56.国に巣食うモノ
獣人国への入国が許可されて二日、街道を乗合馬車で進み首都レフリアに向っていた。
「クにヲ、みなをタの・・・・・・ム」
その言葉が頭にこびりつき消えることがなかった。
獣人の国はたった一つ、そしてその 国と皆を頼む とはどいうわけなのか。
最悪な事を想定すれば、転移者が国の乗っ取り何かを企んでいると言う事だ。簡単に言うがそれほど大変なことは無い。
あの世界の高度な政治経済の知識と神が如き力、それがあれば半年もかからないだろう。
王都にある上下水道は科学レベルに当てはめれば中世ローマ程度、それを配管に換えるだけでも劇的に変わる。
配管になれば自由度が増すため、さらなる変化が可能となり、料理についても酒肴の変化から人心掌握に向き、武具についても驚異的なものになる。
結局は段階を置いて発展しないがために、ある時を境に著しい停滞を起こす危険で愚かな行為だが。
到着した 首都レフリア は整えられた町で、オーディン国の王都にもどこか似ており、文明レベルが近いことが良く分かる。
少なからず交易があるので当然と言えば当然ではあるが、あえて違いを言うなら、木造建築で大型や小型獣人に対応した建物や道具などが多く、石畳よりも硬く固められた土道、蹄などを持つ種族に対応していることだろう。
ギルドに向っている道中で怒鳴り声が聞こえ、人々が集まりだしていた。
何事かと通り過ぎながら遠巻きに確認すると、街道のど真ん中で山羊獣人が数名集まり険悪な雰囲気になっていた。
すでに喧嘩の前哨戦らしく、山羊獣人同士が角を突き合わせて互いの優位性を争っている。
「あたしと遊びたきゃどちらも頑張りなよ」
原因は少し離れたところに居る女山羊獣人のようだ。
タバコ片手に魅力的な体を薄着で隠し、その場を煽っている。
一体一の様に見えて、所々で男達は険悪な雰囲気になっており、小さなきっかけが起きれば大乱闘になりそうだ。
「みんな止めませんね~。 ここは私が仲裁しましょ~」
止める間もなく、ナルタは喧嘩していた2人をの近くまで行くと、襟首を掴み持ち上げ抵抗できなくしてしまう。
突然のナルタの行動に山羊獣人は驚き手足をバタつかせている。
「いっ、いきなり何しやがる!」
「離しやがれ!」
しかし人間と比べても少々小柄の山羊獣人にとって、ミノタウロス族は見上げるほど大きく、190を超えるナルタが持ち上げると手も足もでない。
「ここでの喧嘩はだめですよ~。 往来の迷惑です~」
二人が大人しくなるまで持ち上げたまま軽々と振り回し、ナルタが怪力で懲らしめる様子を周囲で見ていた獣人も、そんな目に会いたくないと離れていく。
「ちょっと、あんた何邪魔してくれてんのさ!」
大抵の獣人がナルタを避け始めた頃、煽っていた山羊獣人の女性獣人だけが残っていた。
ナルタはぐったりとした男の山羊獣人達を降ろし、同じ目線まで女山羊獣の前にしゃがむ。
「邪魔と言われても~、喧嘩してもギルド評価にならないし~、報酬も貰えませんよ~。 何よりも皆さんの迷惑です~」
山羊獣人としては魅力的かもしれないが、同性かつミノタウロス族のナルタにとってはなんと言うことはない。今回は相変わらずのんびりした話し方だが、はっきりと迷惑だといっている。
「あっ、あんたは部外者じゃない! あたしの邪魔しないでくれない!?」
「部外者でも邪魔でも、往来の邪魔が一番良くないですよ~。 だからあっちで話しましょうね~」
ナルタはさっさと両手で抱え上げると、腰に抱えて歩き出してしまう。
その間も女山羊獣人は暴れているのだが、ナルタは気にしている様子はない。
温厚ではあるが怪力なミノタウロス族のナルタが、本気で抑えようと思えば、恐らく私でも全力を出さないと抵抗は出来ない。
「ちゃんと事情を話すから、ちょっと待ちなさいよ!」
さすがに手も足も出ないと思ったのか、山羊獣人族の女性は暴れるのをやめる。
「家があっちにあるから、このままで良いからそっちにいって」
小さな家に誘導され、扉が閉められ簡易的ながら音遮断の魔法が施される。
ナルタが床におろすとテーブルの椅子に座り、こちらも椅子に座るよう促された。
「事情があって人材を募っていたのよ。 それなのにあいつらすぐにヤるだと言い出すし、話も通じないからちょっと煽ってみたらあの有様」
「それでわざわざ喧嘩を煽っていたんですか?」
「みんなおかしいのよ。 すぐいざこざが起きるし、同族の山羊獣人は本能的だけど普段はあそこまでじゃないの。 それに普通ならあれだけの事が起きれば、堅苦しいくらい真面目な犬獣人族が止めにくるはずなのに、誰も来なかったでしょう?」
確かに勤勉で真面目と有名な犬獣人族、それが止めに来なかったのはおかしい。もちろん個体差で真面目不真面目はあっても、町に多く暮しているはずの犬獣人族が何の反応も起こさないのは奇妙だ。
「確かに変ですね~。 でもそれと喧嘩を煽ったのはなんの関係があるんですか~」
女山羊獣人は荷物から小さな紋章を取り出し見せてくれた。ワイルドビート国の紋章が描かれた布、部隊章のようにみえる。
「これでもあたしは第二十二 山羊獣士隊の隊長 カシミール。 三日前に任務から戻ったらこの有様で、様子を探るのと使える人材を探そうとしていたのよ」
獣士隊はワイルドビート国の主力兵団であり、各獣人族によって編成された総数五十の獣士隊が編成されている。
「首都にいるはずの五つの獣士隊とも連絡が着かないし、冒険者ギルドも険悪な状態で依頼は出せないし正直お手上げ状態よ。 一応総隊長が他の獣士隊に声をかけているけど、それもどれだけ集まるか」
カシミールは深くタバコを吸うと、白い煙をため息と共に吐き出している。隊長から見てお手上げならば状況は最悪、僅かな間に中枢部だけではなく、何かによって首都をおかしくさせていると見たほうが良いかもしれない。
「それで、あんたらは使えそうだけど、どうだい雇われるつもりはあるかい?」
「冒険者として雇われるならいいですよ~。 ミノタウロス族なら良くある事ですし~」
ミノタウロス族でも温厚でのんびりしているミルモウ一族、それでもナルタは村の防衛戦で戦いなれているし、ダンジョンでも魔物とかなり戦っている。例え人間や獣人が相手でも命を絶つことに躊躇はないだろう。
「私も報酬と詳細な内容次第ですが、依頼主はあなたですか?」
「・・・・・・一応はあたしだけど、あんたらの冒険者ランクと登録先を教えるのが先よ」
ギルドカードを提示すると余り良い表情はしなかった。恐らくB級以上を望んでいるのだろうけど、私は常時出されている討伐依頼がほとんどだし、ナルタも討伐依頼とギルド公認の雑用依頼ほとんどだった。しかしアースドラゴンとワイトキングを倒してギルドに報告したので、B級に上がるための学科試験を受ければ私の昇級は可能と連絡が来ている。本来は実技もあるのだがアースドラゴン単独討伐実績によって免除となっている。ナルタも先日C級に上がったばかりだ。
「まぁいいわ。 これ以上集めるのは時間的にも難しそうだし、あなた達で最後よ」
異世界を戦車として進む
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