166.聞き取り
当初は警戒をしていたが、酒が入り食事を勧めるうち少しずつだが、フィリップス兵士長について話し始めてくれた。
「悪くはないんですよ。 実際に強いですし、大会でも準優勝してますから」
酒が入ったコップを片手に多くの兵士たちが話し始める。
「頭が古いんですよ。 気合に根性ばかりで」
「他の訓練教官は、精神論ももちろんいいますけど、ちゃんとあれこれ考えてくれてますよ」
「それにあれですよ。 気に入らないとすぐに冷遇しますので、自分も転属した口です。 機嫌が悪いとそれだけでぶんなぐってきますし」
詰め所の兵士達からは、酒が入ったことで口が軽くなり色々話してくれた。
フィリップ兵士長は、個人としては優秀でも、指導者や管理する立場にはまったく不向きな人間ということだろう。
「それにですね。 武具や食費の固定天引き、あれ取りやめて懐に入れてるんですよ。 若い奴は自分で出すもんだと言ってる割にひどいもんです。 その事を伝えようとするとぶんなぐられるし、その上の騎士様が出張ってくるんで何も言えないんです」
騎士が関わっているとは、情けない限りだ。
自分の実力もあり、そして力を振舞える後ろ盾もある、そんな状況では自由かつ横暴に居られるだろうう。
貴族として兵士に頭を下げる事は立場上出来ないが。
「次からは不当過ぎる命令や行為は管理部などに相談するように、そちらで対処するよう話しておく。 今回については私が対応しよう。 今回は皆、対応が遅れて申し訳ない」
今できる事は謝罪の言葉が精一杯となる。
「あっ! いえそんなことはありませんよ!」
「いいぇ! こちらも上伸がおくれもうしわけありません!!」
多くの兵士たちが慌てだす、ここまでする貴族や騎士は滅多にいないだろう。
恐らくいたとしてもリーゼハルト公爵家のものだけだろうか。
兵士の詰め所を後にし、集められた情報を精査する為にいったん帰宅。
分かった限りの情報から、フィリップス兵士長の後盾となっている騎士を、おそらく貴族騎士だろう人物を特定し対処する。フィリップス兵士長についてはそのあとになるだろう。
対処といっても、止めるように促し、聞き入れないようなら実力行使に出る以外ない。
何分国家としてそう言ったことを犯罪行為として規定はしておらず、ただのやっかいかつ問題児程度の認識だろう。
それを大多数のまともな貴族や騎士が対応するからこそ、この国家は持っている。
ロセ団長への相談に赴くと、また第二夫人の話がされるかもしれないが、騎士にまつわる関係ならば聞いた方がいいだろう。
他に話を出来る知り合いが居ないというのもあるが、なんであれ歴戦の騎士であるロセ団長は、論理的に物事を考えられ、団長にふさわしいしっかりとした考えを持っていた。
もし、第二夫人をどうしてもというなら、ロセ団長を選ぶだろう、そんなことはありえないが。
翌日、ロセ団長の下を訪れ話を通すとため息を付かれた。
「情けない。 騎士たる者がそのような事に手を出すとは」
「騎士内の確認は目が届いても、兵士への関りについては目が届いていないようです」
「恐らく準男爵か騎士爵あたりだろうが、戦後はこうも質が落ちるか。 今回の一件はリーゼハルト公にも報告し、該当の騎士は捕えるように。 私は団長会議を招集しなくてはならなくなったのからな」