3.依頼遂行
領地内に居た時も、獣狩りなどやってある程度収入は得られたが、良い武具を買えるほどの稼ぎではない。依頼掲示板の前に移動すると、多くの依頼の中で気になるものがあった。
ランクD
依頼 護衛
対象 荷馬車の護衛
報酬 1万フリス
委細 王都と農村部の往復中現れる獣等の退治。正午出立、夕刻帰還。
悪くはない報酬。夕刻に帰還となれば、夜営による危険性がなくて済む。依頼を受けて集合地点に移動するとすでに3名が集まり、私で最後の一人だったようだ。
「今回はC級の俺がリーダーとして護衛部隊をまとめる。 まぁ何度も受けてる依頼だし、往復の間だけだが頼むわ」
全員20代後半だろうか、私が場違いな気がするのだが全員気にしている様子はない。経験もあり雇い主の信頼を受けているならリーダーであるのは頼もしい。
「ランクD、戦士で獲物は斧だ」
「ランクD、魔導士、火の魔法を得意としている」
最後は私の番らしいが、誰一人名乗らないなら情報を出す必要性はない。
「ランクD、魔法剣士、獲物は片手剣、回復魔法は並」
「では出発しよう。 君と私が前列を担当する」
荷物を載せた荷馬車の前後に二人ずつ、行きは空の荷馬車の為問題は何も起きず、農村に到着する事は出来た。
「気を引き締めろよ。 荷が入った以上、盗賊やゴブリンが食い物狙いで襲ってくるからな」
リーダー役の戦士が言うとおり、農作物を詰まれた帰路の方が襲われやすい。人間にしろ魔物にしろ、食べ物の匂いに引き寄せられる。
道半ばに到達したとき、街道沿いの森から小さい鳴き声が僅かに聞こえている。正確にはわからないが、通常種ゴブリン8体くらいだろうか。
「来たぞ! ゴブリンが8体だ!」
森の間から緑色の体色をした小柄のゴブリン現れる。
気付いたリーダーの戦士が剣を抜くと、荷馬車とゴブリン達の間に移動する。他の冒険者達も武器を構え、魔導士は炎の玉を杖に宿らせていた。森が目の前にあるのに、炎系を使うのは問題がある気もするが、そうはいってられないか。
「《アイスシックル:ツイン》」
両手に氷の鎌を構成。先頭に飛び出してきたゴブリンに向けアイスシックルを投擲、2体のゴブリンの頭に深く突き刺さり、そのまま地面に転がった。
転がったゴブリンは木や骨で作られた槍や斧を持っている。緑の体色とあわせて考えても、ただのゴブリンだろう。もしこれが人型の雌全てを狙うブリード種なら大騒ぎだが、他のゴブリンやオークの雌も狙うため、徹底して敵対されている為滅多に見ることはない。
「炎よ! 《ファイアボルト》」
すでに一体が魔法で焼き殺され残りは3、連携が取れていたわけではないが、5分と掛からずゴブリンを倒し、討伐報酬確認用と素材して耳と腕を確保していく。ゴブリンは危険生物として常時討伐対象として確認用部位を持ち込めば報酬が得られる。
その後襲ってくるものはおらず、無事王都に到着する頃には夕方になり、ギルドで報酬の受け取りと配分が行われた。
「報酬の1万フリスと8体のゴブリンで一人頭プラス1200フリスだな」
リーダーだった男から各自に報酬が配られる。ゴブリン一体辺り600フリス、リーダーやロードとなると価格も一気に上がるそうだが、対処クラスはC以上でこのメンバーでは難しい。
以前セズ兄にゴブリンロードとゴブリンリーダーが支配する集落の真ん中に転移させられ、生き残る為に必死で戦ったが、今思い出すと私は良く生き残れたものだ。
「大丈夫ですか? お怪我をしているのなら、併設の治癒院にいかれてはいかがですか?」
嫌な事を思い出して無意識に額に手に手を当てていたらしく、体調が優れないと思われたのかギルド受付嬢が顔色を伺いながら話し掛けてきた。
「あ~、いえ、大丈夫です。ちょっと気疲れしただけですので」
適当に大丈夫だとはぐらかしておく。言った所で信じてはもらえないのはわかっている。領地内でもセズ兄が説明しない限り両親や兄達を除いて誰も信じなかったのだから。
「ところで、数日滞在したいのですが、近くに良い宿はありませんか」
受付嬢はギルドの冒険者の案内役でもあり、街や村に着いたばかりの冒険者に宿屋や武具店などを紹介する役目も持っている。入学試験が終わるまで休める場所を確保して、今日のところはもう休んでおきたい。
「ギルドの向い隣にある宿が手頃でおすすめです。 提携先ですので冒険者なら割り安で泊まることができます」
「ありがとうございます。 そちらによってみます」
礼を述べると向かいの宿に向う。明後日の試験、明々後日の試験結果まで泊まる事が出来れば、後は安全であればそれでいい。ギルドを出てすぐ向かいの宿は比較的新しい建物で、入り口から中に入ると小奇麗なカウンターの前には数人が受付を行っていた。
壁に掛けられた料金票を確認すると、一泊800フリスから2000フリス、食事は併設食堂で100フリスから600フリス、悪くはない。4日分の支払いを住ませ、個室に戻るとタオルで体の汚れをぬぐい、ベッドに横になる。
風呂に入りたいところだが、ただの宿でそれを望むのは不可能な話だ。高級宿や貴族御用達の宿なら浴場はあるのだが、標準的な宿にそんなものはない。明日の朝は早く起きて依頼を受けに行こう。そう決め早く眠る為目を瞑った。