23.予算不足とこれから
元々ナルタは村の出張ギルド所で簡単な依頼を少しずつ受けていたため、D級の資格を持っており、分配は増えたが、一度に討伐可能な数も大分増やすことが出来た。さらに報酬の分配方法を少し変えることで予算枠を設け、ダンジョンや旅に出る時の予算は優先して使用する事とした。
こうでもしないと魔導蒸気列車などに乗るとき、私の貯蓄のみが急激に減ってしまう。 これからは長距離移動や泊まる為にかかる費用を予算から捻出する事で少しは楽になるだろう。
今回の分配で全損したブレーカーガントレットを、やっと新造することが出来る。前回の戦い、幸い相手が戦いの素人であった為、大した怪我もなく倒すことは出来たが、次もそうだとは限らず、転移者・転生者を倒すには今の私ではリスクを負っても黒の力に頼らざる得ない。
またそういった存在から武具を与えられたモノは、素人でもAクラスやBクラス冒険者並みの強さを持つ。こちらも私の記憶から強力な武具を、多数作り出せばいいのかもしれないが、それでは世界を乱す転生者達となんら変わらない。
この世界の技術・魔法によって作れるものでも、あの神器ともいえるフルプレートアーマーに、ブレーカーガントレットが通じたように、この世界の現象下にある物体なら、壊す事も倒すことも可能と言う事だ。
あの後機構士と話し合い、ブレーカーガントレットは一撃に特化させ大型化と重量増加、中級爆発魔法のエクスプロージョン対応、必要な強度と構造を話し合ったが、結果として品質の良い鋼と魔石を使用する事で製作することになっている。
一番の問題はミスリル製の杭、ミスリルと金とほぼ等価値なだけあり320万と異常に高いことだ。まだ100万ほど足りず、あと数回ダンジョンに潜るしかないだろう。もしくは偶然にでもミスリルゴーレムという、一攫千金ともいえる存在に出会うかだが。
「余計な事考えてないで早く帰ろう」
「不要な心配などせず寮に戻りましょう。 ちゃんとした夕食は久しぶりなのですから」
やはりエルとリーアナは心が読めている。人間とは思考が違う故に躊躇もなければ遠慮も無いが、おかげで敵意や隠し事など二人の前では無意味だ。
「獣肉もいいが、たまには魔獣肉で一杯やりたいな」
ラクシャはある程度はお金を溜めているようだが、リヒトは分配のほとんどを酒と武具に使ってしまっている。鬼人族は酒で散財するというが、リヒトもその例から離れる事はないようだ。
「それじゃ、あたしらは食べ物を買って先に戻ってるよ。 あんたはどうするんだ?」
「私は少し依頼を確認した後帰ります。 分配金で移動可能な範囲にも、良い依頼があるかもしれませんし」
マッドネス討伐の功績でCランクになるにはあと一つ、ギルド公式依頼を受ければ昇格できる事になっている。
ただし、ブレーカーガントレッドの新造代がかさみ、まともな剣も買えず格安で売られていた、鍛冶新人達が作ったブロードソードが一本があるだけという有様、できれば何かしら依頼を受けたいのだが、どれも遠方への護衛や探索など時間がかかるものばかりで、短時間で終わりそうなものは見当たらない。結局何も依頼を受けることなく寮に戻った。
「グレンさん宛てに書簡が届いています」
自室に戻る前、寮の入り口で管理人から書簡を受け取る。誰からなのか疑問に思いながら部屋で留め印を確認し、急いで書簡を開き中を確認すると冷や汗が流れる。内容は公爵邸への召喚、三日後来るように書かれている。
「誰からだい?」
すでに幾らか酒を飲んでいたラクシャとリヒトは、ややほろ酔い上機嫌。酔いを醒ますような事は言いたくないのだが。
「エウローリア・レナード・ロストランテ・アエラキ・デュークウーマン・オーディン公爵邸 白鳳騎士団 副長からの召喚状、 ラクシャ達も一緒に来てく」
「そんな面倒な事断る」
酔いが醒めたのかラクシャは酒瓶を持って部屋に引っ込んでしまう。公爵邸に赴くとなると、礼儀作法や服装まで気をつけ、堅苦しい事この上ない。一応貴族としての服一式は持ってきてはいるがそんなことどうでもよくなる。
エウローリア公爵家。オーディン王国内において王位継承権を持つ。当代は女性当主であるが、その実力と人格から王に相応しいとまで言われ、直下の白鳳騎士団や十騎士団を従えている。兄アークスが所属しているのも、その白鳳騎士団であった。




