使える手はなんでも使って相手を倒せばいい。

 不思議と笑みを浮かべてしまう。互いに技量を表現できる相手と戦えるのは嬉しいものだ。


 現世に居た時は今では顔も名前も思い出せない友人と倒れるまで組み手をやった事があったが、あの時も勝敗よりもお互い自己を表現し、偽りなくぶつかり合える嬉しさがあったがそれに似たようなものだろう。


 狂ったように笑顔で打ち込み合う我々を見た他の受験者は戦々恐々としているのが何度か視界に入るが、しかしこの楽しい戦いをやめるつもりはない。


「そこまで!」


 15分間にも渡る剣舞は楽しかったが、突然の制止によってお互い興が削がれ、不満の表情を浮べながら視線を向けると鬼のような形相を浮べた女性が立っていた。服装からして別の場所で試験官をしていたのだろうか。


「ディレイ試験官!試験を行うあなたが楽しんでどうするのですか!」


「あぁ、すまない。 久々に楽しい使い手がいたものでな。 99番すまんが合格としてここで終了だ。 申し訳ないが」


 他の場所で試験をしていた人に間違いはないようだ。盛り上がってきたところで止められ少々不満だが、本来試験なのだがらしかたない。合格できたらその時もう一度戦ってもらえるよう頼みに行けばいいし、万が一受からなくても勝負を挑むだけだ。


「本日の試験は全て終了とする。 試験の結果は明日の正午正門前に張り出されるから確認するように」


 いまだ残っていた数人の受験生達と共に会場を後にし、宿屋に戻ると一旦隣の食堂で食事を済ませ早い眠りについた。

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