35.力の必要性
塩となった二人目の転移者、塩とはつまり肉を持たず、肉体の枷をかけられていないということ。
肉体はいわば生命体としての限界点、それを越える為に魔法で枷を緩め、枷でもある器が壊れないよう維持し、限界を超えさせる。身体強化魔法は、いわば枷を緩めながら器を強化していることだ。
だか枷が元よりないのなら、いくらでも強化できる。それこそ魂が許す限り、上限無く強くなれるはず。
正直今の私は武器も、技術も、戦闘技術も不足しすぎている。兄の戦いをみて、多くの点で不足している事が良く分かった。今までは暴走させるだけでも、転生者に勝てると思っていたが、一人目と二人目を見る限り、そう甘いことは言っていられないと感じている。
今は暴走させる事しかできない力を、制御できるようにしなければ、本来の力を発揮する事などできない。ほんの僅かでも制御するきっかけさえ掴めば、少しずつどうにか出来るのだが、その為には開放した状態で一定時間力を使い続けること、その方法で慣れなければならない。
つまり力の完全な制御を出来るようになる為に、力を使った状態で何かと、戦わなければならないということだ。だが兄は立場上不可能、その他の誰かに知られるわけにもいかず何かしら方法を考えないといけない。
やるべき事が多いが、治癒の魔剣を常時帯剣していることで、魔剣への魔力の流しかたや制御方法は慣れ始めているが、ただそれだけだ。
そして治癒術についても、兄の治癒速度と比較して現状は遅すぎる。いくら魔剣を使ったとしても、私自身も治癒術に関して、知識が浅過ぎて力を使いこなせていない。
治癒術を向上させる必要性を感じたのだが、知っているのは自己治癒系か、反動覚悟でラクシャを治療した神聖系治癒術のみとなる。一度しっかりと知識と技術を磨いた方がよさそうだ。
「別に構わないよ。ナルタには色々教えたいからね」
二週間ほど技術を学び直したいと二人に伝えると、酒と鍛錬、そしてダンジョンでナルタと共に狩りに行くと、ラクシャ達は了解してくれた。ラクシャとしても最下層のアースドラゴンを狙う事を考え、30層まで降りてレッサードラゴンとオーガ相手に腕を磨いてるそうだ。
アースドラゴンから取れる素材は高値で売れるし、アースドラゴンそのものを素材として使った武具もいいかも知れない。アースドラゴンは下位に属するとはいえ竜種、その柔軟性と強度は、鋼鉄と革で作られた防具より遥かに優れている。
一方でレッサードラゴンは、竜種ではあるが最下位に属し、強さこそワイバーン種上回るものの、素材としての価値は最上位のリザードマン種に劣る。
翌日から学ぶため養成学園に在る蔵書保管室を訪れた。蔵書数 数万を誇る王都でもっとも大きな書庫であり、貴族や騎士、そして養成学校に所属するものなら、誰でも保証金を支払う事で閲覧する事が出来る。ここで治癒術を勉強し直すつもりだ。
治癒術に関する棚を見かけ、何冊か分厚い魔道書を調べ、神聖術でなくとも治癒効果の高い魔法はいくらでもあるようだ。
著者の欄には魔法ギルドの印と見知らぬ名前が書かれている。魔法に関する研究は魔法ギルドによって行われ、新しい本には所々に兄セズの名が見える辺り、随分と研究成果をあげているようだ。
だが問題は、どれだけ読めば終わるか分からないほど、陳列された本が並ぶ棚だ。だが知識を得るには理解できずとも、まずは読んで置かない事には話しにならない。深くため息をつくと、肩に乗っているリーアナに話しかける。
「・・・リーアナ、すまないが頼みがある」
一緒についてきたのはリーアナだけでジノとエルは部屋で寝ているし、ラクシャとリヒトはナルタをつれてダンジョンに潜っている。
「なんでしょうか」
「魔法を使って意識を速読と理解に優先する。 影響で反応が鈍くなるからサポートを頼みたい。 いいかな」
「わかりました。 お任せください」
非常に難しい兄セズの魔法学、そのレベルについていけないこともあり、そのために態々兄が製作した強制勉学魔法。
異常なまでに集中力を発揮させ、理解力を引き出すのだが、反動として効力が切れた後は酷い倦怠感に襲われるため、出来れば使いたくはなかった。食事を取る事さえ億劫になり、眠っても夢はその内容ばかり、思ったよりも精神的苦痛が酷い代物だ。
それから毎日朝から晩までひたすら書を読み漁り、やつれた顔をしながら寮に戻り寝るだけの日々を過ごした。そして16日間休むことなく連日通い詰め、治癒術に関しては読み終えることは出来た。
本の内容は治癒魔法そのものよりも、魔法ギルドによって考案され、魔法の理論や魔方式による効果の向上や、消費魔力の減少などが殆どであり、幼い頃習った単純なヒールでさえ2~3割程度、私が知る物より効果を上げつつ、魔力消費量を1割程度下げられるようだ。
一方で治癒術の影の部分、死霊術及び人体の構造について詳細に記載されており、ゾンビの作り方などが記載されていた。生死は表裏一体、治癒術の反術である死霊術を詳しく知る事もまた治癒術の向上に繋がる。
「死霊戦士の作成・・・・・・か」
魔剣の中にはそういった技術に極めて長けるモノがある。多くの戦士の死体を組み合わせ、最強の死霊戦士を造ろうとした最高峰の死霊術師、神殿からは下種だとか屑だとか言われていたが、死の神への信仰を熱心に捧げ、知性さえ失った怨霊の魂に理性を与え、家族に最後の言葉を伝える。
殺され恨みによって亡霊化したモノの話を聞き、動くだけのゾンビやスケルトン、そういった魂を静める知性人でもあった。
この世界も知識や技術の蓄積によって、徐々にだが着実に魔法は進化している。それを伝達する方法が、学園という枠のみなだけで、恐らくドワーフの蒸気機構学も、転生者や転移者が居なくても発展していくだろう。
それ故になおさら考えてしまう。何を焦って外部のモノを引き込み、急速に発展させようとしているのかと。
最低限気になっていた治癒術の知識の再確認はできたし、今は寮に戻り次の転生もしくは転移者を探す為の手段を考えなければならない。
一番有力なのはブレーカーガントレッドを製作したモノだが、技術を広めている様子も無く、これもさほど問題になるとは思えない。
やはり大事を起こし、どこかに隠れているモノを引っ張り出すしかないのだろうか。




