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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
1章 王都での戦い
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18.ミノタウロス族の村

 終着駅、そこは要塞都市とも言える終端の町 ニールグン。

 車中で車掌から聞いた話では、ここから先には小さな村々が点在し、非常時はこの要塞都市から派兵されることになっているそうだ。王都には劣るものの防壁で囲まれた都市、多くの兵士が巡回し、魔物の襲撃にも対応している。

 

「でっかい町だな。 おっ、姉さんあそこで鬼人族の服が売ってるぜ」


「いいじゃないか。 懐もまだ暖かい内に数着買っておこう」


「町を出る準備を分担もあるので、ラクシャもリヒトもそれからにしません?」


「馬車は俺が買ってくる。 集合場所はあの馬車屋の前だな」


「あたいは食べ物と酒だな」


「情報と酒は自分が酒場で調達します。 食料とジノを御願いします」


 情報を得るには基本酒場な事はどこも同じ、酒が入れば口は軽くなり、奢ると成ればさらに聞きやすくなる。二人と別れたあと酒場に入ると、随分と賑わっていた。終着駅な事ことから周辺から王都へと、向う物資や人々が集まっているのだろう。奥のカウンターに座りオーダーを頼む。

 

「薬草茶をください」


 こちらを数人の冒険者が頼んだ物を嘲笑う声が聞こえるが相手にしても意味がない。

 

「この辺で傭兵団を見かけてませんか。 荷物を届ける依頼を受けているのですが」


 所詮は方便、薬草茶を受け取りながら僅かな金 1000フリスほどを握らせる。

 

「あぁ、そいつらなら一週間前に向かいの店で食料を買い込んでったよ」


「どちらに向ったかわかりますか」


「さてね。 ちょっと思い出せないなぁ」


もう少し金を要求しているようだ。面倒だが大抵の情報は金次第、むろん守秘させるのも金次第だが。


「一週間前になると中々思い出せませんよね。 それと酒樽を買いたいのですが」


「あー そうだな。 ちょっと裏にあるから直接選んでくれ。 案内するからよ」


裏の倉庫に案内されたところで、5万フリスほど握らせ酒樽を渡される。


「村から西に出て行った。 4日ほど歩いた先にミノタウロス族の村があるから、そちらできいたほうがいいだろう。 だが何人も冒険者を見てきたが、あれはまともな奴らじゃないな」


「いい酒ですね。 こちらは静かに御願いします」


追加で10万フリスほど握らせ、口止めを支払い樽を担いで表に出て行く

<まともな奴らじゃない> 酒場の店主がそんな事を言うような傭兵団、嫌な予感がしてならない。馬車屋の前に行くと、すでに準備が出来たラクシャとリヒトが荷物を積み終え待っていた。


「それじゃあんたが御者な。 あたいらは一杯飲んでるからさ」


どこから調達したのかすでにラクシャとリヒトは干し肉をあてに酒を飲んでいる。


「わかりました。 他の食料は二人の亜空間倉庫?」


「あたいが往復4日分と、念のため2日分をリヒトが持ってるよ。それでどこに向うんだい?」


「西にあるミノタウロスの村で聞けば、分かるかもしれないそうです。 徒歩で4日だそうなので、馬車で二日ちょっとでしょうか」

 ミノタウロスは亜人族であり、体長1.9~3メートル程度の種族。人の姿だが力強く頭部に角を持っている。昔はダンジョンの守護をしていたそうだが、今は村で人間と共に暮すものがほとんど。

 馬を操り続け二日目の夕方、向かい風から僅かに木材が燃える臭いがしてくる。


「ジノ!」


 ラクシャは声を上げると荷台からジノと共に飛び降り、一足先に森を抜けた先に在ったのは焼き討ちされた村の残骸だった。


「くそっ!」


「マッドネスの奴らがやったのか」


 リヒトは馬車を降りると斧を両手に掴み、警戒しながら死体を確認していく。遠めに見ても元は人間だっただろう死体は複数転がっていたが、ミノタウロス族と思われる死体はない。馬車を引きながら死体を調べてみるが、所属がわかるものは何一つ落ちたりもっては居ない。


「どうやら被害に会う前にミノタウロス達は逃げたようだが、戦士でもついているのか?」


 リヒトはいくつかの死体を確認し状況を把握している。たしかに人間の残骸は叩き潰されたり 巨大な武器でなぎ払われたように無残なものだ。地面にすり潰された死体から察するに2mは超えるだろう巨体から繰り出された何かだろうか。

 これがもし人間だとしたら、強力な身体強化魔法を使い 桁外れに馬鹿でかい武器を使わないとこんな芸当は無理だ。


「少しずつだけど、死体が一方向に向ってる。 そちらに行けばいるはずだが」


 死体の残骸を追い続け、村から1時間ほど離れた場所に砦を囲う傭兵団を見つけた。砦は100~200人程度篭れるだろう大きさのものだが、周囲を完全に囲まれてしまっている。


「姉さん。 砦の上にミノタウロス族がいる」


 遠めではっきりとは見えないが、角のある大きな人間といったところか。


「あれは攻め切れてないって感じだね。 ミノタウロス達も結構やるじゃないか」


 砦に篭り抵抗しているようだ。数人居る大柄なミノタウロスが、魔法や弓を受けながらだが、砦の上から巨大な石を投げつけている。大きな岩など原始的な物しか見当たらない上に、10にも満たない人数しか見えないが、攻城兵器がなかった為に攻め切れていないのだろう。

 これからどうしたものかと考えているとエレとリーアナは肩に乗り耳を引っ張る。


「グレン、人間の群れの中に一つだけ気配があるよ」


「間違いなく転生者です。 でも誰かまでは」


「・・・・・・そうか」


 やはりエルとリーアナは、テラス神様に関わりのある精霊だったようだ。突然現れたのも、ラクシャとリヒトを助けるように言ったのも、恐らくテラス神様のお導きだ。

 大きくため息をついたあと、ラクシャとリヒトの方を向くと覚悟を決める。


「ラクシャ、エルとリーアナと共にミノタウロス族の守る砦に行ってくれるか。 こちらが夜明け寸前に奇襲をかけるが、火柱周辺に決して近付かないよう伝えてくれ」


「火柱・・・・・・か。 あんた何をやらかす気だい」


ラクシャは酔っていなければ勘が鋭い。出来れば普段から禁酒して欲しいものだが無理な話か。


「荒々しい精霊を召還して可能な限り焼き尽くす。 制御はほとんど出来ず近付けば、ラクシャもリヒトも巻き込んでしまう」


「俺達もか。 それは召還といえるのか?」


「召還ではある。 従順な性質ではないというだけさ」


 もっとも魔道士の兄セズから引き継いだというか、押し付けられた召還魔法だが、ほとんど制御が利かない代わりに、威力は破壊力と範囲は絶大で単独で群を相手にするには適している。


「念のため確認しておくが、本当に全員でいいんだな?」


 ラクシャはマッドネスが所有する奴隷達の事を言っているのだろう。遠くから見ても傭兵団のやつらは、昼間から酒を食らって奴隷を殴り犯している。あれでは傭兵団ではなく、盗賊や強盗団のようなものだ。奴隷も恐らく買われた者がほとんどだろうが、誘拐されてきた者も居るはず。

 

「生存者は居なくていい」


 残念だが奴隷を救う余裕はない。たった3人と1ウルフで何が出来るというのだろう。神の如き力があれば救う事も出来るだろうが、私はただの使徒に過ぎない。


「あんたに覚悟があるならいい。 リヒトあんたも準備をしておきな」


「あぁ、久しぶりの戦場だ」


やはり鬼人族は頼りになる。人間なら大多数相手に戦いを挑むなど、正気では引き受けたりなどしない。


「私ハ見学サセテモラオウ。 毛並ミガ燃エテハ困ル」


「ジノは好きな場所で待機でいい。 エレとリーアナは、ラクシャと一緒にいってくれ。 誰かが一緒に居ないと戦えない二人は危険だからな」


「それじゃ夜まで一眠りしよう。 何をするにしても昼間はないわ」


「馬は逃がすぜ。 獣が寄ってきて手間がかかるしな」


 どこかに繋いでおいても獣にやられかねないため、馬車につながれていた馬を放してしまう。帰り道に困るかもしれないが、最悪歩けばいいだけのことだ。離れた場所に繋いでおいた荷馬車の所に戻ると、夜になるまで食事をしつつ休憩となった。

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